月夜のドライブ

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小出恵介さん出演 チーズtheater『ある風景』 @ 座・高円寺

小出恵介さん出演の舞台ということで観劇。座・高円寺は最近足を運ぶことの多い会場だけれど、まさかここで小出恵介さんを観られる日が来るとは。チーズtheaterは、(私は寡聞にして知らなかった)映画監督でもある戸田彬弘さんの主宰劇団だそう。小出さんのインタビューで読んだところによると、昨年の劇団時間制作『12人の淋しい親たち』を戸田さんが観て、今回小出さんに声をかけたとのこと。小出さんが出演ということ以外はまったく未知の劇団・ほとんど未知の役者さんばかりなので(續木淳平さんだけ『中国の不思議な役人』で観たことがある)、どんな感じなんだろう…とやや緊張しながら臨んだ。(あとから追加で知ったけれど、續木さんは小出さんの出ていた『盲導犬』にも出演されてたと!)観たのは6/24(土)、客席は満員。

 

チーズtheater 第7回本公演『ある風景』
2023年6月21日(水)~6月25日(日)(全7回公演)
座・高円寺1
作・演出:戸田彬弘
出演者:小出恵介小島梨里杏/大浦千佳(チーズtheater)/當山美智子/蒼大/大熊杏優/池畑暢平/續木淳平/中野歩/間瀬英正/松戸俊二(劇団離風霊船)/みやなおこ
一般チケット:前売り・当日(自由席):4,500円
プレミアムチケット:前売り・当日(自由席):6,500円 ※特典:最前列席、上演台本付き(QRコード

 

 

舞台にしつらえられているのは、日本のどこにでもありそうなリビングダイニングと、続きの畳の部屋。そしてその奥に見えないけれど仏間があり、廊下はやはり見えない風呂場と玄関と二階への階段をつなぐ。とてもありふれた家だ。このありふれた風景の中で、冒頭、ひっそりと大きな事件が起こる。観客は、最初にこのショッキングなできごとの目撃者となった後、大きな謎を抱えたまま、ミステリーを少しずつ紐解くようにそのあとの芝居を経験していく。

 

ストーリーのほとんどは、冒頭の事件に至るまでの過去の時間を描く。多少の波風はありながら日常は淡々と平和に流れ、家の中心にいる初老の母親は、どこまでも明るく優しく温かい。なぜこの母と家族があんな悲劇に見舞われなければならなかったのだろうと、点検するような目で過去を見てしまうのだけれど、この家族に特別な何かがあるわけでない。あの悲劇もありふれた風景の延長で、つまり私たち観客の日常と地続きだということ。

 

過度な脚色や大仰な感情の発露があるわけでもなく、ストーリーは淡々とすすむ。リアルな空間の中だけに、ともすれば話が単調になっていってしまうのではないかとも思ったけれど、それは杞憂だった。丁寧に紡がれた物語が、役者たちの丁寧な演技によってどんどん拡がりをもち、2時間10分のあいだに驚くほどの多層さを見せる。主役は長男である肇であり、母親だけれど、登場するすべての人物の感情や思いや都合が丁寧に描かれ、丁寧に演じられていて、だからこそたぶん、多様な物語が存在する濃密な舞台となっていた。

 

家族でいることのたくましさと、家族でいることのはかなさ。その振れ幅のあいだを、登場人物たちは(そして私たち観客も)始終行き来する。実によく「食べる」シーンが出てくるお芝居で、そこに家族や家というもののたくましさや強さやゆるがなさを感じて安心する。母親が出してくれるそうめんやフルーチェは、問答無用に最強だ。これにかなう料理なんてありはしない。でも次の瞬間、最強の料理も、実は苦手な人がいる、というもうひとつの現実が描かれる。そうめんなんて地味だし飽きたから食べない。多すぎるフルーチェは少し残してしまう。母親の親切な「食べなさい」はうっとおしい。外で食べたほうが楽。

 

そこに存在する「家」もそうだ。観客である自分の記憶とも重なる、ありふれたダイニングキッチンと畳の部屋は、ゆるぎない安心の象徴だけれど、話が進むにつれて、私にとっての「家」はあなたにとっての「家」とは全然違うんだということに、だんだん気づかされて驚く。母にとって。長男にとって。長男の彼女にとって。長女にとって。長女の息子にとって。次女にとって。母のヘルパーであるご近所さんや、いとこや、長男の昔なじみの友人にとって。そして後半に登場する母とつながりのある男にとって。自分が安定した場所だと思っていた「家」や「家族」は、私じゃない別のあなたにとっては、全然違う場所であり、全然違う顔を持っている。当たり前のようで気づきにくいそのことが、一人ひとりの台詞や仕草の積み重ねと丁寧なやりとりによってだんだんと露わになってきて、はっと深淵を覗きこむような気持ちになる。

 

子は親に反抗し、親は気持ちの伝わらなさにイライラし、お互いの思いはすれ違い、家族の絆なんて嘘だと絶望的な気分にもなる。でも、やっぱり家のカレーはおいしいし、人を脅かす黒い虫が出れば一致団結して見事なまでの連携プレイで仕留めて笑い合える。はかなさも、たくましさも、家族だ。「家族」として括られる一人ひとりが複雑で表も裏もある存在であることを、手間を惜しまず細やかに描く脚本・演出と、倦まず丁寧に表現する役者さんたちがとてもよかった。

 

そして、あらためて、小出恵介さんの“逡巡”は絶品だ、と思う。以前にも書いたけれど、これだけの錚々たるキャリアがありながら、どんなお芝居でもまるで初めてのように生き、器用に「うまく」演じてしまわないことに毎回驚く。あの気まずさ、優柔不断さ、手持ち無沙汰さを、他のもので埋めてしまわないのが、小出さんの稀有な魅力なのではないかなと感じる。

 

最後の最後で、もうひとつ大きく驚かされた。カーテンコールの後にリプリーズのように本編に戻る、あんな構成のお芝居、あまり見ない(カーテンコールの前ならあるかもしれないけど)。冒頭では観客にとってただの「センセーショナルで衝撃的な事件」だったこと(下世話に言ってしまうとそれが観客をエンタメに巻き込むトリガーとしても機能していたわけだけど)について、2時間後には当事者として、家族の一員として、それぞれの立場で深く考えこまされてしまう。母親の最期は、平穏なのか悲劇なのか、幸せなのか不幸せなのか。2時間のあいだに、他人事が自分事になり世界が変わって見えてくる。

 

役者さん一人ひとりにもいろんなこと思って(大浦さん長女のサバサバ感が魅力的とか、次女役當山さんの陽気さと影がよかったとか、いとこ役の池畑さんオモロすぎやろーとか、友人役の續木さん調子いいな!とか 笑)、まだまだ感想書き切れていない気がするけれど、いったんこの辺で。真摯さと丁寧さで描き切る芝居、その過程には緻密な稽古と試行錯誤があっただろうなと想像する。私にとっては普段あまり観ないタイプのお芝居だったけれど、観られてよかった。小出恵介さん、作・演出の戸田さん、キャストのみなさん、スタッフのみなさん、ありがとうございました!

 

 

座・高円寺 夏の劇場08 日本劇作家協会プログラム
チーズtheater 第7回本公演「ある風景」
公演期間:2023年6月21日(水)~6月25日(日)(全7回公演)
会場:座・高円寺1(〒166-0002 東京都杉並区高円寺北2-1-2)
企画・製作:劇団チーズtheater/制作協力:チーズfilm
作・演出:戸田彬弘/音楽:糸山晃司
舞台監督:吉川尚志/照明:上田茉衣子(LICHT-ER)/音響:水野裕(空間企画)
舞台美術:荒川真央香/制作:塩田友克/演出助手:永田涼香、鷲見友希
宣伝美術:下元浩人(EIGHTY ONE)/宣伝写真:井出勇貴
提携:NPO法人劇場創造ネットワーク/座・高円寺

【出演者】
小出恵介小島梨里杏/大浦千佳(チーズtheater)/當山美智子/蒼大/大熊杏優/池畑暢平/續木淳平/中野歩/間瀬英正/松戸俊二(劇団離風霊船)/みやなおこ

【公演スケジュール】
6月21日(水)19:00
6月22日(木)19:00
6月23日(金)14:00/19:00
6月24日(土)13:00/18:00
6月25日(日)14:00

■チケット
一般チケット:前売り・当日(自由席):4,500円
プレミアムチケット:前売り・当日(自由席):6,500円  ※特典:最前列席、上演台本付き(QRコード

■公式サイト:https://www.cheese-theater.com/
■公式Twitterhttps://twitter.com/cheesetheater