月夜のドライブ

ラブレターバンバン書いて紙飛行機にして 宛てもなく空に飛ばすブログです。▶プロフィールの「このブログについて」をクリックで記事一覧などに飛べます。

【あとからメモ】劇団時間制作『12人の淋しい親たち』 @ 東京芸術劇場 シアターウエスト

(だいぶ時間が経ってしまったけれど、9月末に観た、劇団時間制作『12人の淋しい親たち』の感想文を書いてアップしました。2022年11月)

 

俳優の小出恵介さんが出演すると聞き、だいぶ前にチケットを買って楽しみにしていたお芝居。私は今回初めてだった「劇団時間制作」。2013年に旗揚げし、主宰の谷碧仁さんがすべての脚本・演出を手がけている劇団とのこと。ストレートな現代劇(正確には舞台は現代より少し先の将来)だと事前に聞いていたので、私自身は普段あまり観ないタイプのお芝居かも…と思いながら9/27(火)に観劇。


劇団時間制作第二十五回本公演
『12人の淋しい親たち』
2022年9月22日 (木) ~2022年10月2日 (日)
東京芸術劇場 シアターウエス

前売:6,500 円
割引日:5,500 円
U-22割引日(引換券):3,500 円
(全席指定・税込)

◆出演者
陪審員長 …ドロンズ石本
陪審員2号 …佐々木道成(劇団時間制作)
陪審員3号 …小出恵介
陪審員4号 …富田麻帆
陪審員5号 …太田将熙
陪審員6号 …田中真琴
陪審員7号 …橘 麦
陪審員8号 …須賀貴匡
陪審員9号 …佐瀬弘幸
陪審員10号…杉本有美
夫     …織部典成
妻     …岡本夏美

◆スタッフ
脚本・演出:谷碧仁
舞台監督:金安凌平
美術:向井登子
照明:南香織(LICHT-ER)
音響:佐藤こうじ(Sugar Sound)
演出助手:矢本翼子、千代麻央
音楽:三善雅己
衣装:小泉美都
ヘアメイク:美ヶ原美々
宣伝美術:圓岡淳
制作:MIMOZA

 


12人の怒れる男」をオマージュして書かれた作品だとのことで、人物や状況の設定に重なるところもあったよう。私は元作品を観ていないのだけれど、それが支障になることは特になかったと思う(観ていたらさらに楽しめたかもしれないけれど)。

 

舞台上はどこかの裁判所の別室のような空間で、重々しい木のテーブルと椅子がいくつかとホワイトボードやソファなどの調度品があるだけのシンプルなセット。エアコンに「故障中」という紙が貼りつけられているのだけれど、それがなくとも光の色だけで「夏の夕方」とわかる照明が素晴らしいな…などと思いながら席について開演を待つ。終わってみれば、終始この密室のようなひと部屋を動くことなく、役者12人がほとんど出捌けもなくひたすら会話を続けるだけの、それでいてまったく退屈しない驚くべき濃密な2時間だった。

 

「12人」のうち10人は、この部屋で裁判について話し合って一定の結論を出さねばならない見知らぬ同士の一般人の陪審員で、残りの2人は、子殺しの罪に問われている若い母親とその夫。この「10人」の現在進行形の話し合いと「2人」のここまでに至る物語が、同じ空間の中で絡み合うように(ストーリー的にも、身体的にも)描かれる演出がとても巧みで、息もつかせぬほどの緊迫感を生み出していたし、観ている側もそこで起きていることの一部としていやおうなく巻き込まれていく感じがあった。

 

はじめにどやどやと部屋に10人が入ってきたときは、皆が冗談や軽口をたたき、この陪審員制への参加もSNSのネタとして消費してしまうような、無責任な空気に支配されていた。他人事なのだからさっさと終わらせて、みんな早く家に帰ったりナイターに出かけたりしましょうよと。ところが、陪審員8号(須賀貴匡さん)が異を唱える一石を投じた瞬間から、場の空気が少しずつ変わり始めるばかりか、他人同士だった名も無い(全員が「陪審員○号」でしかない)10人の、性格や人生がべりべりと露わになっていく。どうしようもなく、お互いがお互いに関わらざるをえなくなっていく。

 

役者さん12人の全員がひとり残らずとてもよかった。というより、よい役者でないとこの舞台は成り立たなかっただろうと思う。セットと同様、12人の人となりを示唆するようなわかりやすい情報は外見的にもなくて(ナイターに出かけたい主婦がタオルとリストバンドを身につけているのと、教師をやっている女性がパンツスーツに身を包んでいるぐらい)、ほぼ発話だけをきっかけに、彼らの性格や属性や人生が露呈していく。等しく無名である「陪審員○号」の、内側が少しずつ現れていくスリリングなプロセスを、緊密な会話によって立ち上げていく役者ひとりひとりの力量と、何より座組のチームワークが素晴らしかった。(稽古量を想像するとちょっと気が遠くなる…。頭から終わりまで全員のセリフと動きが有機的に絡み合っているので、12人全員がずっと揃っていないと稽古が進められない芝居なのではないかと思うから。)

 

事件と向き合い、感情と感情をぶつけ合う中で、さらにひとりひとりの事情や秘密までもが思わぬ形で引きずり出されてしまう。明るくふるまっていた主婦が夫の不倫問題の闇を抱えていたり、ミソジニー全開の強気な中年が娘と疎遠であったり、自身もネグレクトに関わる親だったり、実はトランスジェンダーであったり。話がやや都合よく進んでいくきらいもなくはなかったけれど、役者さんの迫力と実体がそれを上回っていた。中でも、最初は気さくにまわりとやりとりしながら、触れられたくない過去のふたを開けてしまったとたん激情を止められなくなる陪審員3号の、「激しさ」と「寂しさ」を人間味のある芝居で表現していた小出恵介さん、さすがだった。ラストシーンの説得力も小出さんならではだったと思う。

 

観る側が安穏としていることはできず、問いを突き付けられる舞台。それを意図するかのように、芝居後の役者による華やかなカーテンコールはなく、観客ひとりひとりが芝居を観ながらふくらませたヘビーな思いをそのまま現実の中へと持ち帰るしかないつくりになっていた。答えは観た人によって千差万別であるようにも思うけれど、とにかく「のっぺりした大衆のままでいずに、顔を持ったひとりの個になって、関わって、考えて」という作演出の谷さんのメッセージを受け取ったような気がした。

 

開演前にパンフレットを買ってパラパラ眺めていた中に谷さんの言葉があり、「作家の自分と演出家の自分は別で、演出する段階になって初めてその脚本を読むような感じになるのだけれど、演出家の自分が今回の本を読んだとき『めんどくさい脚本書きやがって』という気持ちになった」というようなこと(大意です)が書いてあったのだけれど、実際に芝居を観て感じたのは、本当に“めんどくさい”脚本だなということ。そしてそのめんどくささから逃げずに、見事に形にしていた演出と役者の力に驚かされた。静謐なセットからは考えられないぐらいの、激しい時間と感情が渦巻く2時間。小出恵介さんきっかけで観に行ったけれど、緻密な脚本と緊密な芝居、全体に圧倒された観劇体験。観られてよかったです。作演出の谷さん、キャストのみなさん、スタッフのみなさん、ありがとうございました!