月夜のドライブ

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KERA CROSS 第五弾『骨と軽蔑』 @ 日比谷シアタークリエ

宮沢りえさんを筆頭にこんな素敵な女優が7人揃っていたら(しかも日比谷の劇場だし)、お洒落に小綺麗にまとめたくなってしまいそうなものなのに、ちょいちょい「む、虫?」「と、鳥?」「こ、小池栄子?」みたいなムダにオモシロイところがあって(ムダはホメ言葉)、でもやっぱりビターでクラシカルでずっしり重くて、感情のもっていきどころの一筋縄でいかなさがKERAさんだったな。

 

観たのは2/27(火)18時の回。感じたことのほんの一部だけど、感想書き留めておこう。

 

KERA CROSS第五弾
『骨と軽蔑』
2024年2月23日(金祝)~3月23日(土)
日比谷・シアタークリエ
作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
CAST:宮沢りえ / 鈴木杏 / 犬山イヌコ / 堀内敬子 / 水川あさみ / 峯村リエ / 小池栄子
チケット料金
(前売・当日共/全席指定/税込):12,500円   

 

配役
宮沢りえ……マーゴ
鈴木杏……ドミー
犬山イヌコ……ネネ
堀内敬子……ミロンガ
水川あさみ……ソフィー
峯村リエ……グルカ
小池栄子……ナッツ
声の出演:廣川三憲、吉増裕士

 



なにしろ、我らが小池栄子!と思ったな。これまでのKERA作品で『陥没』と『グッドバイ』がめちゃめちゃ好きなので(陥没は3回、グッドバイは2回観に行った)たぶん私は小池栄子さんが好きなんだろうなあと思うんだけど、そう、グッドバイのキヌ子を思わすガサツで愛らしい登場人物・ナッツ、到底彼女にしかできないと思わせる役柄。

 

姉妹、親子、敵と味方、友人、夫婦、本妻と愛人、使う者と仕える者。姿の見えない男性(この使い方が巧い)も含め、7人のあいだにいろいろな関係性が見え隠れする中、個人的にとりわけ、宮沢りえさん演じる作家のマーゴとそのファンである小池栄子さんのナッツの間柄に、グッときてたまらないものがあった。へんてこな服装でやってきて、おかしな訛りでしゃべり、陰鬱な屋敷の中にずんずんと入りこみ、家族の内側で秘されていた物語をぐいぐいと引っ張り出し、あげくに作家の心まで開いてしまうよそ者のナッツ。そんな見方が合ってるのかわからないけど、同じKERAさん作『キネマと恋人』の、憧れの銀幕のスターとひととき恋人同士の幸福な関係になる主人公と、重ね合わせて見てしまった。ナッツとマーゴがどんどん近しくなっていき、ラジオの音楽をバックに一緒に陽気なダンス(井手茂太印のじつに楽しい振り)でひとはしゃぎするシーンが笑っちゃうような温かさで大好きだった。あなたのことは私が一番よくわかっていると自負するファンと、自分の信じるものを理解してもらえたと感じる表現者と。でも、最終的にナッツの一方的な思いは破れ、よそ者はよそ者に戻り、家を離れていくことになる。せつないけれど、夢から醒めたあとそれはそれで強いナッツが、寂しい物語の最後で観る者の心を少し元気づけてくれる。

 

物語の中心にいつも「手紙」があったのが印象的だった。妹のドミーの登場シーン、物語はその手に携えられた手紙の存在から始まるのだったし、はじめにナッツとマーゴを結びつけたのも手紙だった。マーゴとドミーが大げんかになるのも、そして最後に心を寄せ合い慰め合うのも、同じ想い人からの手紙を巡ってだった。結局、その手紙はナッツという一人の書き手によるものだったことがわかって事態は破綻するのだけれど。(最後にはマーゴの夫でドミーの想い人でもあるバスターからの「本物の手紙」もやってきて、ふたりを幸福の絶頂に連れて行き、同時に彼女らの「最期」を告げるという衝撃的なラストへ雪崩れる。)このお芝居の本筋とは関係ない感想のような気はするけれど、私は「紙に書かれた文字の力」の強大さにだいぶ揺さぶられた。人は文字にこんなにも思いを込め、駆り立てられ、励まされ、心温められ、そのぶん打ちのめされもするんだって。KERAさんの「書かれた文字」への畏怖や敬意も感じられるように(勝手に)思った。

 

KERAさんのお芝居にたびたび出てくる小道具であるラジオの存在も心に残った。マーゴとナッツを音楽で陽気に踊らせもする一方で、部屋の片隅にあるラジオから流れてくるニュースほどしんしんと怖いものはなかった。怖いものがたくさん出てくるお芝居だけど、廣川さんの声で淡々と読まれる手紙(これも手紙だ!)の「年長者はもういません。○○さんはもういません。△△さんはもういません。…」という文面が、今思い出しても鳥肌が立つほど一番恐ろしい。ラジオはこの閉ざされた屋敷が世界とつながる小さな扉で、楽しいことも恐ろしいこともここから入り込んでくる。

 

と書いていると、暗くて重くてつらい芝居だったような印象を受けるけれど、その中でびっくりするほど笑ったのも本当のこと。戦争という背景が色濃く影を落とすストーリーだったし通奏低音はビターで重い芝居だったけれど、まあこの7人には満遍なくよく笑わされた。イヌコさん演ずるネネと堀内敬子さん演ずる虫(の妖精???)はそもそもいくらか道化的な役割を担っていたけれど、みんな、おもしろいことを言ってるのでもない普通の会話で客席を沸かせるのがすごい。KERAさんの狙いを演技ですとんと命中させることのできる役者たち。

 

颯爽としたそして面倒な鬱屈も抱えた、作家然とした宮沢りえさんさすがのカッコよさだったな。「日比谷のお客さん」とクラシカルな世界のあいだをひょいひょいと行き来するイヌコさんの自在さには驚嘆した。直情を3時間あふれさせ続けられる鈴木杏さんの気力体力に尊敬の念。かわいらしくていや~な女をかわいらしくいや~な感じで演じる水川あさみさん、姿も声もとてもイカしてた。ビックリするような役で出てきて同じテンションで編集者を演じた堀内敬子さんは終始憎めないかわいらしさ。苦悩する「アル中のお母さま」の峯村リエさん凄かった、グルカの感情の振り幅と波乱の人生、女性の一生の横軸と縦軸の大きさが、物語にスケールを与えていたと思う。そして小池栄子さんのナッツ!小池さんが演じなければ、舞台上に生まれることもない、私たちが出会えることもないと思える唯一無二のチャーミングな個性。

 

7人の役者さんの技量と魅力を、そしてケラリーノ・サンドロヴィッチという作家兼演出家の才能と持ち味を、これ以上ないぐらい味わい尽くせる贅沢で幸福なお芝居だったと思う。役者の力と作演出家の力、それ以上の何が要る?と突きつけられるような。(と言いつつ美術も照明も音も衣装もとんでもなくクオリティ高いのだけどね。)しっとりと風格のある長編小説を、他では替えのきかないKERAさんならではの文体を、満喫したような感覚だった。

 

あと、ビスケットおいしそうだったな…。砂糖ついてても砂糖ついてなくても!

 

【2024/03/03記】

 

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KERA CROSS第五弾
『骨と軽蔑』
作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ

CAST
宮沢りえ
鈴木杏
犬山イヌコ
堀内敬子
水川あさみ
峯村リエ
小池栄子

STAFF
美術:秋山光洋 照明:関口裕二 音響:水越佳一 音楽:鈴木光介 映像:大鹿奈穂 上田大樹 衣装:伊藤佐智子 ヘアメイク:谷口ユリエ 演出助手:相田剛志 舞台監督:福澤諭志 奥田晃平 宣伝美術:榎本太郎 宣伝撮影:伊藤大介 宣伝衣装:伊藤佐智子 宣伝ヘアメイク:谷口ユリエ
プロデューサー:高橋典子・浅見亜希子(キューブ)龍貴大・尾木晴佳(東宝) 制作:瀬藤真央子(キューブ) 制作助手:渋谷遥(東宝) 製作:北牧裕幸(キューブ)

TICKET&SCHEDULE
◆東京公演◆
2024年2月23日(金祝)~3月23日(土)
日比谷・シアタークリエ

チケット料金
(前売・当日共/全席指定/税込):12,500円   
★木曜夜割:11,000円<2/29・3/14 18:00公演>
U25チケット:4,800円(全公演・チケットぴあ前売のみ取扱)

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