月夜のドライブ

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『銀平町シネマブルース』ワールドプレミア&トーク @ TAMA映画祭を観てきた!

小出恵介さん主演の映画『銀平町シネマブルース』のワールドプレミア(世界最速上映)を、「映画祭TAMA CINEMA FORUM」で観てきました!上映後に、監督や出演者によるトークショー付き。「小出恵介さん出演」ということだけを頼りに監督や出演者についての情報もあまり知らないまま観たのだけれど、めちゃめちゃおもしろく、笑えて泣けて、そして心に焼きつくシーンばかりの素晴らしい映画でした。その後のトークもすごく楽しかった。ごくごく簡単に、感想メモ。(映画のネタバレあります)

 

第32回 映画祭TAMA CINEMA FORUM
【C-4】 ワールドプレミア 「銀平町シネマブルース」
11/20(日)
ヴィータホール
17:30-19:09
「銀平町シネマブルース」
19:20-20:00
<トーク>
ゲスト: 城定秀夫監督、
いまおかしんじ氏(本作脚本)、 
小出惠介氏、日高七海氏
聞き手: 森直人氏 (映画評論家)

 

『銀平町シネマブルース』映画の舞台は、とある街はずれの寂れて経営が傾きかかっている名画座。ここに集まる、他に居場所がない外れ者たちの群像劇なのだけれど、ややもすると湿っぽくなりそうなのがそうならない、せつないけれど笑える、泣けるけれど可笑しい、とても好みの温度の映画だった。

 

出てくる役者が、とにかくよい。そのあとのトークショーで城定監督が、キャスティングは頑張ってくれた、予算もそんなにない小規模の映画なのに驚くようなキャストになった、と、そういう意味のことを言っていたけれど、主役の小出さんから端役のひとりひとりまで、登場時間の長短にかかわらず同じくらいの強さで、その人生がスクリーンに焼きつけられていた。私の大好きな、すべての登場人物にドラマと背景がある、すぐれた群像劇。誰を主役にしても映画になりそう。

 

イケメン俳優なのに、優柔不断で情けなさ満点の人物がとても似合う小出恵介さんは、その魅力をいかんなく発揮していた。何かわけありの様子で心に傷を持ち人生投げやりになっていたところを、たまたま銀平スカラ座に迎え入れられることで少しずつ心を開いていくのだけれど、彼を取り巻く映画館で働く面々(吹越満さん、藤原さくらさん、日高七海さん)、映画好きのホームレス(宇野祥平さん)、映画館に入り浸る常連客、それら登場人物のヘンテコさ、デコボコ具合が、たまらなく心地よかった。浅田美代子さん、藤田朋子さん、渡辺裕之さんといったスター級の役者さんも、銀平町の周辺でどうにかこうにかあがきながら生きている人々のひとりで、その存在感がとても味わい深かった。渡辺裕之さん、映画の中で本当にイキイキとしていたので、私、亡くなられていたことをすっかり忘れていたぐらい。小出恵介さんとのシーン。あんなヘンな気持ちにさせられる素晴らしいシーンちょっとないな、って思う。小出さんと渡辺さんというこの役者ふたりだからこそ、ト書きでは想像がつかないようなあの感じが出たのだろうな…とも思う。

 

出てくる女優さんみんなきれいな方なのに、美女に撮られていないのもすごいなと思った。主人公の元妻は美人だけど美人過ぎないちょうどいい美人だし(ゲスの極み乙女の方だと知って驚いた)、スカラ座で働くバイトふたりは冴えない顔でずっとボソボソした会話をしてるし、館主の元カノ(藤田さん)も、若者の母親(片岡礼子さん)も、駆け出し監督(小野莉奈さん)も、みんなあきらめや疲れや焦燥を顔に浮かべていて。

 

ところが、銀平スカラ座60周年を祝うことになった祭りの日、普段は陰に居がちな外れ者たちの、浮き立つ姿と笑顔はまぶしいほどだった。女性たちはみんな、少しおしゃれして見違えるようにかわいくて。まさに、「祝祭」。映画って、こんなちょっとありえないぐらいの昂揚をもたらしてくれる存在なんだ、としみじみ感じた。映画を好きでその力を信じる者になら、誰にでも。あの多幸感あふれるシーン、ちょっと忘れられない。

 

映画内映画が2本、公開されるのだけど、そのちらっと見られるどちらもが、めちゃめちゃおもしろいことにもビックリ。そんなことってある(笑)? 主人公の近藤が撮ったものばかりか、脇役である駆け出しの女性監督が撮ったものまで、おもしろい! しかも、その女性監督自身が言う「コメディじゃないんですけど」でも観る人がみんな思わず笑ってしまうという、かなり微妙なおもしろさ加減にちゃんと着地してるの、奇跡じゃないかと思った。(トークで城定監督は、あの映画内映画はだいぶやっつけで撮ったような話をしていたけれど!)

 

あともうひとつ個人的にびっくりしたのは、主人公の映画の、助監督のエピローグのシーンでボロボロ涙が止まらなかったのだけど、それまでの話の中で助監督本人の姿はちょびっとしか出てきていないのに、なぜそこまで彼に思い入れある、自分!?って。あれどうしてだろう、いまだによくわからない。それまでの主人公の話や、母親の記憶の中で、じゅうぶん彼が生きていたから、ということなんだろうか。だとしたら、役者の力、脚本の力、演出の力、すごいなと思う。

 

ラスト近くの葬送も、心に焼きついて忘れられない。過去のさまざまな映画へのオマージュも込められた美しいシーンだった。悲しいんだけどちょっと笑えて、いやだいぶ笑えて、せつなくて、そう、とても美しかった。

 

この映画、上映時間が2時間に満たないそう(1時間39分)。実際に観終わってからもちょっと信じられない。体感は3時間ぐらいありそうな密度だから。ちらっとしか映らないひとりひとりの人生が、ちらっとしか映らないのに濃くて厚くて、それが登場人物の数ぶんすべてどどどーっと観る側に流れ込んでくるので(さらに映画内映画も2本もあるので!)、ずいぶん長くその世界にいるような錯覚。でも1時間39分。観ているあいだ、私たち、ぎゅっと濃い人生を生きている。

 

観たあと、映画っていいな、映画館っていいなと心の底からじんわり思うけど、たぶん、シネフィルのための映画というわけでもない。だから心地いいのかなとも思う。映画が、貴かったりくだらなかったりするひとりひとりの生の営みの中に潜り込んでいる。いろいろな形で映画を内側に宿してしまった人たちがいて、まったく人ってしょうがないな、どうしようもないな…、でもおもしろいな、いとおしいな、そんな風に思える。うまく表現できないけれど、すごくよかった。

 

こうした映画を、TAMA映画祭で観られたということも、貴重な体験だった。映画の中の銀平スカラ座を観る私たち自身も、街なかの「映画好き」の市民が催す祭りの中でこれを見ているわけで、映画の内側だけでなく外側まで入れ子になっているような、不思議な感覚を味わった。

 

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上映後、少しの休憩を挟んでトークショー。城定監督の撮影が早いという話(今回の場合全部を10日間ぐらいで撮影しているとか!)、小出さんがしきりに言う「人の話を聞いてるんだか聞いてないんだかわからない」という城定監督評(笑)、どこまでが脚本でどこからが演出なのかという話など、とても興味深いトピックがたくさんで、ここだけで聞くにはもったいないぐらいだった。

 

何より、聞き手の森直人さんのリードが的確で、興味深い話がぐんぐん引っ張り出されてありがたい限り。つねづね、中途半端な聞き手の能力不足により映画と無関係な話に終始しがちなトークにがっかりしている身としては、歓喜の充実トークでした。プロの仕事はすごい。森さんありがとうございました…!

 

なんとトークの最後に、一般の私たちも撮影OKタイムがあって、わりと至近距離から憧れの小出さんをカメラに収めることに。まあ腕が悪いので大した写真は撮れてないわけですが、自分のカメラロールにナナナ生の小出恵介さんが存在する、というのは令和の大事件です…。 

 

撮った写真、下手から、聞き手の森直人さん、城定監督、主演の小出さん、バイト仲間役の日高さん、脚本のいまおかさん、そして、客席にいたところを壇上に呼ばれたホームレス役の宇野祥平さん。出演者さん、実行委員会のスタッフのみなさん、上映と素敵トークの開催、ありがとうございました!

 

『銀平町シネマブルース』、本公開は来年の2月だそう。また銀平スカラ座の楽しい仲間たちに会える。また観に行こう。

 

 

銀平町シネマブルース
一瞬の夢と、祭りの終わり。この場所からもう一度―――。

監督:城定秀夫 脚本:いまおかしんじ 主演:小出恵介
小さな町の映画館を舞台に贈る群像悲喜劇

 

<キャスト>
小出恵介
吹越満
宇野祥平
藤原さくら
日高七海
中島歩
黒田卓也
木口健太
小野莉奈
平井亜門
守屋文雄
関町知弘
小鷹狩八
谷田ラナ
さとうほなみ
加治将樹
片岡礼子
藤田朋子
浅田美代子
渡辺裕之

 

<スタッフ>
監督:城定秀夫
脚本:いまおかしんじ
エグゼクティブプロデューサー:谷川寛人
プロデューサー:久保和明 秋山智則
共同プロデューサー:飯田雅裕
企画:直井卓俊
撮影:渡邊雅紀
照明:小川大介
録音:松島匡
サウンドデザイン:山本タカアキ
美術:羽賀香織
ヘアメイクディレクション:須田理恵
スタイリスト:天野泰葉 切金実紀
編集:城定秀夫
音楽:黒田卓也
助監督:伊藤一平
キャスティング:伊藤尚哉
ラインプロデューサー:浅木大
スチール:柴崎まどか
制作担当:酒井識人

 

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