月夜のドライブ

ラブレターバンバン書いて紙飛行機にして 宛てもなく空に飛ばすブログです。▶プロフィールの「このブログについて」をクリックで記事一覧などに飛べます。

小出恵介さんの復帰作! 舞台『群盗』 @ 富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ

テレビドラマや映画もたくさんは見ないし、人気俳優の名前にも詳しくない私が、若手俳優の中で唯一「好き」だと言える役者さんが、小出恵介さん。きっかけはケラリーノ・サンドロヴィッチさん作・演出の『祈りと怪物~ウィルヴィルの三姉妹~』(2012年)に心底マイッてしまい、また、そこで複雑な輝きを放っていた小出さんにすっかり心を奪われてしまったからだった(もちろんそれまでも「人気俳優」としては知っていたけれど、初めて生で演技見てそれまでの浅い認識をまったくひっくり返されてしまった)。それから、いのうえひでのりさん演出『今ひとたびの修羅』(2013年)、蜷川幸雄さん演出『盲導犬』(2013年)、野田秀樹さん作・演出 NODA・MAP『MIWA』(2013年)、倉持裕さん作・演出 M&Oplaysプロデュース『虹とマーブル』(2015年)と、彼の出る舞台はなるべく観るようにしていた。(それにしても、錚々たる作演出家の名前。小出さん出演の舞台を追いかけることによって、私もいろいろな作品に引き合わせてもらっていたのだとわかる。)

 

ところが、役者として奥行きと豊かさを増しますます期待を集めていたその矢先に、小出さんは表舞台からいったん姿を消すことになってしまう。「無期限活動停止」という言葉は、ただのいちファンの私にも重くつらかった。でも、小出さんのことを、舞台は絶対に離さないだろうとも思っていた。すぐには難しくても、いつかきっとまた舞台に立つ小出恵介さんは見られるだろうと信じていたし、どんなに先だとしても、その時をずっと待っていよう、とも思っていた。

 

そして、小出さんの活動休止前最後の舞台から6年半、コロナ禍の中、その時はやってきた。

 

top_guntou.png

 

舞台「群盗」
2022年2月18日(金)~27日(日)
埼玉県 富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ メインホール
原作:フリードリヒ・フォン・シラー
演出・上演台本:小栗了
出演:小出恵介 / 池田朱那、新里宏太 / 鍛治直人、塚本幸男、山口翔悟 、妹尾正文、伊藤武雄 / 久道成光、上杉潤、西村大樹 / 中島拓人、今村俊一、尾形存恆、鈴木康史 / 池原滉大、太田龍之丞、佐々木崚雅
※2月18日から23日までの公演は新型コロナウイルスの影響で中止になりました

 

ただ、オミクロン株の広がりにより新型コロナウイルスの感染者数が激増する中、公演の開催は一筋縄でいかず、出演者に陽性の方が出たことでまず18~21日の公演が中止に。その後23日までの休止が発表され、全12回を予定していた公演は24~27日のたった5回となってしまった。コロナ禍と闘いながら舞台やイベントを開催することの、想像を絶する困難さ…。私は初日の18日と、買い直した22日のチケットが共に休止になってしまったけれど、ぎりぎり千穐楽の27日に行くことができた。それだけでも感謝。

 

kirarifujimi.jpg  poster.jpg  cast.jpg

 

■当日

暖かな日曜の昼間、駅からてくてく歩いて着いた初めての劇場、キラリ☆ふじみ。元々この『群盗』は、小栗了さんプロデュースの新劇場「MIZUHODAI WAREHOUSE」のこけら落としとして2021年秋に上演される予定だったのが、コロナ禍のため劇場の計画自体が中断してしまい、公演だけでも実現したいという小栗さんのたっての希望で、時期を改めてここキラリ☆ふじみで開催されることになったのだそう。キラリ☆ふじみメインホールは約800席の、とてもキレイでお芝居向きのつくりの会場。

 

『群盗』は、ドイツの作家・シラーの1700年代の戯曲。多少の予習はしてきたものの、翻訳劇まして古典になど慣れていない私に18世紀のドイツで書かれたお話がちゃんと楽しめるのかな…という不安は正直あった。開演前に購入したパンフレットに、登場人物の相関図や、ドイツ文学の先生の解説、演劇ライターさんによる紹介文が載っていたのは、とても理解の助けになった。

 

■開演

開演時間になり場内が暗転して、緞帳が上がるのを待っていたら、意外や客席のあいだから、小出さん演じるカールが口笛を吹きながら独り歩いて登場。緞帳の下りたままの舞台を寂しげに少しさまよって袖に捌けていく。すると、「歓喜の歌」が華やかに鳴り響き、幕が開く。壮麗な世界の中心に立つカールの、心のうちの寂寥を垣間見て胸が詰まるような、そんな印象的なオープニングだった。

 

幕が開いて始まるのは、父モール伯爵と弟フランツのシーン。モールを演じる鍛冶直人さんの第一声が、それだけで場を制するような威圧感があって、たちまちここは18世紀の異国なのだと思わされる。私は鍛冶さんを観るのが初めてだったけれど、声ひとつ、動きひとつに凄みがあって、これが蜷川さんの薫陶を受けた人の芝居の力か…と圧倒されてしまった。

 

また、弟フランツ役の新里宏太さん。何しろ、たぶん、主役のカールを超える台詞量、しかも長台詞の嵐!この難役を、若い新里さんが体当たりで演じていた。兄カールを陥れようとする役柄だけれど、ただ嫌な奴、腹黒い奴、というだけではない、フランツの寂しさや屈折した感情が新里さんの演技から伝わってきて、好きにはなれないけれど憎みきることもできない、複雑な思いを抱かされる。

 

今回のヒロイン・アマーリア役をオーディションで射止めたという弱冠20歳(!)の池田朱那さんが、出色の存在感だった。よく通る美しい声、聞きやすい台詞、物怖じしない大胆な演技。芯の強さと激しさを持ち、凛とした姿勢で生きる美しい女性・アマーリアを、堂々と演じていて本当に見事だった。今後、舞台で引っ張りだこの女優さんになるのでは。

 

■カールと盗賊団

カールは、フランツの策略とも知らず、父からの勘当の言葉に絶望し盗賊団の活動へ傾倒していく。生来の素直さと誠実さが仇となって、ほんの少しずつ狂う歯車から逃れられなくなっていく、そんな破滅的な役に小出恵介さんという役者はなぜだかとてもよくはまる。小栗さんがラジオで語っていた小出さん評「立ち姿が知的、インテリジェンスを感じる」「現代の人に見えない」に、大きくうなずく。クラシックな苦悩が似合う、とても稀有な役者さんだと思う。

 

カールを隊長に祭り上げて意気盛んな盗賊団の男たち。しかし盗賊たちもけっして一枚岩ではなく、いろいろな背景や思いを持っている者たちの集まりであることがわかってくる。カールを信奉する者、反感をもっている者、自分の腕っぷしひとつに賭ける者、集団の信義を大切にする者…。この、盗賊たち一人ひとりの個性や人生を、それぞれの役者さんたちがとてもイキイキと演じていた。

 

盗賊団だけではない。『群盗』の中の人物たちは、カールもフランツもアマーリアもモールも盗賊一人ひとりも、驚くほど自由でワガママで、自らの思いに忠実に生きている。身分や年齢や立場の違いはあってもそれぞれが自分に正直で、あふれ出る激情を遠慮なくぶつけあい、魂をほとばしらせている。その過大な熱量を舞台からそのまままっすぐぶつけられて、観客の私はハッとしてしまうようなところがあった。目の前の彼らのような自由な魂を、現代の私たちは持てているだろうか?と。封建的で今よりずっと不自由な18世紀に生きる彼らのほうが、21世紀の私たちより、心は自由なんじゃないか?と。私たちは、自らが持っている自由度いっぱいまで心を弾ませたり飛ばしたり膨らませたりすることを、じつは怠っているんじゃないか?と。

 

演出の小栗了さんが「この『群盗』は“感情”の芝居だと思っている」と語っていたけれど、ややもすれば堅苦しいイメージの「古典」劇に、こんなに生々しい感情を引き起こされるとは思ってもいなかった。そしてこの、現代人からしてみたら過剰と思えるほどの“感情”を、イキイキと生きられる役者という職業の人たちを心から素晴らしいと思う。若いメンバーが多いこともあってか芝居にはやや粗い箇所もあったけれど、ダイナミックなよさがそれを凌駕していた。小栗了さんが役者一人ひとりの個性や持ち味を引き出すよう働きかけ、演者がそれに応えてのびのびと演じた結果なのだろうと想像する。

 

■音楽や美術

舞台を彩る音楽、「歓喜の歌」(シラーの詩なのだと今まで知らなかった!)を効果的に使っていた以外に、前半のほうの場面転換でモダンジャズっぽい音楽が流れていたの、古典との取り合わせがとてもカッコよかった。また舞台美術も素晴らしく、冷たい氷柱(つらら)のようにも、一面にしだれ咲く花々のようにも見えるセット、シンプルにして静謐な美しさがあってこの演目にぴったりだった。後方席だったので細かくまでは堪能できなかったけれど、衣装も一人ひとりとても凝っていて素敵だったので、本当はもっと近くで見てみたかった。

 

■役者・小出恵介

それにしても、小出恵介さん。昔からの私の印象は、“器用ではないしものすごくうまいというわけでもないのだけれど、破格な存在感をもつ役者さん”。6年半ぶりに舞台で観た彼も、ほぼその印象通りだった。錚々たるキャリアがあるのに、いつでも初めてその舞台に立つかのような清新さは、いったい彼のどこから生まれるんだろう。誠実ゆえにほんの少し踏み外した道を戻ることもできない不器用なカール。しかし最後は吹っ切れたようなからっとした明るさで破滅を迎えるカール。名作古典の重厚な世界を、主要人物がみな死を迎えて終わる悲劇を、一身に引き受けてまったく揺るがず、小出恵介さんは舞台の真ん中で桁外れの強い輝きを放っていた。小栗さんも言っていたように、小出恵介という人は役者をやっているべき人、芝居をしているべき人だなと、心から思う。

 

■カーテンコール

たった5回目にして千穐楽、そのカーテンコール。私も手が痛くなるぐらい拍手した。演者それぞれにさまざまな感情が去来していたのだろうと思うけれど、ともかくも長くて短い時間を駆け抜けたキャストたちの爽やかな笑顔が見られてよかった。何度目かにキャスト全員が一列に並んだ時に、客席にいた小栗さんが呼ばれて登壇。花束を小出さんに渡し、そのまま二人で抱き合って涙していた。戦友のような姿に思わずこちらももらい泣き…。さらに小栗さんが涙に詰まりながらの挨拶で、「まだここにいないキャストもいて…」と、最後まで揃うことができなかった役者さんのことを気にかけていたのにも心打たれた。きっと小栗さんのこの優しさが、カンパニーをここまでまとめ、引っ張り、すぐれた座組として困難の中での公演を可能にしたのだろうなと思った。

 

小出恵介さんの舞台復帰作を、このようなすばらしい形で観ることができて、本当に感無量。願わくば、短い期間しかできなかった今公演の、このカンパニーでの再演がかないますように。

 

小出恵介さん、本当におかえりなさい。待っていてよかった。思いきり羽ばたくこれからを、特に生の舞台を、なるべく観られたらいいなと思う。今後の活躍も楽しみだし、期待しています。そして小出さん、小栗さん、キャストのみなさん、スタッフのみなさん、コロナ禍の大変な状況の中、すばらしいお芝居を届けてくださり、本当にありがとうございました!

goods.jpg『群盗』パンフ。あとWEB SHOPで買おうかどうしようかと思ってた小出恵介さんのカレンダーとステッカーも売っていたので購入。カッコよくてニヤニヤするー

 

mainhall.jpg  hana1.JPG hana2.JPG hana3.JPG hana7.JPG hana8.JPG  hana4.JPG  hana5.JPG  hana6.JPG

 

---------------------------------

 

【舞台「群盗」公演概要】

今回の「群盗」は主演のカール役は小出恵介。 ヒロイン(アマーリア役)はオーディションにて選ばれた期待の20歳、池田朱那。 その他多数の実力派のキャストにて埼玉県にある富士見市民文化会館 キラリふじみ(埼玉)にて公演。 演出は、埼玉県・飯能市にあるムーミンバレーパークのクリエイティブディレクターやイベントプロデュースなど、多方面で活躍する小栗了。

 

<公演期間>
2022年2月24日(木)~2月27日(日)
※2月18日(金)~2月23日(水)の公演は出演俳優に新型コロナウイルス感染症陽性反応者が出た為、中止。

<会場>
富士見市市民文化会館キラリ☆ふじみ メインホール

<料金>
S席9,000円 A席6,500円
(全席指定・税込)
※未就学児童入場不可

<出演者>
カール:小出恵介

アマ―リア:池田朱那
フランツ:新里宏太

モール伯爵:鍛治直人
シュヴァイツァー山口翔悟
シュピーゲルベルク:伊藤武雄
グリム・教父(二役):塚本幸男
ラツマン・モーゼル牧師:妹尾正文

ロラー:久道成光
ヘルマン:上杉潤
シュフテルレ:西村大樹

コジンスキー:中島拓人
ダニエル:今村俊一
召使い:尾形存恆

シュナイダー:鈴木康史

ヴェルタ―:池原滉大
ミラー:太田龍之丞
メッツラー:佐々木崚雅

<STAFF>
原作:フリードリヒ・フォン・シラー
演出・上演台本:小栗了
音楽:カワイヒデヒロ(fox Capture plan)
音響:浜田昌一
照明:辻井太郎
美術:成本活明
衣裳:大岩大祐
舞台監督:市川太也
制作:群盗実行委員会
後援:ドイツ連邦共和国大使館
主催:合同会社VOLTEX


再開した公演は、この5回。
2月24日(木)18:00開演(17:00開場)
2月25日(金)18:00開演(17:00開場)
2月26日(土)12:00開演(11:00開場)/17:00開演(16:00開場)
2月27日(日)12:00開演(11:00開場)


---------------------------------