月夜のドライブ

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岡田徹さんを悼む moonriders LIVE @ 恵比寿 The Garden Hall

岡田徹さんが2/14に帰らぬ人となってしまったあと、3/15には元々予定されていたインプロアルバム『Happenings Nine Months Time Ago in June 2022』の発売があり、4/26には初めて岡田さんの欠けた7人でのFCライブ(ハイドパークフェスの公開ゲネプロ)、4/29にハイドパーク・ミュージック・フェスティバル出演、5/20には福岡のフェスCIRCLE'23出演(その他にイベント出演などもいろいろ)、と歩みを進めてきていたムーンライダーズ。そしてこの恵比寿でのライブは、岡田さんがいなくなってから初めてのホールライブだった。

 

車椅子につかまりお茶目に片足上げる岡田さんが表紙の「メモリアルブック」を入場時に受け取り、中へ入ると、広めのロビーに岡田さんゆかりの品々の展示が。大勢の人が長い列をつくって、順にメモラビリアの数々をじっくり見たり写真に収めたり。さまざまな時代のスナップの中の岡田さんは、いつも人なつこい表情でかわいらしい。

展示の最後には、ファン有志からの赤い薔薇のスタンドも。ボードには眼福ユウコさんが描いた、岡田さんもかしぶちさんも、澤部さんも優介さんもいる「9人」のムーンライダーズ。私たちが知ってる最新のムーンライダーズ

 

moonriders LIVE
2023/06/25(日)
恵比寿 The Garden Hall 開場16:00 開演17:00
料金:全席指定¥12,800(税込)
※入場者全員に「岡田徹のメモリアルブック」配布

 

開演時間になり会場が暗転したと思ったら、ステージ上の大きなスクリーンに、ショルダーキーボードを演奏する岡田さんの姿が投影される。たぶん、インプロアルバムの演奏の1シーンのよう。録音時にこんな映像も撮っていたんだ…と思っていると、ステージに入ってきたメンバーがその岡田さんの音に合わせてそれぞれ楽器を鳴らし始め、大きな音の渦へ。なんともムーンライダーズらしい、驚きのオープニング…!もうここにいない岡田さんを中心に、こんなにスリリングなインプロビゼーションを生で聴かせるとは。

 

今日は前列が、向かって右から博文さん、良明さん、くじらさん、慶一さん。後列が、向かって右から優介さん、夏秋さん、澤部さん。インプロ演奏からの1曲目は岡田さん曲の「涙は悲しさだけで、出来ているんじゃない」。岡田さんの中の最もスウィートサイドな曲のひとつだよね。そしてやはり岡田さんの代表曲「いとこ同士」。2曲演奏して「こんばんは、ムーンライダーズです」と口を開いた慶一さんとメンバーに、客席からの拍手が鳴り止まない。みんな、あふれるような思いを抱えてここに集まってるんだなと思う。

 

「今日は声を出せるよ~」とのMCで始まった「HAPPY/BLUE '95」。かけ声も良明さんのエレキギターも元気!このあとのMCだったかで、ファンハウス時代のBOXが出るよとの告知が。おおーとどよめく客席。MCにかぶせぎみで良明さんがリフを突っ込んでくる「S.A.D」相変わらずカッコイイ~、この曲をくじらさんとともに作った優介さんのピアノと夏秋さんのドラム、つややかで強靭だ!

 

ずどーんと重いインプロからの重ーい「天罰の雨」、博文ボーカル。わー最近ライブで演ったことあったっけ?これも、岡田さん(と良明さんの共作)曲なんだよなあ、ダークだけどやはり独特の美しさがある曲と思う。(この日聴いてて思ったけど、転調して良明さんが歌ったパートが良明曲なのかな?どこかで既に解説されてるのかもしれない。)さらに「無防備都市」で慶一さんボーカル始まらない事件が。別ポジションから滑り込んできて捕球する名フィールダーのように歌い出した澤部さんGJ。サビにきたら慶一さん、何かありましたか?ぐらいの勢いで普通に歌ってたけど(笑)。(ライブ後の夏秋さんのツイでは、ステージ上の演奏事故は全部かしぶちさんのせいだから!と(笑)イタズラ好きだからね、きっとそうだ(笑)!)

 

「優介くんが初めてアコーディオンを弾きます。岡田くんのを」という紹介で始まった次の曲、意外な曲で最初わからなかった!月面讃歌収録の「ぼくは幸せだった」。掘れば掘るだけいくらでも演奏しがいのある曲出てきちゃうんだよなあ…無尽蔵ライダーズ。優介さんの、岡田さんとはまた違うアコーディオンの音を大切に聴く。さらに博文ボーカルで「霧の10㎡」。

 

ふわんと幻想的なインプロビゼーションから始まった「月夜のドライブ」。あまりにも美しいこの曲が、この日格別に心に刺さったな…。いつになくとっぷりと思いを含んでいるように感じられた慶一さんのボーカル、くじらさんのバイオリン。この曲は、岡田さんやかしぶちさんがいるあちら岸と私たちのいるこちら岸のあいだを、ゆらゆらと揺れるゴンドラのように自由に行き来できるんだと思った。はちみつぱいの頃から今に至るまでの、ロックミュージックに身を捧げたすべてのミュージシャンのための、そして岡田徹さんのための、レクイエムのように聴こえたよ…。

 

と思えば、くじらさんのおかしなMC(リスやトンビの話…笑)を挟んで、これまた意外な「My Name Is Jack」を演奏したりするお茶目なムーンライダーズ。こういう小品がまた粋なのよね。

 

かしぶちくんが亡くなってから10年、と慶一さん。そうか…10年。この夏に『リラのホテル』40周年の記念ライブがあると告知があり、「リラ(↗)のホテル」(かしぶちさんのイントネーション)に関する良明さんと慶一さんのやりとり少々(楽屋でオチを打ち合わせたはずがやや空振り・笑)。ということでかしぶちくんの曲をやります、と「Beep Beep Be オーライ」、そして「Frou Frou」!はーかっこよ!かしぶちさん今でもこうして(曲という形で)まじステージでの存在感あるもんなー。もうムーンライダーズはきっとこれからずっとそうなんだよ。かしぶちさんも岡田さんもステージにいる、い続ける。

 

博文さんのボーカルとバンドの重たい演奏がカッコイイ「駅は今、朝の中」、さらに良明さん煽りまくりで疾走する「駄々こね桜、覚醒」、客席大盛り上がり!そして慶一さんの「みんな一緒に歌って」の呼びかけで始まったイントロは…岡田さん曲「ダイナマイトとクールガイ」。“愛を試す季節じゃない~”とか、みんなで歌うような詩でもないような気もするけど(笑)、ムーンライダーズファンは歌うのさ。

 

本編ラストに、ゲストですと呼び込まれたのは、なんと岡田さんの娘さんの紫苑さん。little moaとしてライダーズにもクレジットが入る曲があるけれど(『P.W Babies Paperback』の「Waltzing」)、私は拝見するのたぶん初めてだ。そして岡田徹さんがムーンライダーズに書き、ソロでもやっている「幸せの場所」を演奏。紫苑さんは、岡田さんとの思い出を私たちにもそっと明かしてシェアしてくれるような、愛らしく素敵な歌声を聴かせてくれた。岡田さんの訃報をネットで知って落ち込んでいたとき、紫苑さんが、父はいつもの調子で『サンキュッ!』と旅に出たと思います、という意味のことをツイートしてくださっていて、その言葉に救われたっけ。私たちの大切なバンドの大切なメンバーの岡田さん、そのそばにいた紫苑さんに、ありがとうございました、という気持ち。

 

やまない拍手。メンバーが戻ってきてくれてアンコール。立教OPUS出身の岡田さん、くじらさん、良明さんで作った(くじらさんはこんなの作ったっけ?とか言ってたけど!)「Days of OPUS」、明るいロックンロールナンバー!これ、またライブで聴きたいなー。そして本当に最後に、私たちは演奏するのでみなさんで歌ってください、とスクリーンに歌詞を映し出して「さよならは夜明けの夢に」。バンドの音とファンの声が溶け合う。岡田さんには届いたかな?聴こえたかな?岡田さんの分身のような曲たちは、まだまだこちらでたくさん鳴り続けるしみんな歌い続けるから、岡田さんはまだ半分はこっちにいるようなものだと思うよ。そうだよね、岡田さん。

 

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この日のライブ。在りし日の岡田徹さんの演奏にバンドの生音を重ねていくオープニング。レクイエムのように聴こえた「月夜のドライブ」。なんだか此岸と彼岸の境目が溶けていくような不思議な感覚がした。哀しいけれど、でも、岡田さんの存在もかしぶちさんの存在も遠くはない、ような。ムーンライダーズというバンドは今やこちらとあちらを自由に行き来できるような不思議な場所にいるのだという気さえ、ちょっとしてしまった。10年前かしぶちさんを喪って、癒えるのかもわからないほどの深い傷を心に負ったバンドが、それでも音楽の力や人の力や時間の力や何より自らの治癒力で、少しずつ傷を克服しながら前を向くのをやめなかった、その結果が今なのだと思う。すごいバンドだな。ムーンライダーズ。かしぶちさんもいて、岡田さんもいて、夏秋さんや澤部さんや優介さんの存在にも助けられつつ、これからもバンドはまるごと進んでいくのだ、と思う。

 

岡田徹さん、いまだに実感はないけれど、たくさんたくさん、ありがとうございました。でも言い足りないから、ちょくちょくこっちに遊びにも来てほしいなって思います。ムーンライダーズのライブのときには必ず。これからもバンドとファンをよろしくです。

 

 

セットリスト(石原真さん @ISHIHARAshin_ の画像ツイートより)

01.涙は悲しさだけで、出来ているんじゃない
02.いとこ同士
03.HAPPY/BLUE '95
04.S.A.D
05.インプロ~天罰の雨
06.無防備都市
07.ぼくは幸せだった
08.霧の10㎡
09.インプロ~月夜のドライブ
10.My Name Is Jack
11.Beep Beep Be オーライ
12.Frou Frou
13.駅は今、朝の中
14.駄々こね桜、覚醒
15.ダイナマイトとクールガイ
16.幸せの場所 with 岡田紫苑(little moa)

En1.We're Opus Boys
En2.さよならは夜明けの夢に