月夜のドライブ

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カムカムミニキーナ『しめんげき』(土佐竹取・海賊船・パノラマ島) @ 座・高円寺 阿波おどりホール

カムカムミニキーナの本公演とは別に、松村武さんを含む劇団員4人で演じることを前提に構成されている『しめんげき』。これまでは地方でしか行われていなかったこのお芝居が初めて東京で披露されるというので、やっと観られる!と喜んで2日間とも行ってきた!

 

しめんげき
座・高円寺 阿波おどりホール
2023年5月10日(水)、11日(木)
5/10 14:00開演「土佐竹取」「海賊船」
5/11 14:00開演「土佐竹取」「パノラマ島」
4,000円 全席自由

 

 

松村さんも前説で言っていたように、本公演ほど大がかりにならない人数と演目で、なるべくたくさんの地方に出かけたいという動機で始めたお芝居だと。すでに今までにいくつかの場所で公演を重ね、その度ごとにその土地にまつわる演目を増やしてきており、落語のようにいつでも披露できる持ちネタをどんどんためていきたいのだという。とてもよい試み!

 

場所はカムカムではおなじみの座・高円寺だけど、1階のホールではなく、地下2階にある阿波おどりホール。初めて中に入った!その名の通り、阿波踊りの盛んな高円寺で、連が稽古をできるようにとつくられた場所なのだと思う(高円寺の連の名入りの提灯が壁にズラリ)。広めのダンススタジオのような平面の一角が演者たちの舞台。四隅に演者の小道具などが入ったつづらや箱が置かれて、四角形に陣取られている。そのスペースをコの字に囲むように、三方に観客のためのイス席が並ぶ(本当は四方を取り囲みたかったのだけど、ホールの広さ的にそれが難しく三方になったそう)。本公演でもよく囲み客席の試みをしているカムカムならでは。(ちなみに1日目、私が座った真向い側の客席には八嶋さんがいらしてスターオーラを直で受けた!笑)

 

「土佐竹取」
作・演出:松村武
出演:松村武 長谷部洋子 田原靖子 スガ・オロペサ・チヅル

 

最初の演目は「土佐竹取」。開演前に、松村さんのみが出てきて作品の背景などをさらっと解説。有名な紀貫之の「土佐日記」と、同じぐらいの時代に書かれたと思われる作者不詳の「竹取物語」、このふたつを関係づけた、松村さんのオリジナル作品。でも「土佐日記ってあまり内容知らなくないですか?」と言われて、確かにそうだ…。紀貫之が四国に国司として赴任した帰りの船旅のことを語っているものなんだって(知らなかった!)。

 

しめんげき、普段のカムカムミニキーナ公演のカムカムらしいところを、ぎゅっと濃縮したようなお芝居!語り手としても演じ手としても巧者なカムカムミニキーナ自慢の役者が、そのとんでもない力をフル回転させて目くるめく世界を強力に立ち上げていく。「四面」の舞台の四隅に置かれたつづらや箱から、楽器やら小道具やら布やらお面やらが次々取り出されては、瞬時に世界を構築する一部になる。普段の舞台よりも人数もスペースもコンパクトな分、むしろスピード感と手数が増して、アクロバットみとイリュージョン感が凄い!また観客の私たちも舞台と隔てのない平面上のすぐ近くにいるので、お芝居を外からというより中から観ているような巻き込まれ感も。次第に、これは普段のお芝居の縮小版というようなものでなく、まったく別の体験だなあという思いが募った。

 

土佐竹取、土地の延々と続く酒宴を紀貫之(松村さん)がうっとおしがるくだりとか人間味あふれてておもしろかったなあ。私の父の妹(つまり私の叔母)の結婚相手が高知の人で、父が結婚式に出かけたときのことを「下に置けないおちょこでいつまでも飲まされるんだよ」とよく語っていたのを思い出したりした。昔からの土地柄なのかなと思うとおもしろい。歌人が登場するお話だからか、この演目では役者さんの歌がたくさん聴けてこれがとてもよかった。普段のカムカムの舞台ではソロで歌う場面があまりないけれど、長谷部さんも田原さんもとてもよい声で驚いたし、スガさんの歌すばらしかった!田原さん演じるふんわりと可憐なかぐや姫が登場して幻想文学を読むようでもあり、同時に歴史ミステリーを追うようでもあり、ドタバタ人情劇でもあり。松村さんが書くお芝居は、平安時代のことも隣近所で起こってるみたいだ。

 

それにしてもたった4人で何役やっているのかな?衣装もそのままか少し布を足したり引いたりするぐらいで瞬時に役柄を変えていく。同時に語り手もバトンを渡すように次々交替していく。効果音も音楽もこの4人が手元の楽器や鳴り物で添えていく。このスピード感で人物描写も物語上の人間関係も物理的な位置関係も、混乱も衝突もせずに流れるように進むって、想像を超える技術と稽古の賜物よ…。

 

「海賊船」
原作:岡本綺堂 脚本・演出:松村武
出演:松村武 長谷部洋子 田原靖子 未来

 

15分ほどの休憩を挟んで2つ目の演目。こちらもまず松村さんが出てきて簡単な作品の背景を説明してくれて、歴史に疎い人間には大助かり。「海賊船(かいぞくぶね)」、半七捕物帳の作者(そのことも知らなかった)の岡本綺堂の小説を原案に、松村さんが東京用にお芝居にした新作とのこと。これがすこぶるおもしろかった!(ところでこの演目で登場の和装の未来さんが髪型のせいか全く今までと印象違って、スタンバイしているときに「どなた?」と思ってしまった!しゃべりだしてああ未来さんか!とわかったけど。ますますお美しや!)

 

原作を読んだことがないのだけど、まるでアニメ映画みたいな予想以上のハチャメチャ展開、そこでそんなこと起こっちゃう!?みたいなハラハラドキドキなデキゴトの連続。これをマジックショーかアクロバット競技かという無茶なスピードでぐいぐい魅せる『しめんげき』という形態がすごいなあ。次に何が起こるの!?どうなるの!?という手に汗握るスリルで展開する1時間。『燦燦七銃士』や『ときじく』でもあったけれど、山歩きや船旅の情景をあの手この手で表現するのはカムカムの得意技だなあ、舞台の上で景色が鮮やかに動いて流れてゆく。あとこの演目でこけしを少し大きくしたような人形が2体、重要な姉妹役で出てくるのだけど、もうこれがかわいいやらおかしいやら。芝居で人形を使うのが好きと語っていた松村武さんの本領発揮といおうか。人形ふたりがいるおかげで(それを驚くべき手さばきでイキイキと動かす役者がいるおかげで)舞台上、演者が完全に「6人」という状態。寝かしつけられたり連れ歩かれたりする彼女たちがいとおしくて、守ってあげたい気持ちになった(笑)。

 

 

「パノラマ島」
原作:江戸川乱歩 脚本・演出:松村武
出演:松村武 長谷部洋子 田原靖子 柳瀬芽美

 

2日目は1演目めが昨日と同じ「土佐竹取」で、2演目めがこの「パノラマ島」。これは以前に地方公演があったときに一度配信で観ていて、そのときも画面越しにだいぶびっくりしたけど、この日目の前で生で観てやっぱり驚いた。松村さんが前説で、「あれ、変だな!?と思わないでください、変な作品なんです」と言っていたとおり(笑)。江戸川乱歩の「パノラマ島奇譚」という原作(読んだことないけど)がそもそも相当へんてこな世界を描いていて、これを舞台化や映像化なんてしようものならものすごいセットが要りそうなものだけど(過去にドラマ化はされてるみたいだけどどんなだったんだろう?)、たった4人で、人力で、こう描くか!という『しめんげき』の解釈と創造がめちゃめちゃおもしろい!目の前の四角い平面がまさにパノラマ化する驚きの体験、江戸川乱歩先生ご本人が見たら驚くだろうな~見てほしいな~なんて思ってしまう。「島」部分を表現する長谷部さんと芽美さんの身体能力にびっくりするし、松村さんと田原さんのからみは、昼下がりの刑事ドラマ再放送枠を見るようでもあって趣深い。いつも実年齢より上の役どころが多い松村さんの、蒼くて生々しい演技が見れるのも貴重だなって。あと長谷部さんの男性役はいつも歯切れがよくカッコイイね!

 

 

1日目の「土佐竹取」と「海賊船」、2日目の「土佐竹取」と「パノラマ島」、どの演目もそれぞれ1時間余りの計2時間強×2日間。松村さんは無論だけれど、長谷部さん、田原さん、未来さんというカムカム自慢の中堅役者層のとんでもなさを目の当たりにする芝居だった…!この3人が力を出し尽くすとあんな凄いことができちゃうんだ…と。スガさん、芽美さんも驚くべき力を発揮して躍動していた。

 

何しろ出演者4人が出ずっぱりの動きっぱなしなうえ、自分のセリフや動きや位置取りはもとより、小道具の操作や効果音まですべて秒刻みで行なう芝居。必要な集中力を想像するとめまいがする…!だけれど、ホッとする間もなく、ホール使用は17時までで夜の部はまた別の催しが入っているので超急いで撤収です!とのこと。お疲れさまです~!

 

最初にも書いたけど、“4人の役者で演ずる”と聞くと普通のお芝居をコンパクトにしたようなものを想像するんだけど(実際私も観る前はそう思ってた)、むしろ、「演劇」や「役者」ができることの大きさにびっくりして、その可能性にワクワクする、そんな『しめんげき』。セットや衣装や大道具小道具がしっかりしたお芝居ももちろんよいものだけれど、役者さんって「身ひとつ」でも勝負できるんだなー、強いなーと、そんなリスペクトもあらためてわいてきた。『しめんげき』が、もっともっと全国津々浦々いろんな場所で演じられたら楽しそう!それこそ海外とかもアリだよね、この「なんでもないスペースにいきなり演劇が立ち上がる」驚きと楽しさって、文化の違いにかかわらないプリミティブな感動だと思うから。

 

カムカムミニキーナ本公演とともに『しめんげき』も楽しみになってきたなー(松村さんはちょっと大変そうだけど!)。また観られますように!松村さん、演者のみなさん、スタッフのみなさん(当日カムカムメンバーも多数お手伝いに入っていた)、ありがとうございました!