小出恵介さんが出演する朗読劇を観てきた。いろいろなキャストで演じられる、5日間全8回公演のうちの一回。会場は、有楽町に新しくできたI'M A SHOW。私は初めて入った。(アイマショウと読むのは知っていたけど、「有楽町で逢いましょう」にかけているのはこの日までずっと気づいてなかったな…!)個人的には、鬼滅のドルシネ上映を観るために通った丸の内ピカデリーの階上だったので、エレベーターで上がるときなど、ちょっと懐かしいような気持ちに。
開場時間になって中へ。客席はほぼ100%女性だったんじゃないかな。舞台には、横一列に朗読のための4つの椅子が並ぶ。
朗読劇『あの空を。』
2023.7.28(金)
開場 18:30 / 開演 19:00
東京・I'M A SHOW(有楽町マリオン別館7F)
小出恵介/伊崎龍次郎/松本旭平/小松準弥
(左から 語り部役/テル役/ヒロト役/マツオ役)
作・演出:樫田正剛
音楽:宮田悟志(「あの空を忘れない」)
じつは朗読劇ってほぼ初めてだった。でも、初めこそ4人の役者さんが椅子に座って台本をめくりながらスタートしたけど、徐々に椅子から立って大きく動いたり(何しろ野球がモチーフなので球も投げるしバットも振る)、舞台の端から端まで走ったり、お互いが絡んだりして、気づけばほとんど普通の芝居と同じように観ていた。台本は手に持っていたけど、舞台上で繰り広げられるのは、朗読というよりは熱く激しいセリフの応酬。
高校野球がモチーフのお話と聞いていたので、ストレートな青春讃歌なのかなと思っていたら(そういう側面もあったけれど)、コロナ禍中に東北地方の高校球児だった3人(テル、ヒロト、マツオ)が紆余曲折を経て社会人として生きる未来の地点までを描いていて、そればかりかもっとずっと前の3.11が彼らの中に深く刺さっている様子も掬い上げていて、とても深く繊細な物語だった。
小出恵介さんはまずは語り手として登場して、ト書きにあたる地の文を静かに読んでいたのだけれど、キャプテンのヒロト(松本さん)、ムードメーカーのマツオ(小松さん)、マネージャーのテル(伊崎さん)という野球部の親友3人組の、だいぶ年上の先輩である気のいい野球部OB・ミヤギとして登場してからは、静かな語り手であると同時に人間味あふれる芝居も見せてぐいっと観客を引き込んでいく。世話好きでいい人なんだけどやや自分勝手…そんな、つい笑ってしまう過剰なキャラ造形もよかったし、じつはそんなミヤギに、謎の過去も影の部分もあって…と次第に明らかになっていくプロセスが、とても小出恵介さんらしかった。ためらいや逡巡や割り切れなさ、そうした言葉にできない揺らぎを、観る側の心にすっと伝えることのできる役者さんなのだよね…。
私は初めて拝見した3人の若いイケメン俳優さん。普段は2.5次元の舞台などを中心に活躍する方なのかな?それぞれ皆、渾身の演技がとてもよかった。松本さんと小松さんは実際に東北ご出身のようで、板についた東北訛りが、土地と愛憎半ばしながら結局その土地を離れ(られ)ずに生活することになるヒロトとマツオの心中をせつないぐらいに表現していた。伊崎さんの存在感は、ヒロトとマツオに憧れながらも振り切るようにして自分の道を行くことになるテル役にぴったりだった。
シリアスなストーリーではあるけれど、学生時代のやりとりには高校生特有のバカバカしさもあり、野球部が舞台のカラッとしたシーンもふんだんにあって楽しかった。芝居中のちょっとしたお楽しみであるアドリブコーナー(私が観たこの日のソワレでは、小出恵介さんの前で、小松さんによるROOKIES御子柴のモノマネまで飛び出した!笑)もサービス精神たっぷり。何よりこのキャスト4人の元々の性格なのか、舞台がつねに明るい生命力にあふれていて、希望を感じるラストとあいまって、とても前向きな気持ちになれた。
100分間の上演を観ていて、4人の息がぴったりだったし本当に仲良さそうに見えたので、だいぶ稽古を積み重ねたんだろうなあと思っていたら、カーテンコールで、稽古がたった1日、そして本番が(このキャストでは)今日の昼夜2回だけ、と明かされてびっくり。朗読劇とはいえ1日の稽古でこれだけの熱量をもった緊密なお芝居に仕上げられるなんて、プロの役者さんって凄いな。お互い今回ほとんど初めましての間柄だったそうだけど、舞台上の4人は本当に昔からの知り合いのように目に映った。
コロナ禍。ついこの3年のことであり、遠のいたようで、まだすぐそばにあって。このあとどうなるかはわからないけれど、たとえ世の中がすっかり元通りになったように見えたとしても、3年前、新型コロナの蔓延や緊急事態宣言やステイホームで世界が一変してしまい、この高校生たちみたいに大切なものを奪われてしまった人がたくさんいたことは、忘れちゃいけないんだと思う。それは、もっとさかのぼって、3.11の震災だってそう。世の中の時計は勝手に進んでいき、みんながそのことを忘れてしまったように見えても、忘れちゃいけないんだと思う。マツオのように、目に見えてずたずたになってしまった人もいる。また、表には見えないけれどヒロトやテルだってひどく傷ついたはず。芝居には登場しない、3.11で命を落としてしまった彼らの友人もいる。そうした傷を「ないこと」にしちゃいけないんだと思う。
そして、誰かが抱えた傷を、癒すことまではできなくても、せめてそばに寄り添えたら、と思う。マツオにとっての、ヒロトやテルやミヤギさんのように。たとえ、傷をすべて「ないこと」にしたい空気が世の中を席捲したとしても、誰かそういう人がひとりでもそばにいれば、独りぼっちにはならないのかなと思う。そんなことを感じた『あの空を。』だった。
朗読劇、と聞いて勝手にイメージしていたライトな感じよりも、ずっと骨太で観応えがあり、真摯なお芝居が心に残った。小出さんが、芝居の役柄としても、また役者としても、後輩たちを温かく見守る立場でいたことも、何か感慨深かったな。小出恵介さん、伊崎龍次郎さん、松本旭平さん、小松準弥さん。この4人のキャスト、組み合わせで観れてよかった。熱演、お疲れさまでした。
【公演期間】2023年7月26日[水]~30日[日] 全8回公演
7月26日(水)19:00
升毅/安井一真/小澤雄太(劇団EXILE)/加藤大悟
7月27日(木)15:00/19:00
柳沢慎吾/小泉光咲(原因は自分にある。)/寺坂頼我/瀬戸利樹
7月28日(金)15:00/19:00
小出恵介/伊崎龍次郎/松本旭平/小松準弥
7月29日(土)15:00/19:00
小田井涼平/吉澤要人(原因は自分にある。)/廣瀬智紀/鍵本輝(Lead)
7月30日(日)13:00
升毅/安井一真/小澤雄太(劇団EXILE)/加藤大悟
(敬称略。左から、語り部役/テル役/ヒロト役/マツオ役)