月夜のドライブ

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『徒花に水やり』 @ 下北沢ザ・スズナリ

MONOの土田英生さん、猫のホテル千葉雅子さん、KAKUTAの桑原裕子さん、そして岩松了さんというそうそうたる劇作家兼役者の4名に、女優の田中美里さん。この出演者の名前見ただけで気になりすぎてしょうがなかったお芝居。チェックはしていたものの気づいたときには発売日を過ぎてチケット完売してしまってた。オーマイガッ…でもありがたいことに当日精算の予約席が若干出たので(その他に当日券も出た)、ソッコー予約。いやほんと観られてよかったよー!

 

千葉雅子×土田英生 舞台製作事業VOL.2
徒花に水やり
作・演出 土田英生
出演 田中美里 桑原裕子 千葉雅子 土田英生 岩松 了

スタッフ
企画|千葉雅子土田英生
舞台美術|柴田隆弘 照明|宮野和夫 音楽|園田容子 音響|島貫 聡 衣裳|中西瑞美 
演出助手|朝倉エリ 演出部|神野真理亜 舞台監督|佐々木智史、織田圭祐、村上洋康
宣伝美術|榎本太郎 宣伝写真|江森康之 宣伝ヘアメイク|新井寛子 WEB|沖本好生、野邉俊輔
制作|垣脇純子、本郷麻衣 企画協力|Monkey Biz

主催:キューカンバー
協力:アンプレ、KAKUTA、ザズウ、東宝芸能鈍牛倶楽部猫のホテル、MONO

東京公演
2021年12月15日(水)-12月19日(日)
ザ・スズナリ
伊丹公演
2021年12月22日(水)・12月23日(木)
AI・HALL(伊丹市立演劇ホール

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とは言っても、出演者のみなさんについて私は特に詳しいわけではなく、でも土田さんのお芝居好きなのと、まさにその土田さんを初めて観た舞台(『きゅうりの花』再々演 2017年)に千葉さんも出演されていてとてもよかったから、絶対おもしろいに違いないという確信はあった。KAKUTAの役者さんはカムカムミニキーナの客演で観たことがあったけどKAKUTA本体は観る機会がないままだったので、桑原さんは今回初めて!そして岩松了さん、私、役者さんという認識なかったんだよなあ…ドラマとか映画とかたくさん出てらっしゃるのを今回初めて知った、というかご本人の風貌を初めてちゃんと見て(あれ、知ってる顔…?)と記憶の中の役者さんの顔と一致したというか。それにしても、芝居好きなら誰もが知ってるような作演出家であり劇団主宰だったりもする一筋縄ではいかないメンバーが、土田さんの作品・土田さんの演出で役者として演ずるってどんな風なんだろ?という興味も大。

 

私がはせ参じたのは12/16(木)の夜の回。暗い中に浮かぶ「鈴なり横丁」の電飾と「ザ・スズナリ」の看板、グッとくる。当日精算のチケットで通されたのは、普通席と舞台のあいだのベンチシートで、後から買ったのに申し訳ないぐらいの舞台かぶりつき席(腰痛持ちの人だったらちょっと辛いかもだけど私は大丈夫)。目と鼻の先に組まれているセットを眺めながら開演を待つ。

 

この、芝居が始まる前のセットだけでもう楽しめた!昭和テイストあふれる、そしてどこか成金趣味も思わせる居間。畳の上に敷かれたじゅうたん、ゴブラン織りの生地が張られた居間セット、ハンドメイドの毛糸のカバーのかかったクッション、昔の家に必ずあったようなキャビネット、熊の木彫りの置き物、天井にはシャンデリア風の照明、和とも洋ともつかぬ、私のような昭和生まれにはなんとも懐かしいような気もする空間。ただ、壁に刀が2本飾られていて、それだけはわが家にはなかったなあなどと思いながら眺めていた。なるほどその刀が、あとの芝居の中で意味を持ってくるのだった。

 

物語は、誰かの到来をそわそわと待つ3人のきょうだいの様子から始まる。ここがとある田舎町で、きょうだいは久しぶりに集まる機会であり、姉(千葉さん)は実家を独りで守るしっかり者、兄(土田さん)はヤンチャで学がないけれど気のいい男、妹(桑原さん)は数回の離婚歴がある飲み屋経営の女、といったことが会話の中から立ち現れてくる。こうした情報が、説明的にではなくちょっとした会話の端々からこぼれ出てくる感じがたまらない。この3人が、それぞれ大いに欠点もありながら、世話焼きだったり人懐っこかったりざっくばらんだったりと、人間的な魅力にあふれていて憎めない。じつにじつに千葉さん、土田さん、桑原さんという役者の力を感じるところ。とりわけ、私は今回初めてだった桑原さん、おっもしろいなー。アバズレてて口が悪くて兄ちゃんとしょっちゅうやり合ってる(いい大人なのに掴み合いまでする)女の役が、(私が勝手に持っていた桑原さんのイメージからは意外だったのだけど)とっても魅力的で惹きこまれた。

 

この3人が心待ちにする登場人物が、離れて育った腹違いの妹だということが次第にわかる。この家にはない都会的な品の良さをもたらす女性を、田中美里さんが体現していて舌を巻いた!居間の引き戸を開けたとたんのあふれ出すようなキラキラ感!さらにこの妹が連れてくる婚約者(岩松さん)が極度の人見知りで初対面の人とはしゃべれない、というとんでもない設定で展開される居間でのひと幕が、めちゃめちゃおもしろかったなあ。

 

実はこの婚約者が、ヤクザのごくごく小さな組の組長だった父親を陥れた仇だったということが明らかになり、物語は一転していく。ドタバタしたホームドラマだったのが急に緊迫した展開になりちょっとドキドキ。そうなると岩松了さん急に怖く見えるし!

 

この事件と、姉と兄の三女へのちょっとした疑いを端緒に、「仲のいい家族」に向けてそれなりに努力していた4人の気持ちがズレ始め、散らばっていってしまう。それはあまりにあっという間でとてもせつない。長女は、地味な人生だと妹に言われたことが心に引っかかり、次女は小さい頃から私は愛されていなかったという気持ちをふくらませ、腹違いの三女はやっぱり「家族」には入れないのだと悲しむ。

 

バラバラになりかけた家族はラストに修復されるのだけど、4人の心をひとつひとつ結び直していくのは、日常のどうってことない些事だ。「ごはん食べよっか」だったり、ワーワー言いながらスマホで撮る家族写真だったり、兄が「家族のやつ」と呼んでやりたがるトランプだったり。三女が札を配り、兄と次女がくだらないことを言い合いながらみんなでババ抜きを始めるラストシーンは、誰しもの記憶の中にある風景を呼び起こしてとてもいとおしかった。輝かしい人生とか大きな成功とかいうのからは程遠いながら、こんな笑い合える瞬間のある小さな人生も、それと同じぐらいとうとい。

 

それにしても…土田さんやっぱりすごいな。『きゅうりの花』のときの“盆踊り”に感じたことを、今回の“トランプ”にも感じた。平凡すぎてふだん気にも留めない小さなモチーフが、観る者誰しもの思いを大きく巻きこむ装置になっていく。編み物、コーヒーメーカー、ハンバーグ、形見のエプロン、こけし、遠足のお弁当、トランプ…。なんでもない些末な出来事にこそ「家族」が、「人生」が、宿ることを、些末な出来事をこそいきいきとやりとりする5人の役者のふくよかな芝居が見せてくれる。どの瞬間を切りとっても、おもしろいセリフといい演技に満ちている、何とも贅沢なお芝居だった。観に行けてよかったなー。

 

チラシとチケット.jpg