月夜のドライブ

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【あとからメモ】江戸糸あやつり人形 結城座『十一夜 あるいは星の輝く夜に』 @ 東京芸術劇場シアターウエスト

(2021年6月5日に観た、結城座『十一夜 あるいは星の輝く夜に』の感想文。途中まで書きかけたままだったのを、後日のBS放映を観た感想もまじえて、今さらながらですがアップしました。2022年01月)

 

花組芝居の植本純米さんのTwitterから、この公演に出演するという情報が数カ月前ぐらいから流れてきて、最初はあまり概要もつかめずにいたのが、『人形と共演…?しかも人間側の演者は植本くんだけらしい…』というあたりからとても気になってきて、情報を眺めていたらどうにも「呼ばれている」としか思えなくなってきて、ギリギリにチケットをとって観に行ってきた。やっぱり呼ばれていたんだなあと思う。観に行ってよかった。

 

結城座旗揚げ 385周年記念公演第一弾
結城数馬改め十三代目結城孫三郎襲名披露公演
『十一夜 あるいは星の輝く夜に』
2021年6月2日 - 6月6日
東京芸術劇場シアターウエス

翻案・演出 鄭義信
原作 W・シェークスピア「十二夜
人形デザイン(頭) 伊波二郎
衣裳(人形・人間) 太田雅公
音楽 久米大作

出演
結城数馬改め 十三代目結城孫三郎
結城育子 湯本アキ
小貫泰明 大浦恵実
三代目両川船遊(十二代目結城孫三郎)
客演 植本純米

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なぜ呼ばれたと思ったのかを書いておくと…。まずひとつは、結城座さんという人形劇団が私の住む地に近い場所(東京都下)に拠点を持っているのを知ったこと。もうそれだけで大いなる親近感。それから今回の新作「十一夜」の人形の頭をデザインしているのが伊波二郎さんだと知って驚いたこと。伊波さんは私の好きなバンド・ジャック達のファーストアルバムのジャケ絵などを手がけられているイラストレーターさんで、私にとっては(一方的に)縁浅からぬ方。あの絵柄が人形に!?と興味しんしん。それから今回のお芝居が福島弁で演じられていると聞いて、さらに“呼ばれてる”と思った。亡き母の実家が福島。あの耳なじみのある言葉で演じられるお芝居、観てみたい。

 

でも決定打はやはり、バラをくわえて着物の裾をからげた植本くんが人形のあいだを駆け抜ける稽古の様子を映した告知動画が頭から離れなかったことかな。人形と人間が一緒に芝居を!?シアターウエストで!?という興味が大きかった。それでチケットを取って、不勉強であまり知らなかった「八百屋お七」とシェークスピア十二夜」をほんの少しだけ予習して臨む。

 

舞台には赤い毛氈と金屏風がしつらえられており、まずは十三代目結城孫三郎さんが十二代目と並び、襲名披露の口上。こんな記念の場に立ち会うことができるなんて、それだけでありがたみがある。その後、屏風が払われ『伊達娘恋緋鹿子(だてむすめこいのひがのこ) 火の見櫓の場』。美しい衣裳に身を包んだお七の人形を操るのが十三代目。私がまったく予想していなかったのが、人形の台詞は、人形を操る方が生で発声するということ。心底びっくり!録音された声や音に合わせるのかな、となんとなく思っていたので。孫三郎さんが朗朗と響かせるお七の台詞、孫三郎さんが操るお七の妖艶な動き。これは…人と人形、ではなく、人形の体をした「役者ひとり」がそこにいる、ということだ…!

 

本編の『十一夜 あるいは星の輝く夜に』は、先ほどの古典とは打って変わって、(舞台から遠い席だったのでつぶさには見られていないけれど)伊波さんデザインの個性的でモダンなお顔立ちの人形たちが登場。操る皆さんも和装から洋装に。シェークスピアの「十二夜」自体が、女性のヴァイオラと男性のセバスチャンの双子が嵐で難破して生き別れ、男装してシザーリオと名乗ったヴァイオラを、使いの相手であるオリヴィアが男性と思いこみ好きになってしまい…という男女が錯綜するお話で、さらに女性の登場人物であるヴァイオラを孫三郎さんが、オリヴィアをまた別の男性の人形使いさんが演じる。ああ、楽しい。しかも道化の役柄をはじめとして何役も演ずる、舞台上ただひとりの人間である植本純米さんは、(今回はすべて男性の役柄だったけど)花組芝居きっての稀代の女形ときてる!シェークスピアの魔法が及んでるような不思議な仕掛け。

 

それにしても結城座のあやつり人形、衝撃と言っていいぐらいいろいろ驚いた…!「人が人形を操演する」、その巧みさを観るものだとばかり思っていた先入観は壊され、(いやもちろん巧みさにも唸るのだけれど、それ以上に)人間と人形とが一体となってそこに生まれる、登場人物そのものの魅力にすっかり心を奪われてしまう。十三代目孫三郎さんが演ずるヴァイオラは、はかなげでありながらしたたかでもあり、運命のいたずらをどう切り抜けるのか目が離せない。両川船遊さん(十二代目)が演じる道楽者、サー・トービーがさすがのひと言、千鳥足で酒臭いげっぷをし興に乗って逆立ちまでしてみせる酔っ払いっぷりに大笑いした。それから心に残ったのが、小貫泰明さんが演じていたオリヴィアの可愛らしさ。着物を着たオリヴィアの話す福島弁が人なつこくて愛らしくて、声は男性なのだけど、観るうちにすっかりオリヴィアの魅力の虜になってしまった。

 

そうした何人ものにぎやかな登場人物たちとやり合う、舞台上ただひとりの人間(ということも途中から忘れてしまうけれど)である、道化(「太鼓持ち」と翻案)役の植本純米さんが素晴らしかった。人形たちの話をうんうんと聞き、けしかけ、いさめ、あいだを取り持ち、サー・トービーに乞われて別の役に早替わりしての登場もし(笑)、道化として朗朗と歌を聞かせる。そのエンターテナーぶり!人形とは大きさも格段に違うので演技にも工夫や配慮が必要なのだろうと想像するけど、観る側にはそんなことを何も感じさせず、ただただ楽しませてくれた。

 

結城座の人形たちと植本純米さんが一緒に立つ舞台を観て、ハッとするような感じもあった。役者は“生身の人間だから”ではなく、何かに命を宿らされて、生き生きと芝居をする、その意味では人間も人形も舞台上で等価なのだなと。道化として軽やかに飛び回る植本純米さんの飄々とした身体が、そのことをより際立たせていたように感じた。

 

物語の終わりは、道化の祈りの言葉により、「あの日」の夜と結びつく。3.11の、あの日の夜と。だから十二夜でなく「十一夜」なのだと、だから福島弁なのだと、私はここで初めて気づいた。そのラストは多少唐突な感じもあったのだけれど、笑えて泣けて馬鹿馬鹿しいドタバタ喜劇のようなこの私たちのささやかな日常が、あの日のような夜を、無数の絶望を、“超えて続け”という祈りなのだと受け取った。それは、現在演劇界が陥っているコロナ禍という困難にも地続きで、私たち地上の者はきっとそれをも超えていくという、意志であり天上の人々への誓いのようにも思えた。385年続く結城座の舞台で、それはより大きく強く響く。

 

とても楽しかったし、あやつり人形というものの印象も根底から覆された公演だった。「旗揚げ三八五周年記念公演」にして「十三代目結城孫三郎襲名披露公演」で、襲名披露の口上と伝統的な「八百屋お七」の演目が観られた上に、シェークスピアの翻案劇を鄭義信さんの演出と植本純米さんの客演で。盛りだくさんにして贅沢極まりない数時間。観られてよかった。

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伊波二郎さんが頭をデザインした人形たち。パンフレットより

 

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