月夜のドライブ

ラブレターバンバン書いて紙飛行機にして 宛てもなく空に飛ばすブログです。▶プロフィールの「このブログについて」をクリックで記事一覧などに飛べます。

『喜劇 お染与太郎珍道中』 @ 新橋演舞場

2月13日(土)に新橋演舞場で、渡辺えりさんと八嶋智人さん主演の『喜劇 お染与太郎珍道中』を観てきました。新橋演舞場の雰囲気味わえるだけでも、と思い、三階の安い席を取って双眼鏡持参で行ったのだけれど、舞台はとてもよく見えたし遠い感じもなく、本編2時間半(休憩入れて約3時間)をみっちり楽しめて大満足!これで3,000円は安すぎる…。

 

お染与太郎外壁.jpgお染与太郎3階席.jpg

喜劇 お染与太郎珍道中
会場:新橋演舞場
日程:2021年2月1日(月)~17日(水)
【ご観劇料(税込)】
一等席:12,000円
二等席:8,500円
三階A席:4,500円
三階B席:3,000円

スタッフ
作:小野田勇(『与太郎めおと旅』より)
演出:寺十吾

キャスト
お染:渡辺えり
与太郎・お役者小僧:八嶋智人
 
べらぼう 半次:太川陽介
島田重三郎:宇梶剛士
地武太治部右衛門:石井愃一
小番頭 庄助:深沢敦
大番頭 善六:春海四方
山伏白雲坊実は同心右門:石橋直也
山伏黒雲坊実は同心伝六:三津谷亮
弥左衛門:有薗芳記
巡礼お弓:一色采子
投げ節 おこま:広岡由里子
むかで丸後におむか:あめくみちこ
泡手 十郎兵衛:西岡德馬

 

米問屋の一人娘のお染と、お染を一心に慕うちょっと間抜けでお人好しの手代・与太郎と、二人が旅の先々で出会う人々との物語。幕が開くとまず、米俵を積みあげた店先で働き手たちが威勢よく声を合わせて歌っている場面。その華やかなセットと底抜けに明るくにぎやかな空気に、自分でも驚いたけれどいきなり涙があふれた。コロナ禍のせいもあって、私も生の舞台はお芝居や音楽のライブ通じてとても久しぶり(今年初めて)だったのだけれど、やっぱり私はこの「非日常」を、「ハレの場」を、心から欲していたんだな…と。

 

お染と与太郎のコンビがひょんなことから夫婦(めおと)を装って江戸から京へと五十三次を上ることになるのだけど、その道中に、生き別れた家族の人情話やら親のかたき討ちやら天下の大泥棒の大捕物やら虫の化け物との立ち回りやら、見どころがこれでもかと盛り込まれていて、絢爛なセットの中で錚々たる演者が惜しみなく力を発揮しての大騒ぎ、まあ楽しいこと!えりさん八嶋さんは勿論、西岡徳馬さん宇梶剛士さん深沢敦さんあめくみちこさん他…手練の役者の芝居をいちどに観るとはつくづく贅沢な体験。西岡徳馬さんはKERAさんの『祈りと怪物』で観たときの飄々とした魅力がその意外さと共に心に残っているけれど、端正な立ち姿とそこからこぼれる可笑しみ、やっぱりなんとも魅かれる役者さん。それから生で初めて拝見した太川陽介さん、私世代にとってのTVアイドルだけど、べらんめえ口調がいなせなべらぼう半次役がめちゃめちゃカッコよくて、つい双眼鏡で追いかけてしまった!

 

主役のえりさんと八嶋さん、どちらも愛らしかったなあ。芸達者なお二人の全身から「喜劇」があふれ出す、そのはち切れんばかりの面白さ!大衆演劇のハチャメチャで荒唐無稽なパワーを、このお二人がひとシーンひと演技ごとに体現していた。八嶋さんは一人二役で「お役者小僧」も演じていて、粗忽な与太郎とは打って変わった粋なカッコよさも見せていた。カムカムミニキーナファンとしては、昨年『燦燦七銃士』で八嶋さんが演じた“人気役者”役と交錯する部分もあって、たおやかに舞いきりりと見得を切る姿に、八嶋智人という役者の本分を垣間見てドキッともしてしまったし、五十三次を上る中「箱根」でひと騒動ある場面では、『燦燦七銃士』の荒水(八嶋さん)がまさに箱根で籠城したシーンも思い出されてグッときてしまったし。なんとも不思議で楽しいシンクロニシティ

 

えりさんの素晴らしい歌(あんなにお上手なの知らなかった…!)がふんだんに盛り込まれていたり、あめくみちこさんのNiziUダンスが披露されたり(笑)、とにかく隅から隅までサービス精神満点のお芝居。舞台美術も、冒頭の米問屋から船着き場、宿場の茶屋から温泉宿、さらに森の中の虫の化け物の住処と、目の覚めるような見事な空間が次々に現れて眼福。特に、表玄関から上がり口、裏に回って階段で結ばれた二つの部屋の中が見えるよう立体的に組み上げられた温泉宿のセットは、美麗な浮世絵を見るようだった(三階席から見下ろすように観ていたから余計)。ステージングをカンパニーデラシネラの小野寺修二さんが手がけると聞いたのもこの舞台に興味をひかれたポイントだったのだけれど、ラストの廻り舞台を駆使してのお役者小僧と追手の立ち回りなどもたぶん小野寺さんがつけた動きだったのかしら、とてもイキイキと美しかった。これも三階席からだと奥行きまでより楽しめて得だったかも。

 

最後の最後、お話の中に現実の観客を招き入れるとある演出もとても楽しく、コロナ対策のための市松配置でともすれば普段より寂しく思えてしまいそうな場内を、ぐっとひとつに「心を密に」してくれた。実際三階席の私も、舞台に届くように精一杯拍手をして、すぐそこにいる気がするお染や与太郎やみんなに思いきり手を振ったもの。ああ楽しかった!

 

こういう喜劇を芝居小屋で観て大いに笑って心を満たされて、庶民はまた明日からの日常を生きる力をもらうんだな、それはまさに江戸の昔も昭和の時代も令和の今も変わらないんだなと、コロナ禍に気持ちが沈みがちな今だからこそ、余計にそう感じられた。やっぱり演劇や音楽といった表現にナマで触れる機会って、私たちにとって切実にかけがえのないものなんだなって。

 

八嶋さんが出るのでなければ、普段の私ならなかなか行かないタイプのお芝居だったけど、めちゃくちゃ面白かったし元気出たし楽しかった!年明け、と言うには少し遅いけど、私にとっての今年の幕を開けるお芝居がこれだったことに、この先もきっととても力づけられると思う。ありがとうございました!

 

20201218_01.jpg20201218_02.jpg