月夜のドライブ

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丸山隆平さん×八嶋智人さんが観られた!『パラダイス』 @ シアターコクーン

シアターコクーン赤堀雅秋さん作・演出の『パラダイス』を観た感想、時間が経ってしまったけれど、ほんの少しだけメモ。チケット2回とれていて(どちらも2階席だったので遠かったけれど)、10/19(水)のソワレを娘(現役エイター、丸担)とふたりで、あと10/24(月)のマチネーをひとりで、観てきた。

 

COCOON PRODUCTION 2022『パラダイス』
作・演出:赤堀雅秋
出演:丸山隆平八嶋智人、毎熊克哉、水澤紳吾、小野花梨、永田崇人
   飯田あさと、碓井将大、櫻井健人、前田聖太、松澤 匠 
   赤堀雅秋、梅沢昌代、坂井真紀、西岡德馬
企画・製作:Bunkamura

 

【大阪公演】
公演期間:2022年9月25日(日)~10月3日(月)
会場:森ノ宮ピロティホール【全11回公演】
チケット料金:¥11,000(全席指定・税込・未就学児童入場不可)

 

【東京公演】
公演期間 :2022年10月7日(金)~11月3日(木・祝)
会場:Bunkamura シアターコクーン【全 29 回公演】
チケット料金:S 席¥11,000 A 席¥9,000 コクーンシート¥5,500(全席指定・税込・未就学児童入場不可)

 

 

赤堀雅秋さんはナイロン100℃の舞台で役者として2回観たことがあるだけで(『イモンドの勝負』と『睾丸』。そういえば『睾丸』には坂井真紀さんも出演していて、坂井さんはこのときも立派な“台所女優”だった)、作家・演出家としてのお芝居は観たことがなかった。なんとなく赤堀さんの作品を私は苦手なんじゃないかな…とうっすらと先入観をもっていたところがある。女優の宮下今日子さんがこの『パラダイス』観劇後の感想で「赤堀作品ならではの重さと嫌さと楽しさと絶妙な塩梅」と表現していた、まさにその「重さと嫌さ」の部分が。で、確かに『パラダイス』は、重くて何とも言えない後味が残る作品だったけれど、特に2回目を観たあとは、そのざらついた後味をこそ何度も反芻していたりする。

 

主役である関ジャニ∞丸山隆平さんの熱演、そして脇を固める面々の達者な芝居!あんな中に投げ込まれて、マルちゃんは役者として最高に幸せだろうと思う。マルちゃんについては個人的に昔から小劇場の役者っぽさを感じていて、本人も芝居の仕事が本当に好きそうだし合っていると思うし、いろんな演出家にどんどん魅力を引き出されろ!と思っているけれど、赤堀さんにシビアな芝居を望まれ応える丸山隆平、も、とても見ごたえがあった。

 

私の大好物の、本気で怖い八嶋智人さん!めちゃめちゃ明るい笑顔でしんしんとおっかない感じを突きつけてくる、まじ怖かった最高。私はたぶんお初に観る水澤紳吾さん、毎熊克哉さん、おふたりの存在感がとてつもなくよかった。八嶋さん水澤さんコンビの、ユーモアがカミソリのように冷酷に空(くう)を切っていく怖さ、丸山さん毎熊さんコンビの、ほんのちょっとの優しさが捨てきれないせいでどんどん袋小路に追い詰められていってしまう苦しさ、それぞれとてもよかった。

 

しゃきしゃきと台所で動き回りながら、ときどき底が見えないほどの悲しみの深淵を見せる坂井真紀さんの演技、なんともいえず凄みがあった。そして、老夫婦を演じる西岡德馬さんと梅沢昌代さんの唸るような巧さよ!おふたりの会話のなんというおもしろさとふくよかさ。なにげない台詞や動きのニュアンスの端々に、年輪を重ねた役者の凄さを見せつけられる。恐ろしい!また、細いロープの上を必死で渡っているような小野花梨さんの切実な演技もとても印象的だった。そして赤堀さんの存在感の一撃必殺ぶり。役者さんってしみじみすごい。

 

舞台上、とんでもない狂気と地獄が描かれているのだけれど、どのエピソードも日常のすぐそばでニッコリ微笑んでいるようなカジュアルさで迫ってきて、ヒリヒリした感触はいやおうなく自分の内側を侵食してくる。犯罪、家族、借金、老い、病気、心の病、どれひとつとして他人事ではない。

 

特に2回目観た後に胸に迫ってきたのは、「家族」というもどかしいような存在と、主人公・梶(丸山)との距離感。千葉の片田舎にある実家の、パッとしない家業、愚鈍にさえ思える両親、あか抜けない姉、どこにも行けないどん詰まった空気。若い時にはあまりの希望のなさに心底その場所が嫌になって家を飛び出したであろう主人公だけれど、でも彼が時をおいて再び接する「家族」は、相変わらずよどんだような空気の底にありながら、なぜか安心感も感じられるような場に変化していた。

 

猫を探している合間にガードレールに並んで姉と弟でかわしたぎこちない会話が、そのことを象徴していてせつなかった。「タワーマンションのベランダでワインを飲むような生活に憧れていた」と笑い、でもそれをせずにつまらない生活にとどまった姉と、それをしたことで道を踏み外してしまった弟。どちらも大して幸福ではないとして、どっちがよりマシな不幸せなんだろうね、と客観視するような乾いたビターさ。丸山隆平さんと坂井真紀さんの微笑まじりの寂しい会話、とても心に残った。

 

紆余曲折あった老いた両親がなんとなく仲直りして、文句を言って手をつけずにいたカレーライスをそれぞれに食べ始める場面があるのだけれど、あんなに嫌だと思った“3日目のカレー”もまあいいかと許せるようになっていく、そんなある意味だらしなくある意味優しさに満ちた「家族」の有り様は、とてもリアルで心に刺さった。ヤクザのビルの屋上でカタストロフィーを何重にも重ねたような決定的な破滅を迎えたと思った主人公が、ラスト、実家に戻ったような描写で終わるのは、荒んだできごとだらけの中にもかすかな光を感じていいのだろうか。

 


関ジャニ∞丸山隆平」を主役に据えたお芝居としては驚くほど派手さのない、「芝居そのものの醍醐味」でしかできていない(もちろんホメ言葉)重く骨のある舞台だったと思う。よい役者のよい芝居でがっちり構築された建造物のようだった。個人的には、10年ぐらい前からひそかに『丸山隆平×八嶋智人の舞台を観てみたいな』と、そしてきっといつか実現するはず、と思っていたのが、(コロナ禍で一度は流れてしまったものの)かなってうれしかった。マルちゃん、八嶋さん、すべての役者さん、スタッフのみなさん、そして作・演出の赤堀さん。見ごたえのあるお芝居をありがとうございました!