月夜のドライブ

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『ミネオラ・ツインズ』 @ 青山スパイラルホール

昨年、1年で最初に観た舞台は八嶋智人さん出演のお芝居(『喜劇 お染与太郎珍道中』新橋演舞場)だったのだけど、奇しくも今年もそうなった。八嶋さん出演の『ミネオラ・ツインズ』。でも今回の作品は、昨年の松竹の喜劇とはだいぶ毛色の違う、アメリカの現代の劇作家による翻訳劇。八嶋さんが出るのでなければ、私などはなかなかチケットを取ろうとは思わないタイプの舞台かも。ところが、これがめちゃめちゃ刺激的でおもしろかった!私が観たのは、1/12(水)のマチネー。

 

ミネオラ・ツインズ
~六場、四つの夢、(最低)六つのウィッグからなるコメディ~

●会期
2022年1月7日(金)~1月31日(月)
●会場
スパイラルホール(スパイラル3F)
●作
ポーラ・ヴォーゲル
●演出
藤田俊太郎
●キャスト
大原櫻子 八嶋智人 小泉今日子
王下貴司 斉藤悠
●美術
種田陽平
●照明
日下靖順
●衣装デザイン
伊藤佐智子
●音響
加藤温
●映像
横山翼
●ヘアメイク
宮内宏明
●ステージング
小野寺修二
●舞台監督
瀬﨑将孝
●プロデューサー
北村明子

 


アメリカ郊外の小さな町ミネオラで生まれた、正反対の性格の双子の姉妹、マーナとマイラが、アメリカの1950年代、1969年、1989年、という時代の流れの中を生きる様子を描くお芝居。この設定だけ聞いたときには、国も時代も違うお話に観客としてすぐに入り込めるかな?という心配も感じなくはなかった。けれど実際には、お芝居のそこかしこにありとあらゆる楽しみ方ができるとっかかりが用意されていて、刺激的だしエキサイティングだし、当初の心配が嘘のようにとっても楽しめた。

 

まあ何よりも、まずはとにかく大原櫻子さん!すごかった!私は彼女に関して、大人気の歌い手さんというぐらいの浅い認識しかなくて役者としての側面もほぼ知らずに臨んだから、余計に、思いもよらぬ破格の演技の力を目の前で見せつけられて、頭殴られたぐらいの衝撃を受けた。ステージ度胸、表現力、動き、発声、舞台勘、何もかもが一級品の女優さんでびっくりした。稽古の様子を伝える動画やツイートで八嶋さんや小泉さんが大原さんのことを絶賛してるのは見ていたけれども、これほどとは。弱冠26歳の小柄な身体から堂々としたお芝居があふれだすのを目の当たりにするのは、驚きでしかなかった。

 

このお芝居に作家がつけた「~六場、四つの夢、(最低)六つのウィッグからなるコメディ~」という副題。つまりは、何時代にもわたる双子の人生を、特別なギミックを使うわけでもなく、ウィッグと衣装を変えるという非常に素朴なやり方でたった一人の役者が演じきる。マーナもマイラも、それぞれに極端さと激しさを持っていて、その主人公ふたりの狂奔ともいうべき姿を、大原櫻子さんが真正面からストレートに、豊かな表現力をもって、そして楽しくチャーミングに演じていて、ほんとうに素晴らしかった。

 

舞台セットが独特で、四角いホールの真ん中にしつらえられたステージを、両側からひな壇状の客席が挟んでいる形。役者はステージ上では両側から観客に覗きこまれていて逃げ場がない。このセットは、観客のほうにも、双子の人生の「現場を目撃している」緊迫感をもたらしていたと思う。ステージングを手がけるのがカンパニーデラシネラの小野寺修二さんなので楽しみにしていたのだけれど、この長方形の平面を美しく使いこなすさまざまな発想が素晴らしかった!ステージ上の2つの大きな箱があっというまにベッドになったりデスクになったりバーカウンターになったり。箱を立てる、寝かせる、くっつける、離す、それらを主に担っていた王下貴司さんと斉藤悠さんの動きは、まるで美しい魔法のようだった。ステージに脱ぎ捨てられた衣装やさまざまな小道具を、主役も含めた全員がサッと運び去ったり運び入れたりして行う場面転換も見事でうっとり。セットそしてステージングだけでも、とんでもなくエキサイティング。

 

マーナとマイラ、それぞれの恋人である男性のジムと女性のサラを演じるのが小泉今日子さん。そして、マーナとマイラの、やはり性格のまったく違う14歳の息子、ケニーとベンを演じるのが八嶋智人さん。観る前はあまり意識していなかったのだけれど、ジェンダーも年齢もまるでしっちゃかめっちゃかなこの配役がほんとうに絶妙で。

 

まだ10代のマーナの恋人として登場するジムは華やかな世界に生きるスマートでちょっと軽薄な広告マンで、それはこの役を演じるKYON2がバブル華やかなりし時代のアイドルだったこととも重なり合って見えたし、年を経たマイラの同性の恋人サラは、進歩的で時代の先を軽やかに生きる今の小泉今日子さんに大いに通ずるところがあるように思えた。保守的な母マーナに背を向け反体制的な考えに身を投じていくケニーと、急進的な母マイラに反発し伯母のマーナの保守的な思想に惹かれていくベン、両極端な14歳のふたりを51歳の八嶋さんが演じるのもドキドキするようなおもしろさがあった。3人ともが一人二役で、性別も年齢も時代背景も絡まり合ったパズルのような配役になることで、観る側は逆に、人物それぞれの本質に目を凝らさざるを得なくなるのだとも思った。

 

さらに言えば、この大原櫻子さん、小泉今日子さん、八嶋智人さんという3人が、舞台上でガッツリ役者でありながら、それぞれがいずれ劣らぬエンターテイナーであり、その豊饒なタレント(才能)とアメリカの輝かしさとが、ぴったり結びついて舞台を満たしているのにも心からワクワクさせられた。観終えてみると、この3人ほどこのお芝居を演じるのにふさわしい役者はいないと思えて、配役ということの意味をあらためて考えたし、キャスティングの時点からもうお芝居は始まっているのだなあと深々と感動してしまう。

 

また、ここから先はごく個人的な感慨なのだけど、私はキョンキョンとほぼ同世代で、お芝居の中でも出てくる89年前後(つまり日本では昭和が終わりバブルが弾けるか弾けないかのあたり)に都会の会社に就職して、まさにこの青山スパイラルホールで入社パーティーをしたという(バブルな!)思い出があって、マーナのような保守的な部分もマイラのような進歩的な部分も両方持っていて…。なんだか、お芝居の中の要素と現実の自分がいろんな箇所でリンクして、大きく揺さぶられてしまった。そして、これは個人的にそうだったということ以上に、どんな年齢のどんな性別の人にとっても「私の現実」と思えるような仕掛けが、『ミネオラ・ツインズ』という舞台にはふんだんにちりばめられている、ということなのではとも思う。

 

大原櫻子さんはじめ役者さんの熱演をストレートに浴びることができるお芝居だし、お話の中の人物が直面したできごとを自分と重ねて考えるおもしろさもあるし、ポップなエンターテイメントとしての楽しさもあるし、人間の“身体”がそのつど場面を変えていくライブなステージングを目撃するワクワク感もあるし、ただ単純に「テレビの人気者が目の前に!」という嬉しさもあるし(笑)。「国も時代も違うお話」だけれど、驚くほど多くの人に開かれている舞台だと思った。この、さまざまなおもしろさをその場でいちどきに「体感」するのは、これこそ演劇にしかできない表現、芝居でしかできないこと。楽しかったし、観てよかった!