月夜のドライブ

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パルコ・プロデュース『三十郎大活劇』 @ 新国立劇場 中劇場

 

2月に観た『腹黒弁天町』に引き続き、パルコ・プロデュースによる鈴木聡さん作のラッパ屋演目の再演シリーズ『三十郎大活劇』。(その前2020年の『阿呆浪士』は観れていないのだけれど、)カムカムミニキーナの松村武さんが出演、さらに演出はラサール石井さんということで、これは観てみたいなと思ってチケットを買い楽しみにしていた。

 

足を運んだのは4/7(木)マチネーの日。余談になるけれど何とこの日の11時頃から(結局15時頃まで)京王線のつつじヶ丘~新宿までが運転見合わせになっているということを、上り電車で向かおうと思っていた最寄り駅に着いてから知るという事件が。最速な迂回路は中央線。この時点でもう絶対遅刻だ~と思ったけど、しかたないので再度バスに乗って中央線の駅に出て、新宿まわりで初台へ行き、奇跡的に開演前に着けた…!

 

パルコ・プロデュース『三十郎大活劇』
4/2(土)~4/17(日)
東京・新国立劇場 中劇場


鈴木聡

演出
ラサール石井

出演
青柳翔/横山由依入野自由 松平璃子 近藤公園
那須佐代子 三上市朗 福本伸一 松村武 宍戸美和公
弘中麻紀 南翔太 新良エツ子 椎名慧都 中井千聖
西海健二郎 榊英訓 辻大樹 時松研斗/
中川パラダイス 竹内都子小倉久寛

東京 S席¥9,800 A席¥5,800

 

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事前にキャストをつらつら眺めていて、松村さんをはじめ見知った名前も多いものの、不勉強にしてまったく知らなかったのが、主演の青柳翔さん。劇団EXILEの方と聞いて、EXILEというイマドキな響きと時代劇や活劇の世界が今ひとつ頭の中で結びつかず、『どんな感じになるんだろうか?』と思っていたのだけれど。実際にお芝居を観たら、何しろこの青柳翔さんが!着物の似合いっぷりといい、甘さと精悍さを併せ持つ顔立ちといい、堂々とした立ち居振る舞いといい、にじみ出る愛敬といい、すべてにおいてスケールの大きい、まさに「紅三十郎」を演じるにふさわしいスターの輝きを持つ役者さんで!お初ながらすっかり魅了されてしまった。

 

舞台は駆け出し俳優の紅三十郎(青柳さん)が、大部屋歴の長いベテラン俳優(小倉久寛さん)に出会うエピソードから始まる。大きな青柳さんが、小さな小倉さんを自転車の後ろにのせて走る、その絵面だけでもうおもしろい!ひょんなことから台詞を任されてそこから一気にスター街道を駆けあがっていく三十郎の輝きが、青柳さん自身の魅力ともぴったり重なってまぶしい。またそれ以上に、映画の中の役である「龍之介」になり切れない時に見せる気弱さや繊細さもとてもよく、インタビューで“芝居以外何もできないんです”と語っていた青柳さんと、ここも重なるのだった。なんてハマリ役なのか…!

 

パンフレットの中でも語られていたけれど、今回のキャストが、本当にさまざまなジャンルから集まっている座組で。劇団EXILEの青柳さん、元AKBの横山由依さん、元欅坂の松平璃子さん、声優としても活躍する入野自由さん、初演時にもこの芝居に出演しているラッパ屋の福本さんや弘中さん、新劇界の本家本流で活躍する俳優さんたち、小倉さんをはじめとしたスーパーエキセントリックシアターの方々、大人計画だったりM.O.Pだったりカムカムミニキーナだったりという小劇場きっての役者の面々、竹内都子さんや中川パラダイスさんなどお笑い界の方、などなど…。だからなのか、主役から脇役までどの人も濃く個性的な人生を生きていて、舞台上、どの瞬間の誰を観ていても惹きこまれた。(弘中さんなど、ツイッターで「私の役はちょっとしか出ない」と言っていたから見逃さないようにしなきゃなんて思っていたら、めちゃめちゃ存在感のある「のん婆」だったし!)そしてそのいろいろな出自の役者さんのぶつかり合いが、まさに激動の時代の映画界のエネルギッシュな感じにつながっていてとてもよかったなあ。

 

個人的には、芝居上も絡みが多いと聞いていたおじさん三人衆(福本さん・三上さん・松村さん…役柄から「チームえらいひと」と名付けられていた 笑)の場面を楽しみにしていたのだけど、ひたすら声は大きく会話はおもしろく演技は熱く!彼らおじさん衆の図太い存在感が舞台を厚く底支えして、とても頼もしくもあった。横山由依さん演ずるヒロインの芸者・おやつは聡明で可愛らしく、最初のおまじないのひとことで三十郎(と観客)をトリコにしてしまう破格の魅力にあふれていた。また、(私は人気声優さんとしてしか認識していなかった)入野自由さん演ずる助監督・岡村もとてもみずみずしく、その真摯さがまっすぐ観る人の心に入ってきた。無声映画時代のスターであり三十郎に追い落とされることになる春之介役・近藤公園さんは、ため息の出るようなイイ男っぷり、えぐみも迫力も終始さすがだったなあ。那須さんや南さんが演じる新劇界の俳優たちのいけ好かなさもとてもよかった。竹内さんや中川さんがもたらすホッとするような笑いの要素も楽しかった。

 

とにかく歌あり踊りあり笑いありの、これぞエンタメ!な楽しさ。入野さんや新良さんの素晴らしい歌や、役者たち総出のミュージカル仕立ての場面(松村さんが嬉々とボックスを踏み歌い踊る姿も目に焼き付けた!笑)、コントのような爆笑シーン、爽快な殺陣の場面など、ワクワクの連続。こういうところにも、いろいろなジャンルから集まった座組のよさが出ているんだろうなと思った!

 

こうしてすっかり心を釘づけにされるだけに、楽しい世界、愛すべき登場人物たちが、いやおうなく戦争に巻き込まれていく後半は心が痛い。折しも現実世界ではロシアによるウクライナ侵攻が勃発し、機に乗じるように「日本も軍備強化を」などと言い出す人々が出てきている今、愉快さ一辺倒のガンさん(小倉さん)のところにさえ赤紙が届いてしまうシーンは、過去というよりむしろ未来の出来事に思えて背筋が冷たくなった。

 

戦争は、上からやってくるとともに、人の心にも巣食うのだと思った。「こんな世の中だから仕方ないよ」と思い始めたとたん、戦争は内側からも人を蝕んでいくのだと。善良な人々が急に悪人に豹変するわけではないのに、町には少しずつ軍服姿が増え、女性はスカートからだんだんもんぺ姿になっていく。前半でイキイキとそれぞれの人生を生きていた人たちがそうなっていくから、余計リアルに痛みを感じてしまう。

 

そんな戦時色が濃くなっていく中で、あくまでも映画バカ、役者バカ、芸術バカをつらぬこうとする紅三十郎と撮影クルーは、痛快でもあり、文字通り「バカみたい」でもある。でも、この馬鹿馬鹿しさをこそ、守れるかどうか、が問われるんだと思った。「映画なんか」「芝居なんか」「音楽なんか」「お笑いなんか」人の役に立たないだろう、何も実利を生み出さないだろう、国民が一体となって戦うべき局面で不謹慎だろう。向けられるこうした言葉は、表現や芸術が「不要不急」と切り捨てられたコロナ禍とも、あるいは歌舞音曲が自粛されて消えた昭和天皇崩御の時分とも重なる。全然、他人事じゃない。

 

『三十郎大活劇』の登場人物たちは、それぞれにもがいて、それぞれに生きていく。『腹黒弁天町』を観たときも思ったのだけれど、鈴木聡さんの脚本は、驚くほど「正しさ」を描かない。『三十郎大活劇』であれば主役の三十郎を、『腹黒弁天町』であれば主役の財前や山岡を、「あっぱれ正義」だと讃えてもよいようなものだけれど、そうは結論づけていない。だから(弁天町のときも今回も)、「正解」の提示に慣れきっている受け手としてはちょっと面食らうところがあった。答えは、観る側に開放されている。悩んで生きながら、自分で決めるしかない。

 

ラスト、人には大馬鹿者だと指さされるだろうけれど、悩みながらも自分の心に忠実な道を選びフィルムの中に飛び込んで、「追いかけるより速く逃げるんだ」と疾走していく助監督・岡村と三十郎のスカッとした笑顔に、涙が止まらなかった。そのままカーテンコールに飛び出してきた二人を見て、そしてそれに続く役者たちの顔を見て、“こうして「芸術バカ」な人たちがここにいてくれて、表現を志してくれていて、私たちはお芝居を、エンターテイメントを、受け取れているんだ…”とあらためて心打たれて、さらに涙があふれていつまでも止まらなかった。

 

本当にキャストの端から端まで、舞台の隅々まで、幕開けからカーテンコールの一瞬一瞬まで、イキイキとした楽しさに満ちた舞台だった。エンタメってすごい。エンタメが好きだ。やっぱりエンタメがある世界がいい!キャストの一体感の向こう側に、演出のラサール石井さんのおおらかさと朗らかさも見えるような、そんな舞台でした。ありがとうございました!

 

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