月夜のドライブ

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音楽劇『瀧廉太郎の友人、と知人とその他の諸々』 @ 北沢タウンホール

元々予定はしていなかったのだけど、小出恵介さんが出演ということでギリギリにチケットを手に入れて5/4の回を観に行ってきた。小品だけれど、こっくりとした深い味わいのあるお芝居でとてもよかった。

 

音楽劇『瀧廉太郎の友人、と知人とその他の諸々』
2024年5月2日(木)~2024年5月4日(土)
北沢タウンホール
スタッフ
脚本:登米裕一
演出:藤倉梓
音楽監修:YUKA
出演
大久保祥太郎 / 音くり寿 / 新正俊 / 梅田彩佳 / 塩田康平 / 小出恵介
西寿菜(ピアノ)

 

スズナリの向かいにある北沢タウンホール。中スタジオぐらいの大きさの平場に可動式の傾斜付きの椅子席が出ていて、残り半分を舞台として使うようなセッティング。意匠のある壁をそのまま使い、ピアノ、テーブルやソファ、窓のついたマントルピースのような家具などがいくつか置かれて部屋を模している、簡素なセット。(実はここ、下北沢の阿波踊りで出演者に控室として供されている場所で何度も使ったことがあるので、あのスペースがこうして舞台になるのか…と思った。椅子席が出ているのも初めて見た。)上手にピアノ奏者のスペースがあって、生演奏のもと音楽劇が繰り広げられる。

 

物語は、瀧廉太郎と友人を巡る史実に「IF」が混じった創作話だとのこと。主役は瀧廉太郎の友人である岡野貞一で、この人物を演じていた大久保祥太郎さんがとてもよかった。天才肌でナイーヴな瀧(新正俊さん)と対照的な、明るく直情的で、でもそれだけに自分に瀧のような才能がないことをコンプレックスにも思い、瀧への友情と劣等感のあいだで揺れ動く心情をとても魅力的に演じていた。よくある話、といえばそれまでだけれど、それを表面的にとらえず真摯に向き合っているのだと思う、魂のこもった明治期のひとりの若者像が、イキイキと舞台上に現れていた。

 

瀧廉太郎にまつわる、観客にも耳なじみのある数々の唱歌が音くり寿さんと大久保祥太郎さんによって歌われるの耳福だった。音くり寿さん、宝塚100期生でエトワールもつとめた方なんですね、素直で広がりのある歌声すばらしかった。大久保祥太郎さんもストレートプレイの方らしからぬ歌の上手さ。最後の最後で、元AKB48/NMB48梅田彩佳さんも音さんとのハーモニーを聴かせてくれたのだけれど、これも白眉だったので、1曲といわずもっと聴きたかったな(でも役どころとしては「音楽などと縁のない付きの者」だったので劇中では難しかったか)。

 

小出恵介さんは、岡野を通訳に伴って、ドイツ留学中の瀧を訪ねてくる文部省の官僚・野口役。鷹揚な人柄がとても小出さんに合っていて気持ちよく観られた。大久保さんとのコミカルなやりとり(ポケットから出てくる夏みかんの皮のくだりとか)も小出さんの持ち味が出ていたなあ、ちょっとした仕草や言葉尻にも並々ならぬ魅力があふれてしまう役者さんだとあらためて思う。

 

フク(梅田さん)の夫・基吉(塩田康平さん)によって持ち込まれるドタバタも愛らしく、そのあと無関係な基吉が余計な口を差し挟んでくるのもスパイスになっていて楽しかった。登場人物のその後を知る語り手として物語を進めるフク役・梅田さんのキリッとした存在感も印象的。

 

大事件が起きるわけでもない小さな物語が、6人という最小限のキャストの丁寧な演技で紡がれている佳作だった。GWのひとときによい時間をすごせて感謝。千穐楽の回だったせいもあってカーテンコールも長めだったのかな?出演者一人ひとりによる挨拶があり、小出さんは「つけひげ…大丈夫でしたか?気になっちゃって」と(笑)。隣の新さんと戯れる様子もほほえましかった。

 

 

それにしても主役の岡野役を演じていた大久保祥太郎さん、とてもいいお芝居する人だったなあ。阿佐ヶ谷スパイダースの方なんですね。阿佐スパの若手さんは先日カムカムミニキーナ客演で観た坂本慶介さんもすごくよかったし、俄然興味が…。このお二人が出る公演があるなら次観に行ってみたいな~。と思ったりした。

 

 

【2024/05/06記】