月夜のドライブ

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MONO『悪いのは私じゃない』 @ 吉祥寺シアター

土田英生さん率いるMONOのお芝居を観てきた!私はMONOの公演を観るのは3度目(『隣の芝生も。』(2018年)、『アユタヤ』(2021年)に続き)。吉祥寺シアターは今回初めて行った。あの辺があんなふうになってるなんて知らなかったなー。足を運んだのは3/18(金)のマチネー、雨がしとしと降る中たくさんのお客さんが傘をさし集まってきていた。

 

MONO第49回公演『悪いのは私じゃない』
■作・演出・出演:土田英生
■出演:水沼健、奥村泰彦、尾方宣久、金替康博、石丸奈菜美、高橋明日香、立川茜、渡辺啓
《東京公演》
日時:2022年3月11日(金)~20日(日)
会場:吉祥寺シアター
一般:4,200円
25歳以下:2,000円(前売のみ/対象25歳以下/入場時証明書を確認します)(全席指定・税込)

 

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楽しかったなーーー、始まりから終わりまでめちゃめちゃ笑った!今回は、田舎にあるとある小さな会社が舞台のお芝居。時空を超えるわけでも大事件が起こるわけでもない、なんてことないシチュエーションのなんてことない人間たちによる日常のささいな会話劇の中で、あんなに人を惹きつけるおもしろい世界を繰り広げられる土田さんとMONOってほんとにすごいと思う。登場するキャラクターにもとりわけエキセントリックな人がいるわけでもなく、でも9人の役者さん全員がそれぞれ0.5~0.8クセぐらいある、その「あるある!」のさじ加減が絶妙。

 

そして、めちゃめちゃ笑ったのと同時に、(ある意味とても描きにくいと思われる)リアルタイムの問題意識を俎上にのせていることに感服してしまった。土田さんもインタビューで言っていたけれども、例えば、「パワーハラスメント」ということ。土田さん自身が、身近な演劇界の中で最近そういう話を見聞き(相談を受けたり)した経験もベースになっている(大意)とお話しされていた。実際にお芝居の中に、「イジメを受けて会社を辞めたと主張する人物」が現れるという事件が起こる。

 

ハラスメント、できれば避けて通りたい話題だ。私も、(普通の会社ならいざ知らず)演劇界だったり映画界だったりという、自分が敬意を払っている世界の中でそういう話が出てくると、心が痛むし、間違いであってくれないかなあと祈るような気持ちになる。少なくとも、私が好きな人や尊敬する人々は被害加害いずれにも関わっていてほしくないな…と。

 

そういう、非常にリアルで現在進行形の生々しい題材って、お芝居で取り上げるのが難しい…というより、とても「めんどう」なのではないかなと想像する。芝居を稽古して興行している最中にもどんどん新しい局面が出てきそうだし、身近なだけに火の粉が自分に振りかかる可能性がゼロではないし、“お前はどうなんだ”と痛くもない腹を探られたりもしそうだし。と、考えるだけでもじつにめんどうだ。そして、「難しい」よりも「めんどう」のほうが、今、やるのにずっと勇気が要ることではないかと思うのだ。

 

だから、土田さんの果敢さにとても心打たれた。なるべくなら首をすくめてやり過ごしておきたいめんどうな問題を、あえて芝居にする。土田さんって(SNSでもその片鱗が見えるけれど)きっと正直な人なんだろうなーと思う。いったん自分の中で気になると、創作者としてちゃんと創作物に投影せずにいられない人なのじゃないかと。と同時に、そういうリアルかつナイーヴな題材でも、お腹を抱えて笑える芝居にできると確信して創作に臨むことのできる、土田さんの、自身の脚本への信頼と劇団員への信頼がすごいなと思った。そして実際あんなにおもしろい芝居にしてしまうのだから本当に敬服する!

 

私はMONOのお芝居はたった3度目だけれど、今までで一番、新しい4人と元々いた5人との段差を感じない、フラットな9人になっていた気がした。特にこういうシチュエーションのお芝居だったせいもあるのかもしれない、キャリアや立場や役職の違いはあれ、全員が「会社員」ということでは同じ9人だったから。年齢や役職の重みよりも、場を仕切るタイプの北原さん(石丸奈菜美さん)や確固たる信念を持つ宮島さん(立川茜さん)が実質的には強かったりするのも、観る側が現実と重ね合わせておもしろがることができた。

 

金替さんがシャイで気弱そうな役柄なのはわりといつものことだけれど、実はそんな人が同僚と不倫をしていてあんな大胆なことまで…という展開に至って、観客の側が『まったく金替さんったら…人って裏では何をしてるかわからないな』とリアルに思ってしまうの、うまくできてた(笑)。ナイスガイの辻(尾方さん)が意外に取り繕い屋だったりするのも、かわいらしい早坂葉月(高橋明日香さん)がこっそり会社の備品を持ち帰ったりしてるのも。いつもカラッと明るい青年の印象だった渡辺啓太さんが、今回影のある鬱屈した役柄だったのも、意外ながらとてもよかった。

 

9人全員が例外なくさすがのうまさだったけれど、今回特に水沼さんがハマリ役すぎてサイコーにもほどがあった!「どこにでもいる中年会社員」が、あんなにおもしろいことってある!?社内調査の行方が気になって何度も部屋に入ってきちゃったり、順番変えるぐらいいいでしょと調査チームの2人に迫ったり、「そういうとこ!」と糾弾したくなるような、「これまではよかったけど今はダメ」の絶妙なラインを実践してくる気のいいおじさん・中尾(水沼さん)、返す返すもサイコーだった。

 

どこにでもある小さな会社、というありふれたシチュエーションではあるのだけれど(だからこそ、かな)、社屋のすぐそばをひっきりなしに通る新幹線の騒音とか、ある時点で明かされるスーツの色の謎とか、女子社員の早坂が飲む紙コップや水筒の水の意味とか、仕込まれたアクセントがところどころでビックリ箱のように発動するの、おもしろかった!

 

それまでは曲がりなりにもうまくいっていたコミュニティで、ほんの少しのズレや誤解からお互いの疑心暗鬼やあらぬ妄想が高まっていってしまう展開は、土田さんの真骨頂、筆が唸っていたなあ。それぞれの抱えている秘密や闇は取るに足らないことなのに、相手への猜疑心を自分の側でだけ一方的につのらせると、不満や怒りは際限なく膨らんでいってしまう。

 

土田さんは、でも、「ぶっちゃけ」というあたりに、この袋小路の先へと進む希望を見せてくれていた気がする(ぶっちゃけという言葉は使っていなかったと思うけど、そういう心情が)。ぶっちゃけ俺も悪かったよとか、ぶっちゃけそこらへんどうでもいいですよねとか。水沼さん演じる中尾が笑っちゃうぐらいそれを体現していて、ただ一冊啓蒙本を読んだだけなのにひと足先に「俺は生まれ変わったんだよ」ぐらいのトクイ顔をしていて、そのあまりにも軽々しい感じが、でも逆に今必要とされるのかも!?と涙が出るほど笑いながら感じてしまった。俺は間違っていない、なぜなら…と理路整然と説明できる正しさより、ぶっちゃけ俺間違ってたかもね~と謝ってしまえるいいかげんさのほうが大切なんじゃないかって。この小さな会社のメンバーが行き着いた、やや緩い結論に、とても希望を感じたなあ。

 

人と人との分断が切実に世界を蝕んでいる時代。土田さんとMONOのメンバーが出してくれた小さなひとつの回答は、私たちを大笑いさせながら少し心を温めてくれた。その温かさや明るさは、ささやかだけれど確かな実感として、芝居が終わって観客がそれぞれの現実の人生に戻っても背中を押してくれるんだろうなって気がしてる。「人生って悪くない」「人と人っていいもんだ」という、小さいけれど確かな手ごたえ。

 

 

芝居が終わってカーテンコールで、土田さんから「次の公演は来年『なるべく派手な服を着る』を演ります」と告げられたとき、客席がおおっとどよめくような感じがあった。私は観ていないけれど、名作の呼び声高い作品だということは聞いて知っている。気が早いけれど、来年が楽しみだ。

 

 

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MONO第49回公演「悪いのは私じゃない」

作・演出:土田英生
出演:水沼健、奥村泰彦、尾方宣久、金替康博、土田英生、石丸奈菜美、高橋明日香、立川茜、渡辺啓

***

運転しているとフラフラ歩くヤツに腹が立った
車を駐めて目的地まで歩いた
するとクラクションを鳴らしてくる車にムカついた
いつだって私は悪くない

***

山奥の小さな会社で問題が起きた。解決を迫られる総務部部長。
けれど誰が悪いのかは分からない。
それぞれに言い分があって誰もが正しい。
真っ向から意見は対立し会社内の人間関係は最悪だ。
ああ、このままでは会社の先行きすら危ない。
ねえ、みんな仲良くしようよー!

MONO一年振りの新作は分断された社会の隙間を探す喜劇です。


2022年2月26日(土)・27日(日)
福岡県 北九州芸術劇場 小劇場

2022年3月5日(土)・6日(日)
岡山県 岡山芸術創造劇場 ハレノワ

2022年3月11日(金)~20日(日)
東京都 吉祥寺シアター

2022年3月23日(水)~27日(日)
大阪府 ABCホール

舞台美術|柴田隆弘
照明|吉本有輝子(真昼)
音楽|園田容子
音響|堂岡俊弘 
衣裳|大野知英
演出助手|鎌江文子
演出部|習田歩未
舞台監督|青野守浩
イラスト|川崎タカオ 
宣伝美術|西山榮一(PROPELLER.) 大塚美枝(PROPELLER.)
制作|垣脇純子 池田みのり 谷口静栄
協力|キューブ Queen-B リコモーション radio mono