月夜のドライブ

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こまつ座 第149回公演『夢の泪』 @ 紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA

ラサール石井さん、瀬戸さおりさん、久保酎吉さん、土屋佑壱さん、と、カムカムミニキーナの客演などでおなじみの役者さんたちや、実力派の秋山菜津子さんや、ヨーロッパ企画の藤谷理子さんや…という心ひかれる名前がキャストに並んでいて気になっていたこの公演。数日前にカムカム松村武さんがおすすめツイートをしていたのが背中押しになって、ギリギリ(東京千穐楽の4/29)滑りこみで観てきた!観てよかったー。

 

こまつ座 第149回公演
『夢の泪』
作◇井上ひさし
演出◇栗山民也
音楽◇クルト・ヴァイル 宇野誠一郎
出演◇ラサール石井 秋山菜津子 瀬戸さおり 久保酎吉 粕谷吉洋 
藤谷理子 板垣桃子 前田旺志郎 土屋佑壱 朴 勝哲
■4/6~29◎紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
■入場料金
[全席指定・税込] 8,800円
 夜チケット 7,000円
 U-30 6,600円(観劇時30歳以下)
 高校生以下 2,000円(劇団のみ取扱い)

 

 

実は恥ずかしながら、初・井上ひさし、初・栗山民也、初・こまつ座、の観劇(敬称略)。サザンシアターも意外に初めてだった。開演前にロビーを行き来している方の顔に見覚えが…と思っていたら、栗山民也さん!

 

『夢の泪』は、井上ひさしさんが「東京裁判3部作」として書いた戯曲の2作目で、2003年初演だそう。戦後すぐの軍事裁判をテーマにしていると聞くとものすごく硬い内容なのではと思えるけど、お芝居自体はめちゃめちゃエンタメで、ものすごく楽しかった!事前知識なかったのだけれど、ピアノの朴勝哲(パクシュンチョル)さんの生演奏でキャストによる劇中歌がふんだんに歌われる、ミュージカル仕立てともいえるお芝居。バーンとキャストのシルエットが舞台上に映り、そこからスーツ姿の弁護士やもんぺ姿の民衆が飛び出してきて明るく歌い出すオープニング、ワクワクした。

 

気はいいけれどふがいのない弁護士・伊藤菊治役をラサール石井さんが、その妻の切れ者の女性弁護士・秋子役を秋山菜津子さんが、菊治にとっては継子にあたる秋子の娘・永子役を瀬戸さおりさんが演じ、この3人を中心に物語は進んでいく。女性にめっぽう弱くてお酒好きな菊治役のラサール石井さんが、これ以上ないはまり役でとてもよかったなあ。ソロで歌う場面もたくさんあったけど素晴らしい歌いっぷりで、アナタソンナコトモデキタノーと思ってしまった!(私が知らなかっただけですね~、失礼。)歌に芝居にお笑いにと、まさにエンターテイナーど真ん中の方なんだなあとあらためて敬服。秋山菜津子さんはちょっとあばずれたいなせなお姐さん役が多いイメージがあったので、もっさりした紺色スーツに身を包んだ真面目な女性弁護士という役柄が意外だったけど、まわりにも自分にも厳しく裁判の意義を問いただしていくひたむきさがとてもよく、心に響いた。そして大人の真ん中で「なぜ、どうして」を率直に問いかける娘の永子のピュアなキャラクター、瀬戸さおりさんにぴったりだった。

 

裁判のゆくえとともに物語のもうひとつの軸になる、とある歌の所有権を巡って争う、クラブ歌手役の藤谷理子さんと板垣桃子さんの存在がすばらしかったなあ。マンガのようないがみあいのドタバタが終始明るくパワフルで楽しかった。そのふたりに振り回される弁護士見習い役の粕谷吉洋さんのあたふたっぷり、いつもとびきり楽しそうにお芝居する姿が心に残る久保酎吉さんの老弁護士役、まさかの日系二世役を演じてイケメンだった土屋佑壱さんの「キャリフォルニア!」(笑)、すっかり好青年となった前田旺志郎さんの危なっかしいぐらいのまっすぐな空気。キャスト一人ひとりの丁寧な演技によって、戦後をそれぞれにたくましく乗り切ろうとする民衆のパワーが立ち上がってこちらを圧倒してきた。

 

裁判被告人の松岡洋右の弁護に立たんとする秋子が、この裁判の意義を、私たちが私たち自身を裁くために必要だと訴える視点に、令和の今、ハッとさせられる。戦後すぐのこの問いかけが、今もまだ結局ほったらかしのままなんじゃないか?と、現在の私たちを貫いてくる。この問いを曖昧にしたまま向き合わないでいる私たち自身の態度が、今の日本のこの惨状を招いているんじゃないのか?と。ちょうど、自民党の腐れっぷりの果ての衆院補選が前日に行われた(自民党は候補者を擁立できなかった地区も含め全敗だった)ばかりのタイミングでもあり、今後の日本をどうしていくのかの岐路に立たせられているような自分たちにとって、いろいろなことを生々しく突きつけてくる芝居だった。

 

それにしても(超今さらだけど)、井上ひさしさんの戯曲と栗山民也さんの演出の凄さに惚れ惚れとしてしまった。戦争と戦後を問う重いテーマと、人間味あふれる人々の面白おかしい人情喜劇と、桜の木の歌を巡るワクワクするような謎解きと、イキイキとした心揺さぶる音楽を、ひとつにしてこんな上質エンタメに仕立てあげるなんて。市井の人々の小さな思いを丁寧に撚ることで立ち上がる物語の大きな力に励まされた。観られてよかったです。キャストのみなさん、ピアノの朴さん、スタッフのみなさん、素晴らしい作品をありがとうございました。


【2024/05/05記】

 


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《東京公演》
4/6~29◎紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
《所沢公演》
5/8◎所沢市民文化センターミューズ マーキーホール
《山形公演》
5/11◎川西町フレンドリープラザ

【あらすじ】
昭和21年、新橋駅近く。
弁護士・伊藤菊治は、継父を慕う秋子の娘・永子、事務所に住み込みで働く田中正と暮らしている。
亡父の残した法律事務所で働く菊治のもとへは、永子の幼なじみ・片岡健やクラブ歌手のナンシー岡本とチェリー富士山から数々の騒動が持ち込まれる。
そんな折、妻・秋子が東京裁判においてA級戦犯松岡洋右の補佐弁護人になるよう依頼される。事務所の宣伝のため、とりわけ秋子との関係修復のため、菊治も勇んで松岡の補佐弁護人になるが、難問が山積み。
ついにはGHQの米陸軍法務大尉で日系二世のビル小笠原から呼び出しが菊治にかかる・・・(公演チラシより)