月夜のドライブ

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『三沢洋紀+5』

画像90年代の10年間ぐらいロクに音楽を聴いてなかった私は、90年代のアーティストをほとんど知らないから、LABCRY(ラブクライ)というバンドもかろうじて名前を聞いたことがあるぐらいだったし、そのボーカリストの三沢洋紀という人のこともまったく知らなかった。そんな私が、1月21日にリリースされた三沢洋紀さんのソロアルバムを買ったのは、このCDが、ジャック達や政風会のディレクターもやってる平澤直孝さんのレーベル「HAPPY SONGS」から出たから。もっと言えば、このCDのリリースについて、あるところで平澤さんが書いていた文章に感動しちゃったからだ。

 

このソロアルバムの音源は、もともと三沢洋紀さんがライブでの物販用に気軽に録音したものだとのこと。実際、高円寺円盤でしばらくCD-Rで売られていたそうなのだけど、以前から三沢さんの歌が大好きだった平澤さんがこの音源を聴いて感動してしまって、聴き終わってすぐに三沢さんに電話して「これはCDで出したほうがいいよ!」と。お金もないのに「何とかするから」と、決めてしまった、って。

 

平澤さんの文章。


『(前略)このCDで聴ける
サウンドはいわゆるデモ音源の域を出ていないとか
ノイズが多いとか言う人がいるかもしれない、、、
でも音楽ってそんなもんじゃ計れないんだよ
って事を僕は負け惜しみでなく本気で断言出来る。』

 

そうだよね。音楽って。そうなんだ。

 

現在大分に住んでいる三沢さんが(奥さんとお子さんが実家に帰省しているあいだに)自宅で録音したという、このソロアルバムの音の作りがどんなにローファイかってことは、1曲めのイントロから先ずっと鳴り続けている「ザーッ」というノイズの存在からもわかる。途中、歌のバックで蝉の鳴き声がじゃあじゃあ言ってるのもおかまいなしに入っちゃってるし。平澤さん曰く、マスタリングのとき普通だったら「ここのノイズを消してくれ」などと注文するところ、今回のこのCDは「できるだけノイズを残してください」と言ってエンジニアさんを困らせた、とのこと。そうなんだね。そのおかげで、ギター1本といくつかのパーカッション(空き箱や空き缶らしい)と三沢さんの声、そしてその向こうに覆いかぶさる大分の夏の空と、じっとりした湿度や温度までがじかに伝わってくるような、そんな音になってる。どの曲もそうなのだけど、たとえば「DOORS」や「古いギター」といったナンバーが内側にどうしようもなく抱えている熱っぽさは、私にはほとんど、ロックバンドの激しい音と同じに聴こえる。ギター1本の弾き語りなのだけど、ね。そして三沢さんのどこか不安定なボーカルは、ほんとうにチャーミングで、ものすごくロックだ。

 

このCD、「なるたけ多くの人に気軽に買って欲しいとの思いで」、できるかぎり価格を抑えたとのこと。そんなエピソードのひとつひとつに、送り手の、音楽への真摯な思いを感じる。

 

心から音楽を愛している人が、自分がほんとうに聴きたいもの、ほんとうにいいと思うものを世に出す。もっともシンプルなそのことを、真剣にやろうとすればするほど当事者が疲弊してしまうような、残念だけど今の日本ってそんな世の中だ。でも、そんながっかりしちゃうような現実の中でも、良心的な作り手が倦まずにあきらめずに、「いい音楽ができたから聴いてよ!」って、リスナーに向けて発信してくれる。それを私がこうして受け取れている。そのことが、ほんとうにとうといと思う。

 

ベルトコンベアに乗せられてくる音を次々と機械的に注入されるような音楽の聴きかたは、やっぱりやだなって思うんだ。数字や成果に顔を向けた音楽じゃなく、ミュージシャンとスタッフが、見えない聴き手を信頼して、愛情をもって送り出してくれる音を、できれば聴いていたい。そのためには自分自身も、送り手に信頼されるリスナーでいなくちゃいけないのだけれど。そこは、私にとっての永遠の課題。

 

『三沢洋紀+5』、diskunionのページでは全曲試聴(40秒)もできる。

http://diskunion.net/jp/ct/detail/IND1617

このジャケ写がまたよくってね。最初、「なぜ…この写真?」と思わないでもないんだけど、買ってから細かいところよく見ると、「ああ!」って、いろいろおかしくて。このアルバムの愛すべき存在感を、この写真1枚が表している感じもする。

 

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そして、このアルバムとの出合いは、もうひとつの出合いを私に連れてきた。ラブクライ!!!!今、過去のディスコグラフィーをせっせと買い集めて聴いているところなんだけど、どうしよう、すっごくいい!これについては、いずれまた別稿で。

 

*『三沢洋紀+5』三沢洋紀