月夜のドライブ

ラブレターバンバン書いて紙飛行機にして 宛てもなく空に飛ばすブログです。▶プロフィールの「このブログについて」をクリックで記事一覧などに飛べます。

青山陽一『DEADLINES』

画像いつでも、すぐれたミュージシャンに見えている「次の音」というのは、私のようなヘタレリスナーの想像力のはるか先を行くものだなあ、とため息が出る。だってたとえば、あんなに素晴らしかった青山陽一さんの前作『ODREL』(04年)を越える音って、いったいどんな? 私の貧しい想像力じゃ、そんなおっそろしい音思い描けないもの。ところが。ディスク回して一発、「これか!」と見事にノックアウト。聴く者を、今まで思いもかけなかった場所に連れて行ってくれる音、これこそが今私が聴きたい音楽、聴いてブッ飛ばされたい音楽なんだ!ちょっとうまく言葉にできないかもってぐらいに、ヤラレてます。青山陽一さんの『DEADLINES』。

 

とにかく、このバンドサウンドの凄さには、開いた口がふさがらない!ロック分布図でいえばまちがいなく世界の端っこに位置するこの島国で、こんな細身で華奢なメガネ男子(←シツコイ)とそのバンドが、下手すりゃ本国人よりもファンキーでソウルフルな極太ロックを鳴らしてるんだから。バンドのグルーヴと勢いを(少々の粗雑さがあってもそのまま)盤に刻んだ前作『ODREL』で、新たな踊り場に出た感のあった青山さん&BM’sの音は、ここへ来て、ますます逞しく、ますます不敵に加速してる。「オレの理想の音楽とは」とか「今リスナーに届けたい音は」なんて、したり顔で外に向かってしゃべってばかりのこの国の凡百の音楽との差は、拡がりこそすれ、狭まることはもうないだろうな。なぜならそれは、彼が論を張ることによってではなく、「鳴らし続ける」ことによって届きえている場所だと思うから。青山陽一っていう人は、語るよりも「鳴らす」ことで道を作っていく困難さに耐えられる、数少ないミュージシャンなんだと思う。

 

中原由貴さんのドラム、千ヶ崎学さんのベース、伊藤隆博さんのピアノやエレピ、そして青山陽一さんのギター。基本は、このたった4人のいわゆる4リズム。曲によって、田村玄一さんのペダルスティールが鳴ったり、川口義之さん+ゲストの山縣賢太郎さん+伊藤さんでのBM’sホーンズの音が乗っかったり、ベースが鹿島達也さんのウッドベースに替わったり、という絶妙なアクセントはあるけれど、それとても、けっして音数の多い音楽じゃない。なのに、どういうことだろう、この音の濃密さったら。つまり、ミュージシャンひとりひとりの演奏の濃さが、ただならないってこと。特に、基本の4人のこの音。中原由貴さんのドラムの気骨のある音には、ライブで初めて聴いたときから本当におそろしい思いをさせられまくってるけど、ここでの吹き荒れっぷりも凄い。ホント、男女差ってのは標語やプラカードからじゃなく、こういうとこから蹴散らされるってもんだと思う。あまりの男らしさに惚れっぱなし。(でも最近ダイエットに成功されたそうで、タマコウォルズのBLOGの中原さんってば、ほんとに細っそりしちゃってるー。美しー。)それから千ヶ崎さんのベース、ますますうねりまくってる。私のような音楽オンチをもざわつかせる魅惑のベースラインが頻出して気失いそう。そして!今回特にキたのは、伊藤さんの鍵盤!しょっぱなの「ジャガーの爪」の激しいウーリッツァーの音でまずヤラレるし、次の「休符を数えて生きるのは」のピアノなんて、もー伊藤隆博ここにあり!でしょう。あー伊藤さんのあの物静かなたたずまいのどこに、こんな黒くて太いファンキーリズムが存在するのか…。カッコよすぎ!鹿島さんのダブルベースも、田村玄一さんのペダルスティールの音も、もう本当にジャスト青山陽一な音でたまらない。BM’s、本当にいいバンドだなあ…。

 

今のところ、いちばんマイッてる曲のことだけ、少し。鈴木慶一さん作詞の「Cherry Blossomは今」。初めてディスク回したとき、この曲のイントロで、もう泣きそうになった。それに続く青山さんの声とメロディラインで、号泣。そして、詞を読んで、さらにヤバイ状態に陥る…。ほんと、マズイ、困った、私の中のかなり深いところに勝手に届いていっちゃう、この曲…。日本の音楽界でも、かなり特殊なメロディを書く青山陽一という人と、かなり特殊な詞を書く鈴木慶一という人が組んで放つ、これは今考えられるもっとも「美しい」音楽じゃないかなという気さえする。私は、目に見えていなかったがゆえに今まで「ない」と過ごされてきたものを、目に見える形にすることで「ある」んだと知らせてくれて、そのことで世界を少し広げたり先に進めていったりするのが、「芸術」の仕事じゃないかなと思っているんだけど、この曲は、まさに、そう。こんな世界があるんだ、という驚き。知らなかった美しさを、知る甘美。青山陽一鈴木慶一、十分わかりきっていたことではあるけれど、それにしてもつくづく、怪奇かつ素晴らしい音楽家たちと言わざるをえないな…。

 

あー(実はここまででも書くのにすごく時間かかってるのだけれど)、書きたいことの10分の1も書けない!それぞれに深いブッ倒れポイントのある他の曲のことや、青山さんのギターのこと、そのほかたくさんたくさん、語りたいことありすぎ。またあらためて書きます(というか、誰が止めようがシツコク書きまくるでしょう)。

 

*『DEADLINES』青山陽一