月夜のドライブ

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メガネで痩身でギタリスト

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前記事で書いた『GREAT SKIFFLE AUTREY』の、素敵すぎるインナースリーヴの写真をため息まじりに眺めてて、5人もメガネくんがいるなーと、無意味にドキドキする私。バカだ…。

 

「メガネで痩身でギタリスト」好き、私の場合これは高校生のときの初恋で決定づけられたのだ。初恋、といっても、私は基本的に惚れっぽい人生を歩んできているので、小学生~中学生時代で既に恋の遍歴は、オオワダくん、ナカムラくん、オクズミくん、ソウマくん、イトウくん、ホソヤくん、カワクボくん…と片手では足りないぐらい。しかも5年生のころずっと好きだったナカムラくんが遠くに引っ越してしまうというので、勇気を出して手紙とプレゼントを渡して文通を始めたはいいが、その後遠くのナカムラくんより近くのオクズミくんのほうが好きになってしまい、悶々と悩んだ挙句ナカムラくんとの文通はやめてオクズミくんに乗り換えるという、小学生にして月9ドラマの脇役のようになってた私だ。あ、あと小1のとき、好きだった男の子の名前を書き出した紙を(その時点で複数いたってことだな…)親友に見せるために学校に持って行ったら、その紙を意地悪なサイトウくんに取られてしまい、よりによってサイトウくんがそれを(紙にも名前が書いてある)好きだったオオワダくんに見せようとしたので、その瞬間、サイトウくんではなくオオワダくんのほうをビンタしてしまったという苦い過去も…。それまで私とオオワダくんは、給食で飲み干した牛乳のテトラパックを、どっちが小さくつぶせるかと毎日競争していて、それが幼心にも胸トキメク時間だったのに、その日を境にそれもなくなってしまった。ねじれた恋は元に戻らないまま、オオワダくんはしばらくして越してしまった。

 

…まあいいや、ともかく恋多き小中学生時代を送ったけれど、初恋、と呼べるのは、やっぱり高校生のとき好きになったO先輩だと、勝手に決めている。思っていた時間の長さも深さも、それまでにないぐらいだったから。彼とは、兼部していた放送部とフォークソング部、両方でいっしょだったけれど、フォークソング部では彼はユーレイ部員だったから、接触があったのはおもに人数の少ない放送部のほう。学校ではいつも男友だちと連れ立って歩いていて、女の子と話しているところはめったに見なかった。廊下ですれ違って挨拶すると、決まって返事はブッキラボー。時折、気まぐれにふらっと放送室に現われては、私をからかって悪態ついて、シニカルな笑いを浮かべてまたどこかへ消えてしまう。その銀縁メガネの奥の黒い瞳と、メモ用紙にイタズラ書きする色白の細い指を眺めるのが、私は好きだった。ビートルズとクイーンとツェッペリンが好きで(この音楽の好みはうちの弟とそっくり同じだ)、そのころイルカ(歌手のね)がビートルズ「Julia」をカバーしたのを、「細かいとこまでジョンの歌い方を真似してるのが気に入らない」と悪態ついてた。

 

ちょうどその時期は、彼が、フォークギターをエレキギターに持ち替えてバンド活動に身を入れ始める、そんな季節だったんだろう。私がO先輩への思いを募らせていくのとは裏腹に、彼が放送室に姿を現す時間は少しずつ減ってきた。部室で日が暮れるまで延々やっていたトランプにも、参加することはなくなった。彼が部室でギターの練習してるのを、私はいつもボーっとしながら見ていたけれど、その黒いストラトタイプのギターが、こんどは私のいる場所から彼を遠くに連れ去ってしまうようで、複雑な気持ちだったな。

 

取り残されたような気持ちを抱えたまま、あれは高2の冬だったのかな。最寄の駅で私はO先輩を待ち伏せして、チョコレートを渡した。ブッキラボーな彼に似合うと思った、外国製の板チョコをね。思えばずいぶんこちら側も、ブッキラボーなバレンタインデーだ。2~3日後、部室で私がひとりになるのを見計らって入ってきた彼が、言いにくそうに「オレも好きな人がいてさ。片思いなんだけどね」と言ったその言葉が、私をなるべく傷つけないために用意された嘘だったのかどうかは、今もわからない。

 

彼とはその後、たったいちど、雨の中で、二人きりで会ったことがある。卒業してから先は、電車の中で見かけただけ。今はきっと、奥さんもいるだろうし、子どももいるかもしれないね。私の「メガネで痩身でギタリスト好き」を決定づけた彼は、今も痩身かな。今もメガネくんかな。今もギター弾いてるかな。初恋はスイートなまま、無造作にリボンかけられて、私の心の中に放り投げられてある。