月夜のドライブ

ラブレターバンバン書いて紙飛行機にして 宛てもなく空に飛ばすブログです。▶プロフィールの「このブログについて」をクリックで記事一覧などに飛べます。

スウィートでビターな「未来のカタチ」

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去年の11月、カーネーションの対バンでひっさびさに見たザ・コレクターズがすっごくよくって、そのとき「製作中です」と言っていた新譜が出たので買いましたよー。「夜明けと未来と未来のカタチ」。ジャケの絵、いい~と思ったら、あのリリー・フランキーさんだそう。1曲目のイントロ、ホーン&ストリングスの音(高浪敬太郎さんアレンジだ!)に色めきたつ間もなく、加藤ひさしさんの、伸びのある甘~い声がかぶってくる。うーたまらない。もう加藤さんのこの声がそこに響くだけで十分。そう思わせちゃうぐらい、誰とも違うトクベツな声。あーほんとに44歳なの、この人?もちろん声でメロメロにするだけで許してくれるはずもなくって、小気味よく刻まれるリズムも、古市コータローさんのブリティッシュテイストあふれるギターも、加藤さんのキャッチーなメロディも、これぞコレクターズ!という魅力満載~。ストレート=つまらない、になっちゃいがちな音の世界で、「ストレートだけどつまらなくならない」とこがさすが。ポップなイメージの裏で、どれだけ誠実に音と格闘してるんだろう、と思う。

 

どの曲も魅力的なのだけれど、私が今回いちばん感じ入ったのは1曲目「恋することのすべて」の詞、かな。砂糖菓子みたいにスウィートな加藤ひさしワールド(言うまでもなく、そこが彼のイイとこ)に忍びこむ、ちょっぴりビターな言葉に刺される。
怖くないさ 星にはぐれ 時代に取り残されて
髪も抜け落ちて 顔中シワだって
ひとつのベッド キミと寝れたら
キラキラのメリーゴーラウンドも、廻り続けるうちに錆びてくるし軋んでもくる。20代だった彼と彼女も、老けた顔のオジサンとオバサンになってくる。そのとき、どうするの?それでも木馬は走り続けるの?加藤ひさしさんは、「Yes」と言うんだ、それもとびっきり甘い声で。容赦ない時間の下降線の中で、それでもふたりは抱き合うんだって。それが「恋することのすべて」だって。苦味までもをひそませて生まれる甘さの、なんと不敵で幻惑的なことか。

 

ビートルズキンクスがあれば、コレクターズは要らないっていう人もいるかもしれない。それはそれで別に構わないこと、でも私に限って言えば、日本語で書かれた言葉がないと生きていけないし、65年でもなく85年でもない2005年の現実を聞きたいし、若さが指の隙間からこぼれた後の手のひらで、切実に握りしめられる歌が欲しい。だから、コレクターズが今、こんなふうに進行形で、彼らの目に映る「未来のカタチ」を歌ってくれていることがスゴクうれしい。ロックの神様にしがみついたまま更新を怠ることが、ロックから最も遠いことだって、きっと彼らは思ってる。

 

11月のライブのときのMCで、自分たちとカーネーションを指して曰く「いいオヤジですよ。」「オヤジはいいよー。ガツガツしてないもん。あっちのほうも。」と客席を笑いの渦にぶち込んだ加藤さん。ふふ、それは本当かどうかわからないけれど、40代になってこんなに人をメロメロにさせる楽曲を繰り出しちゃうオヤジの存在は相当ヤバいですよ。若さはこれにどうやって立ち向かえばいいのか、頭を抱えちゃうよね。こんなオヤジたちの、全然枯れやしないスウィートでビターな音と言葉とスピリットが、いつまでもしつこく世の中を侵してるといい、と、このアルバムを聞きながら思う。

 

*「夜明けと未来と未来のカタチ」ザ・コレクターズ