月夜のドライブ

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代官山に崩れ落ちる

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「代官山」に崩れ落ちる、でした。キリンジat渋谷AX。一緒に行ったとりりんはその週の月曜になんとat岡山アクトロンに参戦してて、「崩れ落ちた」前情報は入っていたわけですが。見事に、同じ場所でヤラれてしまった。泰行さんのあの声で、高樹さんのあのメロディを生で聞いたら、ちゃんと立ってなんていられなかった。名曲。「代官山エレジー」。

 

キリンジを見るのは3回目。思えば3回とも、とりりんがチケットを取ってくれたんだ。去年の武道館もいろんな意味でスゴイ体験だったけど、今回の渋谷AXは、ホントにステージから降りそそいでくる音を全身で浴びる感じが一層よかった。フラットな床のうえ人々のアタマのすきまから兄弟の姿をちょっとでも覗こうとつま先立ちして、足腰は痛くなった30代後半女子だけども。

 

泰行さんの声、なんてうつくしいんだろう。世の中には努力で何とかなることももちろんたくさんあるけれど、「声」はそれが手をつけられない領域のもの。その、天が与えた奇跡的な果実のひとしずくを、一緒に味わわせてもらっているような感覚。でも、弟に近い声質をにじませながら、もう少しザックリした手ざわりの兄の歌も好きなのだけどね~。ってこれはメガネ好き&ギタリスト好きな私の偏愛含みか。人に非難されるほどやさオトコ好き、つまりは泰行さん贔屓のとりりんと、それぞれ兄や弟が見えるように位置を替わったりしつつ。

 

「代官山エレジー」。もともとは藤井隆さんのために書かれた、松本隆さん作詞、高樹さん作曲の歌。せつないイントロ、そこに泰行さんの声が被ってきたらもうダメです。ああほんと、名曲だなあ。うつくしい旋律と詞に泰行さんの声は自在に寄り添って浮遊する。その恍惚。「藤井くん、よくこのむっずかしいメロ歌ったよねぇ」と2年前のアルバムにまで思いを馳せて、終演後とりりんとあらためてため息ついたのだけれど。私にとってこの曲は、「ルビーの指環」の系譜を受け継ぐ屈指のアダルトコンテンポラリー。街の風景と、破れかけの恋と、取り戻せない時間が、せつないメロディの中でリアルに揺れる。80年代には歌謡曲やニューミュージックと呼ばれるジャンルに内包されていたような、こういう大人の王道AORって今はすっかり見当たらなくなってしまった気がする。失ってからよさを痛感するもののひとつ。今、この世界を紡ぎ出せるキリンジの存在って貴重だ、としみじみ感じる。

 

「代官山」から間をおかず「エイリアンズ」へという怒涛のメロウ攻撃で、既にすっかりダメになっていたふたりでしたが。あー。後半さらにあんなヤバイものが繰り出されるなんて。「Drifter」…。決壊、でした。この曲については、あらためて、別に書くと思う。

 

「Drifter」の演奏が終わり、立ち直れないぐらいじーんとしていたところに、泰行さんのMC第一声は「どうもどうも。」でした…。あーもうなんて野放しに自然体なんだ。飾らなすぎですってば~。飾らないといえばご兄弟の服装は例によって例のごとく「普段着系」。泰行さんが赤のポロシャツにジーパン、高樹さんがブルー(かな?)のシャツにジーパン。そしてトークは例によって例のごとく「ぼっそり系」。でも、この素っ気のなさに、これだけの人が集まってるってことを、思ったりもする。音楽がエンターテイメントの手下にされてしまうことも多い時代に、ただ音楽がそこにあればいいふたりなんだ、って。キリンジキリンジであるためには、ギターを鳴らせて、声を出せさえすればいいってことを、彼ら自身と、集まっているリスナーが一番よく知っているんだと思う。

 

ああ、堪能。とりりん、チケット取ってくれてありがとー。

 

 

*「OMNIBUS」キリンジ

「代官山エレジー」のセルフカバー収録。