月夜のドライブ

ラブレターバンバン書いて紙飛行機にして 宛てもなく空に飛ばすブログです。▶プロフィールの「このブログについて」をクリックで記事一覧などに飛べます。

66年のルネ

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ふと思い出して、CD棚から引っ張り出して聞いてみた。The Left Banke。66年の「Walk Away Renee」のヒットがよく知られているバンド。久しぶりに聞いたら、もうもうスゴクよい。好きだからこのCDも買ったわけだけど、ああこのハープシコードの音色、陰りのあるメロディ。今の私の好みにピッタリで、あらためて悶える。

 

この名曲「Walk Away Renee」は、高校生の頃知った。超個人的な思い出になるけど(思い出とはすべからく超個人的なものだけど)、その頃私はタツローさんのDJ番組「サウンドストリート」を毎週欠かさず聞いていて、リクエストハガキなんかも頻繁に送っていた。ああ正しき青春の姿。それで、私がリクエストしたThe Honeycombsの「Have I The Right?」がかかった同じ日に、やはり流れたのがこの曲だったのだ。そういう曲ってよく覚えているものだよね。その後92年に、レフトバンクの公式発表曲が全部入ってるこのCDが出て、買った。当時のレコード購入メモによると池袋のWAVEで買ったらしい。池袋なんか滅多に行かないのに、なぜかなあ。記憶がない。

 

66年6月にデビューシングル「Walk Away Renee」を出してから69年半ばに解散するまで、活動期間はたった3年。世の中にどれだけの数のアーティストやバンドがあって、どれだけの数の曲が生み出されているのだろう、と考えると、泡沫のような存在だ。でも、他の何にも替えられない極上の響きがそこにあったとき、その音楽は時代も距離も軽々と超えて、こんな島国に住む女子一名を酔わせることもできる。その不思議…。このレフトバンクって、アメリカのバンドなのだけれど、まったくアメリカっぽくないんだよなあ。「バロック・ポップ」なんて称されることもあるみたいだけど、ハープシコードやピアノの響き、ストリングスを多用したアレンジ、キーボードのMichael Brown(67年に脱退してしまうのだけど)や他のメンバーの生み出すメロディ、Steve Martinを中心にしたハーモニー、そのどれをとっても繊細な陰影があって、ため息が出るくらいうつくしい。(アメリカのバンドなら繊細じゃないっていうのも大いなる偏見だけど。)60年代の終わり、ニューヨークの青空の下にいた若者の視線も、遠くリヴァプールの曇天の憂鬱へと吸い込まれていたのかな。そういう時代だったのかもしれない。

 

恋愛プラトンアカデミアの住人としては、このライナーに紹介されているエピソードにも甘美な思いを抱いてしまう。65年に、ベースのTom FinnがガールフレンドのRenee Fladenを他のメンバーに紹介したところ、彼女の虜になってしまったMichael Brownがたちどころに彼女のことを唄った曲を3曲作り、その1つが、「Walk Away Renee」なんだという。単語“attract”ですからね、虜になったのかちょっと心が揺れ動いただけなのかはわからない。そこに彼らの確執があったのかなかったのかを知るべくもないし、そんなこととは無関係に音楽はもう自分の道を歩いているけれど。でも、この曲のあまりに美しい旋律とあふれ出すようなせつなさに触れると、そこにはきっと生々しい思いや痛みや官能の交錯があったんだろうと想像せざるをえない。ひとりの女性の存在がこんなに美しい曲を後世に残したということに遠い羨望も感じるし、3分足らずの音符の連続に過ぎないポップミュージックが、その奥底にリアルな体験を持っていると思うと、たまらなくいとおしくなる。

 

それにしても。この「Walk Away Renee」も、66年の音なんだなあ。私がたまらなく魅きこまれてしまう音楽に、66、67、68年あたりのものが多いのは、高校生の頃から気付いていたのだけど。この時代、何が起きていたんだろう?この時代の何が私を魅惑するんだろう?というのが、ここ最近の私の壮大なるテーマで、いろんな音楽を少しずつ聞きながら、見えないものを追っかけてる。

 

*「There’s Gonna Be A Storm –THE COMPLETE RECORDINGS 1966-1969」The Left Banke