月夜のドライブ

ラブレターバンバン書いて紙飛行機にして 宛てもなく空に飛ばすブログです。▶プロフィールの「このブログについて」をクリックで記事一覧などに飛べます。

それぞれの大寒町

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仕事柄、一日のうち一番多くの時間を過ごすのがPCの前なので、ふだんは音楽もPCのちっこいスピーカーで聞いているちょっと志の低いリスナーだ。私の使っているリアルプレイヤーで「大寒町」を検索すると、8種類の「大寒町」が出てくる。あがた森魚さん、はちみつぱい矢野顕子さん、The SUZUKI、それとムーンライダーズの2種類(「B.Y.G.~」と「The Worst of~」に収録)、作者の鈴木博文さんの2種類(ベスト盤の「1987-1994」とライブ盤「HIROBUMI SUZUKI & GREAT SKIFFLE AUTREY」に収録)。

 

なんてことをふと数えたくなったのは、私は行かなかったのだけれど先日の架空楽団liveで、鈴木慶一さんをゲストに迎えたアンコール最後の曲が、この「大寒町」だったと聞いたから。そう、この曲はライブで、しかもアンコールで、実によく聞く曲ナンバーワンなのだ。(私のような音楽的嗜好の場合、ということだけれど。)私は最近7月の栗コーダーで聞いたし、3月には博文さん、慶一さん、カーネーション、というそりゃもう倒れそうなメンバーの「大寒町」を体験してしまった。おととしだけど、博文さん、ヒックスヴィル、青山さんというこれまたスゴイのもあった。もう鈴木兄弟行くところに「大寒町」あり、なのだけれど、これってたぶん、ご本人たちよりも周りのアーティストが演りたいからなのではないだろうか。こんなにリスナーに、そしてミュージシャンにリスペクトされている曲も、そうはない。

 

鈴木博文さんが18の頃に作った曲だという。先日の栗コーダーのとき慶一さんが「これ、はちみつぱいで録音しようと思ってたら、先にあがたに取られちゃったんだよねー」と笑っていたけれど、オリジナル録音が博文さんでもはちみつぱいでもムーンライダーズでもなく、あがたさんのアルバム「噫無情」だというところが、この曲のその後の身の上を映すようでおもしろい。人に愛されるために生まれた音楽、なんだ。

 

純粋な好みで言うと、「大寒町」よりももっと好きな博文さんの曲はたくさんある。尖っていたり、ささくれていたりするタイプの。でも、人っていつもいつもアグレッシブな気持ちで音楽を聞けるわけじゃない。「大寒町」は、いつどんなときにふらっと訪れても、相手が誰であっても、そこに居ていいよと言ってくれるような曲。だからこそ30年以上ものあいだ、いろんな人が出入りして、歌われたり、聞かれたり、忘れられたり、また思い出されたり、ときに切実に必要とされたり、してきたのだろう。

 

で、数ある「大寒町」の、どれが好きよ?と聞かれると、これはものすごく困ってしまう。闇と星を挿絵のようなタッチで描き出すあがたさんバージョンも、銭湯の帰り道の鼻歌のようなアッコちゃんバージョンも、それぞれのオリジナルと言われてもまったく頷いてしまうほど彼らに馴染んでる。それに、「ムーンライダーズでも録音しとこうと思って」ということで95年に出た「B.Y.G.~」バージョンにも私は弱い。っていうか、武川さん、博文さん、慶一さん、なんて具合にムーンライダーズのメンバーにボーカル回されちゃうと、私もうそれだけで心拍数上がっちゃってダメダメなのだ~。いいオトコに次々目も眩むような台詞で口説かれてるみたいで。(バカです。)同じ理由で、博文さんのボーカルに青山さん青木さん柴山さんというメトロトロンきってのいいオトコの声が絡んでくる「GREAT SKIFFLE AUTREY」バージョンもたまらないなあ…。

 

3カ月で忘れられてしまう音楽もいっぱいある中で、30年以上歌われ続けているというその現役の存在感に、たたずまいのひそやかさに似合わない奥底の凄みも感じてしまう。「名曲」という言葉の大仰さにもたじろぐことのない、数少ない本当の名曲。いろんな人にこんなに愛されているこの曲はシアワセだし、こんな歌を音の棚に持っている私たちもまた、つくづくシアワセだと思う。

 

 

*「噫無情」あがた森魚

やっぱり、オリジナルはこれ、ということで。