月夜のドライブ

ラブレターバンバン書いて紙飛行機にして 宛てもなく空に飛ばすブログです。▶プロフィールの「このブログについて」をクリックで記事一覧などに飛べます。

彼らのエロティックな闘争

画像

轟音、疾走、恍惚。揺るぎない男っぽさととろけそうな色っぽさ。ロックバンドがロックバンドであるためのすべてが、圧倒的な形でそこにあった。クアトロのステージに立っていたカーネーション。今の日本で考え得る最強のスリー・ピース・ロックバンドだ、誰が何と言おうと。

 

結成21年目に入ったカーネーションの、この20年を総括するライブシリーズの前編、「1983~1993 and NOW!」と題されたステージ。「ごきげんいかが工場長」「愛しのリボンちゃん」「からまわる世界」「ファームの太陽」…そんな曲たちを立て続けにブチかまされたら、私はもう、どうしたらいいのかわからなくなる。この頃20代だった私は、彼らの音と言葉を、いつも肌身離さずに生きていた。どこかへつながる大切なチケットを握りしめるように。その後90年代後半に入って、私は個人的な事情で、長い音楽大空白時代に迷い込むのだけれど、あのときのチケットは心のどこかに存在していて、私をちゃんとここまで連れてきてくれた。今、目の前で、2004年のカーネーションの音が鳴る場所に。

 

MCで直枝さんが冗談混じりに「オレたちは何のブームにも乗れなくって」と笑っていたけれど、本当に、孤独な闘いをしてきたバンドなんだ、と思う。バブル終焉間際のお祭り騒ぎのようなバンドブームとも無縁だったし、クールぶることのできない音は渋谷系と呼ばれることもなかった。誰とも何ともツルまずに、「昔はよかった」なんて簡単に口にする亡霊たち(私みたいな!)には軽くウィンクをしてみせ、勝手な理由で音楽を押入れの奥にしまいこむ気まぐれ屋(私みたいな!)にも恨みごとを言わず、ただ自分たちの信じる音だけを自分たちの場所で20年間鳴らしてきた。こんなに孤独でひたむきで、そしてこんなにチャーミングな闘い方、他の誰にも真似できない。

 

アツくなった大田さんが途中でベースの弦を(しかも一番太いヤツを)切ってしまい、直枝さんに「高校生じゃないんだから!」とツッコまれつつ演奏をやり直した「学校で何おそわってんの」、直枝さんがアコースティックギター一本で歌った「Holiday」、矢部さんのスティールギターをフィーチャーした「Lovers&Sisters」、歪みまくった音がうねっていた「Gong Show」、そして「十字路」「ダイナマイト・ボイン」「The End of Summer」「Angel」「OHH! BABY」…。20年という時間のあいだに生み出されたそれらの曲のどれもが、気の遠くなるほど色っぽくてうつくしいことに、あらためて打ちのめされる。傷だらけになりながらでも変わり続けてやろうという覚悟を持った者だけが響かすことのできる、不変の音。

 

直枝さんを近くで見たくって、ステージちょっと右寄りに陣取って、もうその色気に立ち直れないくらいヤラれてしまった。クラクラ…。カーネーションっていうバンドはいつでも、そのとき目の前にいる人間を全力で抱きしめてくれる。それだけ。それだけを、20年間やってきたんだと思う。私みたいに、途中ずいぶん不埒な中休みのあるファンでも、その理由なんか問わずに、会った瞬間いきなり抱きしめてくれる。ああその底抜けの色オトコぶり。彼らがそうである限り、私はやっぱりカーネーションっていうバンドから離れられないと思う。とんでもなくシアワセなことだ。

 

*「CARNATION IS THE GREAT R&R BAND!~c-side of CARNATION~」 カーネーションの20年を一望する、まさにグレイトな二枚組。圧倒的なドライブ感ととろけそうなメロディの洪水に打ちのめされる。