堂島孝平くんのこの素晴らしいアルバム『smiles』について、昨日までいろんな言葉をキーボードに連ねてみたりしていたんだけど、どれも違う気がしてね。デリート、デリート。私なんかの言葉は、なかなか音に辿りつけないな。
今ひたすら頭の中をリフレインするのは、「キライになれない」のメロディ。言いようもない快感が何度も背筋を巡る、この魔法のような音符の並び。これは、2006年の「恋するカレン」だ、と勝手に思う。大滝詠一の膨大な楽曲の中で、私がはっきりと、もっとも好きだと言い切る歌。81年の東京の片隅で、何も知らなかった中学3年生が、落雷のように打たれた歌。今の私のすべてにつながる、最初の扉。
あのとき、私が「恋するカレン」って歌に心を奪われて、説明できない感情に襲われて、一日何十回とテープをくり返し聴いて、音楽って広い世界に恋し始めたように、今10代や20代の子が、堂島くんの「キライになれない」を聴いて、同じようなことをくり返すのかなって、そう思うとそれだけで胸が熱くなって、涙が出そうになる。
ポップミュージック。ちっぽけでつまらない存在だけど、絶対に、必要なもの。
堂島くんのような、比類ないポップミュージックを作り上げるって、損な作業かもしれない。人波をすり抜ける風のように、街を満たす光のように、あんまり世界にしっくりくるものだから、あって当たり前で、それほど驚かれもほめられもしなかったりして。でもね、そんな普遍的な音楽こそが、このどうしようもない世界を、それでもそれなりに、前に回してるんだって思う。
肯定的でいるって、悲観的にならないって、いちばん大変なことなんだと思う、実はね。壮絶な覚悟が要ることなんだ。堂島くんが生み出すポップミュージックに、そのことを感じて、私はやっぱり泣きそうになっちゃう。
*『smiles』堂島孝平