月夜のドライブ

ラブレターバンバン書いて紙飛行機にして 宛てもなく空に飛ばすブログです。▶プロフィールの「このブログについて」をクリックで記事一覧などに飛べます。

『AMATEUR ACADEMY 20th anniversary edition』

画像

2004年最後の買い物はムーンライダーズのこのCD「AMATEUR ACADEMY 20th anniversary edition」だった。私のレコ棚に、これは3枚目かな。最初のアナログと、メトロトロンから2回目に出たやつ(40番のほう)、そしてこれ。マニアな人だともっと持っているのだろうね。「20th」 といっても「あ~久しぶり~」とか「これよく聞いてたなあ、懐かしーっ」とかいう感じはまったくない、なぜならここ最近でも棚の奥に引っこむ暇のないアルバムだったから。その新鮮さは聞くたびに訪れるタイプのもので、もちろん今回のリイシューを聞いても、相変わらず打ちのめされた私なのだ。

 

このBLOGでは何度も書いているけど、私とムーンライダーズは、86年の「DON’T TRUST OVER THIRTY」の時ホントの恋に落ちた(モチロン一方的に)という関係。「青空百景」で存在を知った82年から85年までは、隣のクラスの気になる男の子、という程度だった(もちろん、そういう時期の「この人のこと好きになりそうだな」という予感は見事に当たっちゃうもので、それが喜劇も悲劇も生むのだけれど)。だから、この“未然の恋”時代に出た「青空百景」「マニア・マニエラ」「AMATEUR ACADEMY」「ANIMAL INDEX」は、「ドントラ」から一気に遡って聞いたわけで、この5枚はひとカタマリのものすごい密度で、私の中にある。

 

そういう個人的な歴史のせいかもしれないし、ただ音楽的に無知なせいかもしれないのだけれど、この「20th」のブックレットで語られている、(外部プロデューサーを立てたことと、テクノロジーの台頭による)「異質さ」とか「変化」みたいなことは、私はこのアルバムにあまり感じていなかった。ただ、タイトルがアルファベットで記号的に綴られていたり、歌詞カードが改行なしでギッシリ並べられていたりと、一見機械的に処理されている世界から、どうしようもなく肉感的なエロスが立ち上るギャップに、魅了されていた。でもそれこそが、彼らがこのアルバムに込めたものが、リスナーの耳元で開放されたときに取る形だったのかもしれない。

 

好きなのは「30」。まだとりりんとバーチャル世界でしか会っていなかった頃、誕生日に掲示板で「ソファか屋上か」って言い合ったっけ。今でも私は(それからたぶん私以外の多くの人が)、誕生日が来るたびに「ソファか屋上か」って考える。共通言語として人の記憶に刻まれるってことは、それだけで名曲ということ。その後とりりんと行った(私にとっては本当に久しぶりだった)2001年のライダーズ@渋谷公会堂で、1曲目に博文さんに「30」歌われて、ふたりでいきなり気失いそうになったなー。どことなくユーモアを感じる曲調に「花粉」のエロス。倒れる。

 

それから「D/P」。ダムとパール、その単語ふたつだけでもう純文学。うつくしい言葉、うつくしいメロディ。この曲が「作詞・かしぶち哲郎/作曲・鈴木博文白井良明」で、たとえば月面讃歌の中の「服を脱いで、僕のために」が逆の組み合わせの「作詞・鈴木博文/作曲・かしぶち哲郎」であることを考えると、いつも私の頭は混乱してとりとめがつかなくなる。いったいどれだけの言葉と音を、そしてそれを最もうつくしく結晶させるためのどれだけの才能の組み合わせを、このバンドは内包しているんだろうって。

 

そしてやっぱり、なんといっても「G.o.a.P.」と「BTOF」が好き。私の20代前半のある部分は、この世界に支配されていたのかもしれないと思う。思えば、私が大学の卒論につけたタイトルは、この2曲と、あとはグランドファーザーズの「ないしょの茂みにて」という曲(1stに収録)に影響されたものだった。(どんな内容の卒論かはまったくもって恥ずかしいので伏せるけれど。)霧にけむる森と、不似合いなぐらい高い体温。アコースティックギターの響きと、ワインと、腐りかけの果実。どこか真剣な遊びは、そしてエロスは、永遠に終わらないピクニックなんだって、このアルバムを聞きながら思っていた。そしてやっぱりそうなんだって、今、思っている。

 

20年の時を軽々超える名盤。一般に手に入りにくい状態になっていたこのアルバムを、こういう素敵な形で手に取れるようにしてくれた(しかも、ぎりぎり「20th」と呼べるタイミングに間に合わせてくれた)スタッフの方々の労力に、本当に感謝。思い入れの深さにすっかり息切れして他の曲やボーナストラックのことまで語れなかった非力さよ。それは機会を見てまた。

 

*「AMATEUR ACADEMY 20th anniversary edition」ムーンライダーズ