月夜のドライブ

ラブレターバンバン書いて紙飛行機にして 宛てもなく空に飛ばすブログです。▶プロフィールの「このブログについて」をクリックで記事一覧などに飛べます。

きみはロボット・サンタ・クロース

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聖なる祈りを響かせる歌からひたすらうっとりさせる歌まで、世の中にはそれこそ天文学的な数のクリスマスソングがあると思うけれど、私が確実に倒れちゃうのはこれ。「I am a Robot Santa Claus」ムーンライダーズ。まあムーンライダーズならクリスマスソングでなくても倒れちゃうんだけど。

 

この曲は97年に出たCD-ROM+CDのセット「Damn! moonriders」に入ってる。限定的な企画モノなので、今では普通には手に入りにくい。そういう私も97年ごろは音楽からもムーンライダーズからも遠く離れた生活してたので、これはあとから買いました。

 

そりゃもうムーンライダーズらしい、奇妙きてれつな曲。6人が1パートずつ詞もメロディも書いてボーカルまで自分でとって、そしてひとつの作品にするなんて、どこの誰が考えつくだろう。考えついたって普通やらないし、そんなことできる6人組も広い世界にムーンライダーズぐらいなものだ。でもね。その奇妙きてれつなはずの曲が、こんなにも聞く人をせつなくさせちゃうから、マイる。メロディや詞のトーンを無理に揃えたりもしてないから(たぶんね)、切って貼ったのりしろが見えるくらいの、紙工作みたいな粗雑さを持った曲なんだけど、結果としては、圧倒的に私をせつなさの海に突き落とす。なんだろう、これ。

 

6人をよく知るムーンライダーズ好きには(ってこんな曲ムーンライダーズ好きしか聞かないだろうけれど)、それぞれのパートに危ないほど立ち現れる、一人ひとりの個性がたまらない。もー舌なめずりしたくなっちゃうくらい。表現したそばから、それが「その人」になっちゃうなんて、個性探しに明け暮れる凡人にはため息の出るような話だ。もちろんそれは、表現の背中でため息よりずっと多くの闘いをしている彼らだから、届く場所なのだけれど。

 

 

かしぶちさんのカウント、そしてウィッスルの静かなイントロに導かれてのトップは岡田さん。ほんの短い中にも、端正なたたずまいのメロディとアンサンブルが向き合って、心地よく調和する様がまさに岡田さんの名人芸だと思う。良家の子息ふうをちょっとはみだしてキュートに転がるピアノの響きもね。

 

次のパートはかしぶちさん。もーイケナイくらいにかしぶちさんです。吐息ひとつもかしぶちさんです。こないだとりりんと私のバカトークでも散々「あの胸元はヤバい」と話題になったかしぶちさんです。歌詞にするとたった2行、それでも世の中の全女性をノックアウトしてあまりあるでしょう。メロディも詞も声も、眩惑的な甘さ。

 

そしてここから一気に良明さんに、というムーンライダーズの振り幅のスゴさよ。ジェットコースター並の快感。ムーンライダーズのヤンチャ担当、ですね~、ギュンギュンギターバックに少年の声。そのまっとうな「いらいら」感も含め、いつも良明さんには少年を感じるのだ。

 

そして。博文さん。私自身でも届かないようなココロの奥に、いつでも乱暴にそして簡単にふれてくる博文さんの声。そして、彼の詞。『凍りついても 動かない この場所を 君を見上げるため』…やさしくて、激しい、博文さんの言葉、だ。動かないこと、待つこと、それが何よりも激しい闘いでもあることを知っている人の言葉。ムーンライダーズの中でもいつも静かな立ち位置でいる彼が、実は6人の中でいちばんどうしようもなくロックな人なんじゃないかなと、いつも思うことを、この曲を聞くとよけいに感じる。

 

メロディとリズムは一転、ゆったりと流れ始め、武川さんパート。この静かなあたたかさも、いつもの武川さんだ~。音楽的にもたぶん人間的にも、武川さんという飄々とした存在があることが、ムーンライダーズの息の長さにつながっているのかなあなんて、すごく勝手に想像してしまう。

 

ラストは、もちろんバンマス(って言い方古い?)の慶一さん。あらゆる痛みを引き受けて、自分もボロボロになりながら、それでも前に立って進もうとする痛々しい悲壮さを、どんな底からでも必ず最後には這い上がって次の地平を切り拓く強さを、そしてすべてのものを許して懐に抱く大きさを、いつも感じさせる慶一さんの詞と曲と声。当たり前すぎることだけれど、彼がいなければムーンライダーズは始まらなかったし、やっぱりここまで続いてもいないんだと、思う。

 

 

…と、たった4分足らずのあいだに、私はこんなことめくるめくように感じながら、いつも気を失いそうになっちゃうのです。好きすぎて。バカですね。機械油の匂いのするこんなサンタ・クロースに導かれてなら、私はたぶんどんな暗い煙突の中でも、どんな冷たい風が吹く荒野の上でも進んでいける。彼らが指さすその先には必ず、見たこともない場所に続くうつくしい階段があるから。

 

*「Damn! moonridersムーンライダーズ