月夜のドライブ

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『Tokyo7』全曲語り! ムーンライダーズ『Tokyo7』感想メモ・後編

というわけで、いきます。長いよ。

 

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01 タブラ・ラサ ~when rock was young~
作詞・作曲:かしぶち哲郎

このイントロの、ギターリフのカッコよさ!ロックバンドのカッコよさって結局、こういうリフを弾けるギタリストがいるかどうかにかかってるところがあるよね。そういう意味ではムーンライダーズ、いまだ、ふつうに最強でしょ。日本最古のロックバンドのアルバム1曲めが「when rock was young」というタイトルで、しかもメチャメチャ攻撃的な音で、っていうシニカル含みのストレートネスが最高!ポップだったり耽美だったりいろいろなパターンを持つかしぶちさんの曲の中の、モスト・アグレッシヴ・サイド。私は彼のこういう曲大好き。「僕らは 溶けない 塊」なんて、気が強くって、もうもうすごくいい。

02 SO RE ZO RE
作詞:鈴木博文/作曲:岡田徹

これはまた岡田さんらしいとしか言いようのないメロディ。ラウドでヘヴィーなギターサウンドと、バロック的なうつくしさを持つ旋律、まったく別々の方向から独特の重さが投下されて、ありえない重力を持った曲になる。この不可思議な重力を体験できるのが、ムーンライダーズの魅力。

03 I hate you and I love you
作詞:鈴木慶一鈴木博文/作曲:鈴木慶一

聴いた瞬間、ビートルズだ!!と。もっと言えば、このアルバム全体がそういう感触を持っているよね。これまでのムーンライダーズで聴いたことがないぐらいストレートなナンバーだけれど、それがちっともつまらなさに堕しないことに、ほんとうにびっくりした。このバンドはストレートを投げても魔球になっちゃうのか!と。コロンブスの卵的発見。この6人のアンサンブルと慶一さんのボーカルがある、ということは、よくよく因果を背負ってるんだなあ。後半、ガラリと曲調が転じるところ、最近のof Montrealみたいですてきだ。クレジットによるとドラムに夏秋文尚さん参加。特に前半は夏秋さんぽいけど、どうだろ。

04 笑門来福?
作詞・作曲:白井良明

番長キタ━━━━(・∀・)━━━━!!「ヤッホーヤッホーナンマイダ」「果実味を残せ! Vieilles Vignesってど~よ!」そしてこの曲、ここ最近の良明曲のイカセっぷりにハズレなし!慶一さんのインタビューにあった「江戸前」って言葉、彼の曲の魅力を伝えるのにこれ以上の表現ってない。威勢よく早口でまくし立てて、神輿かついでわっしょい!みたいなね。それにしても良明さんの独特なワーディングは、今や誰も追いつけない、唯一無二のすばらしさ。「そうですか?そうだよ~」「ありがとう いやいや!」って、こんなコール&レスポンスのあるロックナンバー、聴いたことない(笑)。シンプルにして強力なかしぶち・博文のリズムもすごくいい。あー早くライブで聴きたい!

05 Rainbow Zombie Blues
作詞・作曲:鈴木博文

いやーもうこれはハッキリ言って、博文さんのボーカルを聴かせるための曲だろうと、そう思っちゃうぐらい博文さんの歌がいい。途中まで慶一さんやくじらさんにさんざんお膳立てさせておいて(っていうワケでもないだろうけど・笑)、「何がそんなに…」と歌いだすと、世界が一気に博文色になる。絶対的な快感を巻き起こす声。なんというか、トクな人だなあ…(笑)。そして、ブルースやってもやっぱりムーンライダーズ的、文系のブルース。

06 Small Box
作詞・作曲:鈴木慶一

鈴木慶一という人は、サイドストーリーを愛している人なんだなと思う。映画のワンシーンを横切った風船のフォルムが何故かいつまでも心に残っていたり、主人公とすれ違う通行人のどうってことない仕草が物語に深みを与えていたり、そういうことの価値を愛してる人なんだろうと。この曲もそんなふう。A面1曲めにはならない、シングルカットもされない、そういう曲だけど、気づくと頭の中を巡っていたりする。

07 ケンタウルスの海
作詞:鈴木博文/作曲:武川雅寛

慶一さんとくじらさんのツインボーカル、そして途中から絡んでくる博文さんの声、抑えぎみの3声のコンビネーションからせつなさがあふれだす。霧のようなアコースティックギターと、ジャンクな音で鳴るドラム、その向こうに現れるユーフォニウムのセンチメンタルな響き。草食系のエロティシズム、だなあ。

08 むすんでひらいて手を打とう
作詞・作曲:白井良明

ホイッスルで号令一下、こんなオープニング、ありそうでないよね。途中もう一度、変なタイミングで「ピーッ、ピッピ!」って入るのもふつうじゃありえない。ほんと飽きないな、ムーンライダーズ(笑)。「ビタキャン」や「青空のマリー」、スケールの大きい名曲が多い良明さんの、真骨頂とも言える王道ポップ・ロック。彼の大らかなメロディ、つくづく天下一品だと思う。

09 夕暮れのUFO、明け方のJET、真昼のバタフライ
作詞:鈴木慶一/作曲:岡田徹

やってくれたのは、やっぱり岡田さんでした。当代切っての美メロ王が、また、とんでもない名曲を生み出してしまった。70年代80年代は言うに及ばず2000年代に入ってからも、この世のものとは思えないうつくしいメロディを連発してきた岡田さんだけど、この「夕暮れ~」はムーンライダーズ33年の中で…というより、ポップスの歴史の中でも、屈指のキラーチューンと言っていいんじゃない?音楽そのものへの祝福のようなメロディ。東京の風景の中を疾駆するサウンド。3分間ポップの魔法の極み。みずみずしい果実のようなこんな音が、還暦前後のバンドから出てくるなんて、ね。また慶一さんのボーカルが最高にチャーミングだ。ほんとうに岡田さんのメロディは慶一ボーカルの魅力を熟知してる。ドラムの音もすごくいいな。シンプルな中に潜む強情さ。ほんと、何も言うことない。すばらしい曲。

10 本当におしまいの話
作詞・作曲:鈴木慶一

まったくもって慶一節だね。淡々と情けない詞、夢の中で鳴ってるようなサウンド、ブリッジの混沌。どこかビートニクス的フォークロックも感じるし。アルバムに時限爆弾みたいな作品を仕掛けてくるのはいつも彼で、何の気なしに聴いてると、ずっとあとで深く作用してくる。まわりの遅いアルコールのようで、油断できない。

11 パラダイスあたりの信号で
作詞・作曲:鈴木慶一
これはね…意外なほどやられちゃった。聴けば聴くほどヤバい状態に…。たった4分弱の曲とは思えないこの重さはなんだろう。かしぶちさんのドラマティックなスネア、土砂降りのようなシンバル、くじらさんの叫ぶようなトランペット、良明さんと慶一さんのクレイジーなギター、何もかもがカタストロフィに向かっていくようでせつない。その破滅の響きの底から聴こえてくる、あのライダーズのユニゾンコーラスで泣いてしまう。「デュでゅでゅんでゅー」は、希望を捨てない男たちの歌なんだ。と、思う。
余談だけど、慶一さんのBLOGでアルバム制作日記が進行していたとき、レコーディング最終日にボーカル・コーラス録りをしたが書かれていたことがあった。その中で「全員のコーラスに夏秋くんも初参加」とあり、それが今思えばこの「パラダイスあたりの信号で」だったのだけど、その、コーラスに夏秋さん参加、というところに私はそのときひそかに心打たれてしまってた。ライダーズは6人全員がコーラス取れるバンドで、ふつうに考えればそこに助っ人は要らないはずだけど、それでもレコーディング最終日に夏秋さんを呼んでいっしょに歌ったっていうのは、ライダーズの、夏秋さんへの連帯感と信頼の表現に他ならないんだろうと思って。よく考えるとライダーズのユニゾンコーラスに参加って、そういう重みがあるよね、契りを交わすみたいな(笑)。ちょっとやそっとじゃもう抜けさせてもらえないみたいな(笑)。

12 旅のYokan
作詞・作曲:白井良明

いい曲だね…。ごくごくシンプルな演奏の中に湛えられた深み。今、はいつでも寂しくて、今、はいつでも何かが足りなくて、でも、寂しさの先の未来を見つめてなんとか歩きだす。旅のYokanを胸に、ムーンライダーズはまた、どこへ向かうんだろう?

13 6つの来し方行く末
作詞:鈴木慶一/作曲:岡田徹

33年めにもなってまだこんな最終兵器みたいの隠し持ってるなんて。6人で1節ずつ歌いまわしていくというアイデアは、ともすればギミックに傾いてしまいそうなのに、意外なほど、まっとうにじんとさせられてしまう。メンバーのキャラクターをちょっとは浮かび上がらせたいという意図で書いたという慶一さんの歌詞、その「ちょっと」の匙加減がすばらしい。このムーンライダーズというバンドを愛してやまない私なんかは、もう単語ごとに(たとえばかしぶちさんの囁く「コート」ひとつに)いちいち突き飛ばされるし、彼らのことを何も知らなかったとしても、心動かされる普遍がここにはある。それにしても、と思う。55歳から60歳という年齢のメンバー自身の「来し方行く末」を示唆する歌詞が過剰にノスタルジックに聴こえないのは、彼らがいつも未来へ前傾姿勢のバンドだから、なんだなと。6人の誕生月が見事に分かれていることも慶一さんで始まり博文さんで終わるという順番も奇跡的と思うけど、何より奇跡的なのはやっぱり、ムーンライダーズというバンドの、飽かず終わらないこの青春体質だと思う。


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と、こんな感じの各曲感想文。ひっそりと夏秋さんファンのBLOGということもあり、サポートドラマーへの言及やや多めでお送りしてみました。もちろん書き足りてないこともたくさんあり、それはまたいずれ。

 

ほんといいアルバムだよね。まだまだ思いがあふれてきそう。