プロコル・ハルムを初めて買ってみた。30代後半の子持ち主婦が買うCDじゃないような気もするがまあいいか。プロコル・ハルムは、おすすめのアルバムが人によって違うようなのだけれど、ジャケットに魅かれてこの「グランド・ホテル」。ううう美しいジャケットだ~。世の中にはもうそれこそ天文学的な数のレコードが出ているはずだけれど、その中でも指折りの傑作ジャケじゃないだろうか。これのためだけにでも3000円出していいぐらい。よく見ると全員が全員カッコイイわけじゃないとこがまた何だかいい。
73年の作品。こういうものを聞くとき、仕方のないことではあるけれど、リアルタイムのリスナーでないことが本当に悔しい。プロコル・ハルムのようなバンドが身体を張って切り拓いてきたクラシカル・ロックという音を、すっかり「手法」として取り入れている80年代や90年代の音を聞いてきた私が、73年当時にこのアルバムが世の中の空気を震わせたときの衝撃を味わうことは、まったく不可能だから。でも同時に、何度も言うことだけれど、30年後の、しかもこんな島国で生活している私なんかにも、距離を越え時代を越えて、作品のほうから迫ってきてくれる素晴らしさ。価値のある音は、それ自身が船にも飛行機にもタイムマシーンにもなれるんだ。
で、プロコル・ハルム超初心者の私なわけだけれど。ゲイリー・ブルッカーの歌、何だかすっごく好きだー。ちょっと枯れた感じの味わいがあって、巧すぎず、どこか親しみやすさがあって。このアルバム、音はジャケットの美しさにたがわぬ重厚でゴージャスな彩りだけれど、それが鼻につかず何となく飄々としたおかしみを漂わせてるのは、このボーカルのおかげかもしれない。メロディもとてもポップだし。大体、ロックごときがこんなに贅を尽くした大仰な音を奏でてるのが無謀におかしくていいなあ。ずっと聞いてると飽きるかもしれないけど。
プロコル・ハルムは昨年来日したそうだけれど、もうこれが最後だという話も聞いた。私がゲイリー・ブルッカーの歌を、マシュー・フィッシャーのハモンドオルガンを、生で聞くことはなさそうだ。人がリアルタイムで体験できるものって、ものすごく限られてる。だから、音のタイムマシーンに乗っかりながら、やっぱり「今」生み出されるものにもちゃんとかかわっていたいと思う。私の持ってる波長が届く場所なんてたかが知れているけど、知れているなりに。ね。
*「Grand Hotel」Procol Harum