月夜のドライブ

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ジャック達『HILAND』全曲語り!

画像ジャック達のセカンドアルバム『HILAND』。手に入れて以来、ここから気持ちがいっときも離れられないでいる。最初に感じた衝撃は、なんどディスクを回してもちっとも褪せない。昨年の5月ごろ「レコーディングに入った」と聞いてから発売まで、「まだかな?」「もうできた?」「早く早く!」と、ファン特有の無責任な気持ちだけが急いていたけれど、実際に完成したアルバムをこうして聴くと、逆に「これだけの作品、よく1年で作れたな…」と思う。おっそろしいアルバム作っちゃうにもほどがあるよ、ジャック達。

 

ストレートでシンプルなライブ演奏とはまったくちがう、多層な音がパズルのように仕込まれた曲たち。そのため息の出るほど複雑な音の上で、でも相変わらずこのバンドはちいさくまとまることを知らず、遠慮なしに好き勝手にロックの風を吹かせてる。すべての音の際立ちがファーストに比べて飛躍的だと思うけれど、とりわけこの4人のロックバンドの、ギターの音、ベースの音、ドラムの音の、強さ激しさ素晴らしさ。こんな演奏を、その響きのひとつ残らず、そして破綻すれすれの熱量まですべて、ディスクに刻めるなんて…。ライブバンドとしてもレコーディングバンドとしても、奇跡的。

 

というわけで、『ハイランド』全曲感想、書き倒す!ムダに長いぜ。心底参ってるからね。

 

01.「ソルティ」

1曲めがインストとは予想外だったけど、これが、小粋な映画のオープニングを見るようでイイ。飄々と肩の力の抜けたサウンド、でもどこかに仕込まれてる一筋縄じゃいかないグッドセンス。「ま、こんなもんでしょ?」って、いつもの調子でうそぶくピートさんの横顔が見えるようなナンバー。小品のくせして、テルミンカリンバグロッケンシュピールと、重なる音はマニアックにして絶妙。そして夏秋さんのシモンズの音が超キュート。ようこそ『HILAND』へ!

 

02.「オンボロ」

2年前のライブ(私にとっての初ナマジャック達)で披露されて以来、なんども聴かせてもらっていた曲。アルバムバージョンは、♪オンボロッチ~♪のコーラスがR・O・M・Aの村松さん&Ohjiさんのゲスト参加で格段にゴージャスになっていてビックリ。「かき揚げの油」なんて詞を平気で歌っちゃうこのファニーな曲が、間奏に至ると一転、凄まじい嵐のような演奏へと転げ落ちていくさまは、なんど聴いても鳥肌が立つ。この、ほぼ破綻と言ってもいい落差を内在させてるのがジャック達なんだな…。つくづくおっそろしいバンド。間奏のシンバルの音の繊細さに熱っぽくなるのは止められず、そのあとの叩きっぷりの激しさにどうしようもなく崩れ落ちる。

 

03.「キャンセル」

これは、クリーム的解釈によるジャック流『Revolver』…かな。こんな曲をこのレベルでぶちかませるバンド、日本にそういないだろうと思う。ライブでいつも一色さんがMCするように、まさに「キハラヒロムSHOW!」を堪能できる1曲。イントロの甘い音色、そして巧者ぶりを見せつけるエレクトリック・シタールの音、ともに最高にいい響きしてる。そして間奏に至って、それまでの甘さを裏切るようにふっと表情を変えるギターの壮絶さ…!初めてライブで聴いたとき「ジャック達の新境地になるはず」と強く直感したけれど、それは(鈍い私にしては)慧眼だったかも。この曲でとうとう本格的に、ジャック達はタイツを超えちゃったんじゃないかな…、なんて思う。

 

04.「キッチンでデート」

これ、おっかしいよねー。ピートさんと夏秋さんのクレジット「Kitchenware」って、いったい何を鳴らしてるんだろう(笑)?ジャンクでB級でキッチュでユーモラス。ジャック達のこれまた日本人離れした「Bサイド」が炸裂してる!鍵盤ハーモニカ(夏秋さんのお兄さん登場~!)にリコーダーにスネアドラム、オモチャ箱みたいな間奏のマーチングフレーズが最高にかわいくて楽しい!でもね、一色さんの歌詞はじつはクラッとするほどエロティックなんだよね。相手が誰であろうと、恋は過去の中になんてない。いつでも最新の場所で真新しい恋を始めるのが、ちゃんとした大人ってもんなんだ。

 

05.「乙女座ダンディライオン

じつは、このアルバムで今いちばん参ってる曲かもしれない。ライブでずっと聴いてきてイカシたナンバーだとは思っていたけれど、こんなにカッコイイ曲だったとは…。マジブッ倒れ。このたとえが適当かわからないけれど、モップスとドアーズを足して2で割ったような独特の凄みがある。ギターとベースのそれぞれが一色メロの歌謡エッセンスを絶妙に鳴らしているところに加えて、あまりにもセンスのいいドラムのフレーズ、ハモるボーカルのせつなさ、サビへと信じ難い身のこなしを見せるメロディ。そして、途中からかぶってくるオルガンの破壊的なカッコよさったら!ほんとドアーズみたい…ヤバすぎ。このオルガン、ドラマー夏秋さんが入れてるらしいんだけど、本職でもこんなふうには鳴らせないんじゃないか?と思うほどの素晴らしさ。オルガンロックが好きな人は必聴です。今回のこのアルバムは夏秋さんがプロデューサーも兼ねていて、音のあちこちに感じるまぎれもない夏秋さんテイストがもう好きで好きでしょうがないんだけど、この曲なんかもまさにそう。さらに特筆すべきは、一色さんの詞の凄さ。「水溜り画廊(ギャラリー)」とともに、100%隙のない、日本語ロック詞の傑作だと思う。このことはまた別に書こうと思うけど、もう、ヤバすぎるよ、ほんと…(泣)。すべてをひっくるめて、きっぱりと、歌謡ロックの新たなスタンダード。少なくとも10年は誰にも超えられないんじゃないかな。

 

06.「スーパーソニック・トースター」

ああ、やっと世に出てきてくれたね!この曲が世界中に鳴りわたるのを、どれだけ待ち焦がれていたことか!まさにどこを切ってもジャック達な1曲。初めてこのイントロを聴いたときの驚愕は今でもはっきりと覚えてる。こんなメロディ生粋のロンドンっ子にだってそうは書けないと思うし、こんな音65年のマンチェスターのバンドにだってなかなか鳴らせないだろう。この曲は一色さん自身も相当気に入ってるはずでライブでも必ず演ってくれているのだけど、歌詞はアルバム聴くまでまったくわからなかった(笑)。こんな詞を歌ってたのか~、これがまた驚くべきセンスの言葉たちだった!一色進、最高すぎる。そして間奏前のドラムのブレイクのカッコよさには、もれなく崩れ落ちて当然。あーまたライブで聴きたい…。

 

07.「マラッカ」

キハラさんによる、アルバムのブレイク的なギターインスト。うーん、ジャック達にこんな隠し札があったなんて。陰影のあるメロディが開かれた場所へと導かれていくうつくしい情景。キハラさんのギタープレイのスケールの大きさを感じるとともに、最後のほう、左で鳴る一色さんのエレクトリックギターの荒んだ響きが、つくづく彼らしいなと。こういう音鳴らすと絶品だよね、一色さんのギターって。

 

08.「ハイランド」

荒地を吹き渡るすさまじい風。嵐の日の雲のように目まぐるしく空を覆う、ねじれて歪んでプログレッシヴな音。風圧に耐えて立っているのがやっとなぐらいの世界!夏秋さんのド迫力のドラミングと、音の底をたしかに貫くピートさんのベースと、キハラさんのやわらかで広がりのあるギターのタッグがまずは素晴らしいけれど、ゲストの美尾洋乃さんのヴァイオリンが驚くべきすさまじさ。見ためあんなおっとりとした美人なのに…。そして、一色さんのボーカル、カッコよすぎじゃねえ?いくつもの音が謎かけのように積み重なって、ジャック達のプログレ魂全開。ああジャック達、いつのまにこんなおそるべきロックバンドになっちゃったんだろう…。

 

09.「ロッカバラッド・クロック」

前のトラックから一転、ポップでファニーでスウィートでロッキンなジャック達「アメ・グラ」サイドの1曲。キハラさんのとろけるようなギターがたっぷり乗っかった甘~いデコレーションケーキみたいな曲だけど、ふと気づくとやっぱり壮絶なケーキ投げが始まっちゃってる感じがどうにもジャック達(笑)。こういう曲調を、これだけロック的に鳴らせるバンドも、じつはなかなかいないと思うんだよな。

 

10.「セラピィ・アゲイン」

イントロのキハラさんのド派手なギター、最高~!!派手にしろったって、なかなかここまで派手に弾けるもんじゃないと思うけど(笑)。昨年のクリスマス・イヴ・ライブのときにCD-Rをプレゼントしてもらって聴きまくってた曲だけど、シンフォニック・ロック的な深遠と歌謡曲的な俗っぽさが同居してる、なんとも不思議なサウンド。しかもアルバムバージョンではさらにロム・チアキさんのテルミンがかぶせられていて、なんだかもう大宇宙交差点のような。この『HILAND』ってアルバム、全編通じてロムさんのテルミンが大活躍なんだけど、使い方うっまいよね~。さすが夏秋さん、と思う。テルミンをここまでカッコよく使える王道ロックバンドといえば、もう西のツェッペリン、東のジャック達、ってことでいいでしょ。…いいよね(笑)?

 

11.「スクーター・ガール」

ビートだ!モッズだ!これは早くライブで聴いてみたいな。いい歳したバンドのくせして、ジャック達ってこういうの大得意だよね(笑)。なんか4人ともめっちゃイキイキと演奏してるのが目に浮かぶ。こういうゴキゲンなロックンロールならアルバム10枚ぶんぐらいでも平気で演れちゃう(いやアルバムはまだ2枚しか出てないが)ジャック達のブリティッシュ・ビート・バンド体質、サイコーだな。いつまでもB級で小僧で青二才。そのチャーミングな蒼さにこそ惚れてるのさ!

 

12.「・・・」

「・・・」のあとに指さしマークが入ってるのが正式なタイトル表記なんだけど、コレ、なんて読めばいいの(笑)? ヘンテコ好きな夏秋さんの、「?」、「赤ワインと☆♀○♂」、と並ぶアンリーダブル・タイトル3部作と勝手に位置づけておこう(笑)。でも。このジョークのような20秒が次の曲を連れてくる瞬間の恍惚は、まるで魔法にかけられたよう。

 

13.「水溜り画廊(ギャラリー)」

たとえば「In My Life」とか、たとえば「Stairway to Heaven」とか。世の中のすべてのロックバンドが、そんな名曲を、自分のものとして手にしたいと願うのだと思う。けれど、実際にその願いがかなうのは、たぶんごくわずかだ。ジャック達は、この「水溜り画廊(ギャラリー)」という曲で、そのわずかなロックバンドに選ばれてしまった、と思う。バンドブームがブームでさえなくなってもう20年近く経つこの国に、「いいロックバンド」「巧いロックバンド」なんて掃いて捨てるほどいる。でも、その中で、こんな掛け値なしの、天空に一気に駆け上がることを許された名曲を持てるのは、ほんとに限られたバンドだけなんだ。そのことの、涙が出るようなかけがえのなさ。一色進という人がこの30年以上つねに目指し続けてきた「バンドサウンド」の果てしない理想は、宙GGPキハラ、福島ピート幹夫、夏秋文尚という3人のメンバーと出合って、たぶん彼自身もきたことのないであろう、こんな場所にまでたどり着いてしまった。こんなバンドのアルバムやライブを、リアルタイムで受け取れるという、気を失いそうなほどのとうとさ。そこに、永遠にひざまづいていたい。ジャック達ってバンドが続く限り、ね。

 

2007年の今に生きるリスナーでよかったな。『HILAND』、こんなアルバムをリアルタイムで聴ける人生でよかった。ほんとに、ありがとう、ジャック達。