月夜のドライブ

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ムーンライダーズのサントラ『PASSION MANIACS マニアの受難』

画像ディスクを回し始めてすぐ、ギター、バスドラ、トランペットの音出しの様子が聴こえてくると、その10秒だけで、「ライブ」というその場所その時間にしか存在しないあの「熱さ」にカラダが包まれて、思わずイスから立ち上がりそうになっちゃう。そこから慶一さんの「OK、こんにちは!」という挨拶が拍手で迎えられ、ドラムのカウントが続き、楽器すべてが一気にイントロダクションに入るこの高揚感!めっちゃカッコイイーーーーッ!!!!ああライダーズ、マジかっけーよ…愛してるぜ(泣)。

 

12月公開の映画のサントラということになっている『MOONRIDERS THE MOVIE / PASSION MANIACS / マニアの受難』。普通なら映画の公開以降にしか発売されない「サントラ」がこうして映画よりずいぶん先に出たのは、普通のライブ盤としても、ライダーズヒットパレード(いやヒットはないんだが)としても聴ける、この音源の普遍性ならではなんだろうね。

 

私は、ここに10曲が収録されている日比谷野音のライブを観ていたひとりだけれど、あの日を思い返してじーんとするとともに、あのときには気付かなかったいろいろなことに気付かされて、あらためてすっごく楽しい。たとえばその、最初の「Frou Frou」なんかを聴いて、「右に良明さん左に慶一さんのツインギター、カッコエエなー!」とかね。目の前に慶一さんがいると(あの日はホント、目の前って感じだったのだ)、つい表情とか歌に心を奪われてしまうのだけれど、その一方で、彼はこのギターもしっかり弾いてるんだよね。(前も同じこと書いた気がするけど、)あまり語られないことながら、良明さんと慶一さんのツインギターあってのライダーズサウンドなんだよなーとつくづく。それから、続く「青空のマリー」の良明さんのボーカル、めっちゃ素敵~、とか。「ボクハナク」博文さんと直枝さんの声の組合せは、やっぱりせつなさ無限大だよな~…とか。「9月の海はクラゲの海」慶一さん+ユキヒロさんのボーカルはしみじみ無敵の情けなさだなー(ホメてます)…とか。

 

そして、慶一さんもライナーのインタビューで「バッキンググループとしては、このバンドすごく優れてるね(笑)。」と言っているように、彼らの演奏力の高さをまざまざと見るライブ音源、でもある。特に私がそれを感じるのは、「夢ギドラ85'」と「くれない埠頭」の演奏。「夢ギドラ85'」のイントロ~前半、この深閑とした音世界をナマで構築できるところに、ライダーズの力量を感じるんだよね。「くれない埠頭」もそう、ただ疾走するだけじゃなく、こういうロマンティックな音を甘く放てるところが、他のバンドにはマネできない魅力だと思う。そして「夢ギドラ85'」の間奏以降は想像を絶するおそろしさに…。CDバージョンよりも岡田さんのシンセが狂おしく、同時にドラムとベースも頑固で屈強な音鳴らしてて、このとんでもない緊迫感、どうすりゃいいのよ…!しかも坂田さんとかしぶちさんのドラムソロの応酬!カッコよすぎてマジ気失う…。

 

4月のロフトライブの音源「彼女について知っているニ、三の事柄」「Elephant」が、音質は少々劣るんだけど、またバカバカしいまでに熱くて最高!何の前知識もなくこの音だけ聴いたら10代のバンドと思うかも(笑)。っていうか今どき10代バンドでも、こんな行儀悪い音なかなか出さねーな。彼らを迎える歓声もまるで若いオーディエンスみたいで、これはロフトという場所のマジックなのか。このバンドとしての身体性と、一番最後のトラック「A Song For All Good Lovers」に見られるような実験体質、この幅が(慶一さんがインタビューでニューウェイヴシーンの他アーティストについて「それしかできない」のが「うらやまし」かったと皮肉ではなくたぶん本心で言うように)、ライダーズのわかりにくさであり面倒くささであり素晴らしさなんだろうなと思う。

 

野音の音源でゲストを迎えている歌、それぞれに胸が熱くなるね。ライダーズの30年、というだけでなく、あがたさんやパンタさんやエンケンさんといった70年代のあのころロックを志したいくつもの野心が、こうやってサエキさんや直枝さんや曽我部くんといった下世代のミュージシャンたちの魂を巻きこんで、ここに「日本のロック」として存在してるんだということ。そしてそれはこれからも続こうとしているんだってこと。過去から現在、未来にいたる、そのひと言では尽くせない道筋を、鮮やかに一瞬で俯瞰するようで。

 

まだしっかり何度もは聴けていないんだけど、今後「ボクハナク」での直枝、慶一、博文、良明(当日の並び順左より)のギターの聴き分けとか、「ドントラ」でのユキヒロ、かしぶち、坂田(当日の並び順左より)のドラムの聴き分けとかにも挑戦してみたい所存…。うーん、やっぱり単に「サントラ」じゃ済ませられない、ゼイタクなアルバムだよね。

 

*『MOONRIDERS THE MOVIE PASSION MANIACS マニアの受難』ムーンライダーズ