月夜のドライブ

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moonriders『マニア・マニエラ Special Live』 @ Billboard Live TOKYO

『マニア・マニエラ Special Live』というものが開催される!とトツゼン告知解禁になったのが5/2のこと。新譜『It's the moooonriders』が4/20に発売されたばかりでプロモーション真っ盛りだったし、3/13野音がレコ発にならなかった分レコ発ライブはまたやりますよ~と慶一さんも言っていたので、「え、マニア・マニエラ?レコ発じゃなくて?」と、かなり意表を突かれた感はあった。(今思うと、新譜発売→野音レコ発→マニエラ再現ライブ、という流れでスケジュールはだいぶ前に決まっていたのだろうけれど。)

 

しかも会場が、庶民が気後れしがちな、び、ビルボード!あわわわわ。私ははちみつぱいのときに行ったことがあるだけだけど、チケ買うの難しかったような…。ていうか2ステージあるにしても席数少ないのでは?買えるのか…?と、不安いっぱいになりながらも、発売日になんとかチケット(がんばって両ステージとも)購入。いざ、セレブタウンへ!

 

moonriders『マニア・マニエラ Special Live』
2022年7月16日(土)
東京・Billboard Live TOKYO
1st ステージ OPEN 15:30 / START 16:30
2nd ステージ OPEN 18:30 / START 19:30
サービスエリア 9,400円
カジュアルエリア 8,900円(1ドリンク付)

 


■ライブ本編(A面)
1stステージは自由席を買っていたのだけど、2ndの指定席が下手側後方なのがわかっていたので、できれば上手側に…と当日店員さんに希望を伝えたら、はしっこながら良明さんのギタギドラが間近な席を案内してくれた!夏秋さんのドラムセットも脇からだけどよく見える!わーい!下手側のメンバーはほぼ見えないけれどまー仕方なし。ドリンクをいただいたりしつつ、ステージ後方にどーんと開けた曇り空のビル街を眺めて開演を待つ。(以下、1stと2ndが混じった感想文!)

 

 

最初にステージに現れたのは良明さん。なんと最近おなじみのスーツ姿ではなく白いツナギだ!かっけえ!手に持った白い「○」のボードを客席に掲げて自分の位置へ、そしておもむろにギタギドラを奏で始める…。私はナマでお目にかかるの初めてな気がするギタギドラ、土台の木のボードからエレキギターのネックが2本ニョッキリ生えていて、音叉や小さなシンバルや何なのかも判然としないいろんな装置がついていて、裏からは無数のコードがどばーと出てて…なんと奇怪な機械!運び込んでセッティングするだけでも気が遠くなりそう。良明さんがこの怪物楽器をさまざまに鳴らして紡ぐインプロビゼーションをバックに、メンバーが続けて一人ひとり入ってくる。みんな上下白の衣装で、○やら△やら□やら白い記号のボードを掲げて。コンセプチュアル!80's!たまらん!最後に岡田さんが、支えられながらもご自分の足で!歩いて!入場し、ひときわ大きな拍手を浴びる…お元気そうだーーーうれしい!

 

ステージに上がったメンバーの出す音(慶一さんは何かライトを照らす謎行動、光で音が鳴る仕掛けのハンドメイドガジェットを操ってたらしい!)が少しずつギタギドラの音色に加わっていき、バラバラな音符がだんだん集まってうねっていく…、と!突如「あのイントロ」が場をかっさらい、「Kのトランク」だ!かっけーーー!いつも以上に変な音がいっぱい、ステージ上のそこかしこでひっきりなしに鳴ってる!ギタギドラ、バイオリン、ピアノ、キーボード、アコギ、率いていくドラムとベース、歌も慶一さんvo&大勢コーラスで全力!はーーーのっけから大興奮!

 

曲順は何十年も耳になじんだアルバム通り…なので、「次の曲」は頭の中で自然にかかるのだけれど、カッ飛んでくるナマの音の迫力が記憶を容赦なくのしていく。「花咲く乙女よ穴を掘れ」。土着的などんどこリズムに合わせ、慶一さんとくじらさんが赤いスコップをカン!カン!と互いに打ち鳴らす。これだけのために持ってきたのか(笑)!この日のこの曲、ひときわ埃っぽくてサザンロックみたいだったなあ。「家に帰れば~」のユニゾンコーラスが酔いどれ共の歌のようで最高。この日、ライブを通じて終始、澤部さんがボーカルに加わってる厚みがハンパなかった…(最近ずっとそうだけど今日特に)!

 

良明さんがスティックでギターを叩くみたいにして、めちゃめちゃヘンテカッコイイ(ヘンテコ+カッコイイ)音を出す檸檬の季節」!あれは何奏法っていうんだろ、一般的なギターの弾き方なの!?(そういえば野音でもやってたよね!)慶一さん+オクターブ上を歌う澤部さんの二層ボーカルのスバラしさ、博文さん+くじらさんパートのドキッとさせる男っぽさ、雄弁なバイオリン、不穏なピアノ、こんなにシャープな音像をすました顔で叩きだす老齢バンド…!

 

かしぶちさん詞曲の「気球と通信」は、かしぶちさんの思いを引き継ぐかのごとき良明さんのしっとりボーカルで。良明さんの声は永遠のジュブナイルを宿してる。ハモる澤部さんとの組み合わせ、キュンと甘酸っぱくて胸いっぱいに。そして慶一さんがトランシーバーで「通信」、みんなで「通信」、慶一さんが「かしぶちくん、通信」とくりかえし、くりかえし。ここ(地上)に居る者たちで“今”を引き受けて、すべての死者の魂に叫び続けているようだった、「大丈夫だよ」と。通信する者が地上に居る限り、相手は「居る」んだと思う。だからメンバーは「通信」し続けるんだと。ノイズがいっぱい入ったジャンクな音、とてもよかったな。そういえば今日も夏秋さんは、リボンに包んだかしぶちさんのスティックを大切にバスドラの上に連れてきてた。

 

その「気球と通信」のラストからつながったまま「バースディ」。良明さんがその場で作る美しいループの音(だから1stと2ndでちょっと違ってたと思う)をベースに組み立てるサウンドがすごい!ループを絶妙タイミングで止めるのも(たぶん)人の手でやっててすんごい技術。「どー(博文)しー(くじら)よー(慶一)ここはどこなの~(良明)」とメンバーフル活用の混沌ボーカルも見事。ナマで目の前で繰り広げられる、圧巻の人力エフェクト!人力テクノ!に、なんか大感動してしまった。

 

■ライブ本編(B面)
脳内では、レコード盤をひっくり返してここからB面。「工場と微笑」。アルバムでも始まりがカッコイイ曲だけど、この日のルーズでグランジなイントロ!ギターの音、ベースの低い音、シンバルの音、アンプのノイズ、ランダムに鳴るそれらが、まるで機械が目覚め始める町工場の朝の風景みたい。そしてくじらさんのあざやかなバイオリンの音色で、号令一下、すべてがいっせいに動き出す!はーーーかっこよ!ソリッドな博文さんのボーカルにイェーオーイェーオーコーラスが冴えわたる!

 

「ばらと廃物」はあまりライブで聴いた記憶がないのだけど(※自分のブログ検索したら2009年の『Drive to 2010』で演ってるようだ)、あのチャラララ…っていう印象的なギターから始まるシャープなサウンド、まーカッコイイのなんのって。30歳前後のトガりにトガってる時代の演奏を、齢70の老境連中の演奏が勢いよく上書きしていく恐ろしい光景!この曲もまた(まあライブ中ずっと思ってるんだけど)慶一+澤部ボーカルが最高で、この曲に限らずだけど優介さんのキーボードも最高で、澤部さんと優介さんがこのライブで果たす役割の大きさがとにかく無限大!ナマでこの音が出せるんだもの…!

 

これこそめったにライブで演らない(と思う)「滑車と振子」。新譜のラストを思わせるような攻め攻めのインプロ始まり!老齢バンドの凄みが爆発。このひんやりした音像を、8人のナマ音でつくりだせるのがつくづく凄い。「ハーーーッ」っていうエフェクティブなコーラスもナマで。そしてサビで澤部さんの高音「ヨイヤイ」コーラスが炸裂!さすがの若人、息継ぎも無問題!学生の頃、優介さんにふざけてヨイヤイ言ってた(←澤部さんのライブ後のツイより)経験がここで役立ってヨカッタ!

 

ここまでずっと、名盤に閉じ込められた音が当時以上の迫力と意外さで目の前でナマで構築されていくことに言いようのない感銘を受けながら観ていたんだけど、「温和な労働者と便利な発電所は、そのピークだったかも。くじらさんが(確かこの曲で)なんか箱を持ってるなーというのが遠目に見えた(カリンバだった)ほか、全員でこれでもかと変な音出しまくり。良明さんの「べんりなはつでんしょ!」くじらさんの「おんわなろーーーーー(長い)ーーーどーーーしゃ」すべてがヘンテコでオモシロくてオカシくて、ほんと70歳にもなって何やってるのアナタたち!と(笑)。で、そこからの、全員で歌う「Jobless Jobless Jacobin Jacquerie 職なし それ シュプレヒコール♪」がしびれるほどカッコよくて!!!!もークラクラした!今、この混迷の時代にセレブリティの街で鳴り響くこのフレーズは、皮肉やポーズではなく、リアルに機能する労働歌だと思った。8人の肉体がナマで奏でる有機的なサウンドは、汗して労働に従事する者の音楽だった。『マニア・マニエラ』というアルバムが2022年にこんな響き方をするなんて、予想してなかった。驚愕。ラストでは慶一さんが拡声器で「温和な労働者、立て!」と何度もアジる。なんちゅー戦闘モードな。1stステージでは立っていいのか戸惑っていた客席。2ndでは立った人が多かった(笑)。

 

そしてくじらさんのバイオリンと「ヤーヤーヤヤヤヤー」でなだれこむ「スカーレットの誓い」。ライブの定番曲だけど、『マニア・マニエラ』のラストとしてこの文脈で聴くのはまた新鮮でよかったな。澤部さんが最初のメインボーカルをとったのも、メンバーみんなの敬意と謝意が感じられてとてもよかった。少しくぐもって甘い澤部さんの声はかしぶちさんの香り。慶一さんが歌う「酔いつぶれて夜明けの頃~」も大好き、はちみつぱいの人なんだなーと思う。全員で(声を出さずに客席も)歌う「薔薇がなくちゃ生きていけない」は格別。

 

■メンバー紹介~アンコール
あっというまの10曲。ここで初めてメンバー紹介。良明さんは8月の50周年記念ライブの告知など。この日のムーンライダーズは「よしあき sings moonriders」になるとの告知も!楽しみ!博文さん、くじらさん、ときて次に岡田さん。「応援のおかげで立てるようになりました(笑)」もーどんなときでもユーモラスでチャーミングな岡田さん!「社会復帰に向けてがんばります」と。客席から大拍手!優介、澤部、夏秋、と順に慶一さんが紹介して、最後にくじらさんが慶一さんをコール。いたって健康そうな鈴木兄弟はもちろん、年初入院してたと思えないほどエネルギッシュな良明さんも、時間を遡るかのごとくメキメキ健康にそして若返ってるように見えたくじらさん(ボーカルとトランペットを代わる代わる、も難なくこなしてた)も、声にハリのあった岡田さんも、元気そうな様子、喜ばしい限りだった。会場中の拍手の中、一人ひとり退場。

 

…と思いきや、岡田さんが鍵盤の前に残り、こぼれてくるピアノの音。「青空のマリー」だ…!岡田さんの両指から生まれる美しい旋律。時間、歴史、バンドの足跡、ファンの思い、すべてを含んだ、誰にもまねできない岡田さんだけの。力強く美しい音を聴きながらじーんとする。ここまで回復してくれて、本当によかった…。ピアノの音をバックに再度メンバーがステージに戻り、おなじみのイントロへ。1コーラス目は良明さんボーカル、2コーラス目は慶一さん。この日どの曲もそうだったんだけど、ボーカルとコーラスの組み立てがいつにもまして素晴らしかったな。

 

と、時間にしたら1時間半に満たないステージ。だけど1曲1曲がとんでもなく濃いアルバムであるうえに、この日の生演奏の密度が録音物にも勝るほど圧倒的で、もう終わった瞬間「ムーンライダーズ最高すぎる、マニアマニエラ最高すぎる!」と思い、今日のたった2回でこのライブが終わってしまうのがもったいなさすぎて、あと1万回でも観たいと思った。ほんとに凄かった。

 


いったん客席全部入れ替えての2ndステージも同じ流れ。私は2ndは左寄り後方席で、1stでまったく視界にキャッチできなかった優介さんをはじめ、遠くはあるけど全体を観ることができてこれはこれでよかった。同じ真っ白衣装だけど、良明さんや他数名はお召し替えしてたかな?1stよりも少し慣れた分、演奏の自由度がさらに増してた感じもした。2ndでは慶一さんの拡声器の「立て!」でみんな立っちゃったので(笑)「スカーレットの誓い」はノー発声ながら大盛り上がり。基本はスタンディングNGだったと思うんだけど、1曲だけ大目に見てもらっちゃいました…!

 

はけるときに、慶一さんから、大阪でイベントするよーという告知、そして「またお会いしましょう!」と。その“また”が、ずっと先のいつかではなく8月にも9月にも待っているって、確かに会える日がすぐにあるって、なんて嬉しいんだろう…。

 


■個人的な感想いろいろ
なんかうまく言えないんだけど、私がこの『マニア・マニエラ』というアルバムに対して持っていたイメージを覆されちゃうような、驚きのライブだったな。私はこのアルバムにリアルタイムの82年では出会っていなくて数年遅れての後追いなんだけど、『マニア・マニエラ』といえば「テクノロジーを駆使した実験的でコンセプチュアルなアルバム」、どちらかといえば機械的で無機質な音の印象を持ってた。だからこの日のライブも、テクノ感の強い再現ライブになるんじゃないかと思っていたんだよね。でも、全曲演奏を観終わった印象は、めちゃめちゃ“エモかった”!!!!

 

確かに音数は多くて、ヘンな音フシギな音がいっぱい鳴ってるんだけど、レコードでは幾度もダビングして重ねているだろう音を、分解して8人の生身の演奏で構築しなおしてるところに大感動してしまった。ナマで、人力で、有機的で、衝撃だった!とんでもなくトガっててアグレッシヴな音楽だけど、バンドサウンドど真ん中、だとも思ったんだよね。だから、世界中の人よ今ここに鳴るバンドサウンドを聴け!と大声で言いたくなったよ。ナマで、この完成度で、こんな奇矯な音鳴らしてるの世界中でムーンライダーズだけでしょ、って。

 

目の前で繰り広げられている演奏がちょっと信じがたいほどで、「温和な労働者と便利な発電所」とか聴きながら、こんなバンドってあるんだろうかと感極まってた。8人が、中でもアラウンド70にもなる年齢のミュージシャンたちが、ステージ上でナマで、隅から隅まで密に音を出し尽くしている。誰に指示されるのでもなく、すぐれたミュージシャンの自由な魂が最高にしてヘンテコな音を自由に鳴らし尽くし、その集積として立ち上がる唯一無二のバンドサウンド。ヘンな話だけど(私の超勝手な感慨だけど)、これがムーンライダーズっていうバンドが形づくってきた民主主義なんだなと胸が熱くなってしまったんだよね…。慶一さんがBYGで、ドラマーのオーディションなのにギターの弾き語りを延々披露しちゃうようなメンバーを選んではちみつぱいを結成したときからひとつながりにずっと続く、こんなメンバーじゃなきゃ成り立たないバンド、こんなメンバーじゃなきゃ生まれない音楽。誰のものでもなく誰のものでもあり、一人ひとりがどこまでも自由で、でも強くつながって46年続いてるムーンライダーズという民主主義バンドの、これが奏でる音楽なんだなって。夏秋さんをも、澤部さんや優介さんをも、巻きこんでなお「ムーンライダーズである」のは、こういうバンドだからなんだよなって。うううーーー(ひとりで意味不明に感動)…。こんな集団が、ここに現実にあり得ていることが、世界のひとつの希望、という気がするんだよ。うまく言えないけど。

 

あともうひとつ特筆すべきは、Dub Master Xさんが担当していたPA。私は音のことはあまりわからないけれど、すばらしかったよね!?ステージ上メンバー多くて音数多くてヘンテコな楽器多くてボーカルとる人も多くて、しかもそれがひっきりなしに交錯し合う複雑極まりないサウンドなのに、どの音ももれなく聴こえてきたし、美しいまでにバランスのとれた音だった。素人ながら、それがどんなに難しいことかっていうのはわかる。それでも私のキャッチ能力が足りなくて聴ききれていない音があるはず、あの場所で鳴っていたすべての音を味わい尽くしたいので、何かしらの音源として出るといいな…!期待してます。

 

ちょっと感動しすぎて長くなってしまった…。まだ書ききれていない気がするけどこの辺で。『マニア・マニエラ Special Live』、才気迸る時期の傑作アルバムを、アラウンド70の老齢バンドが当時を凌駕する発想とナマ音で放ったという意味で『カメラ=万年筆』再現ライブに続く画期的で歴史的なライブだったと思う。バンドってここまで行けるのか、をまた見せつけられた。ムーンライダーズ、まじで、今いちばん目が離せないバンドですよ…。

 


セットリスト(書くまでもないけれど)

1.Kのトランク
2.花咲く乙女よ穴を掘れ
3.檸檬の季節
4.気球と通信
5.バースディ
6.工場と微笑
7.ばらと廃物
8.滑車と振子
9.温和な労働者と便利な発電所
10.スカーレットの誓い

encore
11.青空のマリー