月夜のドライブ

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アンタッチャブルの漫才が見たいな

柴田さんが突然の休養に入って半年になる。柴田さんの元気な姿が見たいし、アンタッチャブルの漫才が見たいな…。切実にそんな思いがつのるこのごろ。ま、それがいつになろうと、いつまでだって私は待つけど。

 

アンタッチャブルの柴田さんと山崎さん。ふたり揃ってもそれぞれがピンでも、コントでもトークでも企画モノでもガヤでも進行でも、とにかくどこにいて何をやっても才能の光る人たちだけれど、私はなんといってもやっぱり、彼らがふたりでやる漫才が好き。

 

ちょっと個人的なことだけど…、シャレになんないヘヴィーな日々が続く中、さすがに気持ちが重く沈むとき、それでも何とか浮上するための方法のひとつがアンタッチャブルの漫才を見ること、だったりする。たとえば2003年・2004年のM-1のDVDを、何度でも。

 

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ただただ、あざやかな漫才。まずは彼らの、声の大きさ・長い台詞でも噛まない滑舌のよさ・アクションの大きさ・表情のゆたかさといった、漫才師としてのベーシックな身体能力の高さに舌を巻く。そして、その身体能力が可能にする、テンポのよさ、展開の速さ、抜群のスピード感。しかもそのスピード感は、(ここがじつはすごいところだと思うけど)機械的ではなくつねに有機的なものだ。たとえて言うなら、サッカーで瞬時に全体の動きを見極めて出すパスのように。だから、パスに二度と同じパスがないように、アンタッチャブルの漫才に二度と同じ漫才はない。あのスピード感の中で、柴田さんのツッコミにも山崎さんのボケにも一度たりとも「言わされたような」セリフがないのは、そういうことなんだと思う。彼らのやりとりはつねに、その場の動きや空気や判断を織りこんだ、能動的なパスの応酬だから。

 

そのスピード感は必然的に、ネタの濃度を高くする。数分の中に仕込むことのできる笑いの量と回数、その考えうる最大限を、ふたりはいつもやってのける。この質量こそが、彼らの漫才に、好みや流行りを超えた圧倒的な強さをもたらしている。さらにすごいと思うのは、彼らの漫才がいつでも、ピークへと駆け上がる「上り坂」の数分になっていること。私たち観客はいつも意識することなくその流れに自然に乗せられているけれど、ネタの最後に差しかかったあたりであらためて最初の地点を振り返ったら、あまりの高低差に驚くから!彼らの場合、いつでもどんなネタでも必ずそうで、これはホントに驚くべきこと。つぶさに見ると特に、山崎さんのボケはもちろん、柴田さんのツッコミがいつも、グラデーションを描くように徐々にテンションを高くしていってるのがわかる。天性の資質なのか努力なのか、たぶん両方によるのだと思うけれど、その技量のすばらしさ。柴田さんのツッコミが「関東一」と称賛されるのは、その勢いだけじゃなく、演技力に裏打ちされた細やかな技術があるからなんだよね。

 

たぐいまれな言葉選びのセンスが、柴田さんと山崎さんの両方にあることも、見事と言うよりほかない。彼らの漫才を見ていると、つくづく、「漫才って『話芸』なんだな」と思う。言葉を使った芸、言葉という頼りない道具で広い世界を掴み取ろうとする向こう見ずなチャレンジ。まさに漫才の正統を、堂々と担えるふたり。だから、私は彼らの芸の中でも、特に漫才が好きなんだなと思う。

 

そして、もしかしたらここがいちばん大切なことなのかもしれないけれど、なにより私は、アンタッチャブルの漫才を貫く「思想」---そう呼ぶのが堅すぎるなら、「人のよさ」と言ってもいいのだけれど---に、惹かれているんだと思う。批評性はあるけれど悪意はない、素直な視線。誰かを傷つけることで利益を得ようとしない姿勢。アンチテーゼから始めないポジティヴな発想力。アンタッチャブルを見ていると、「この世界に対する圧倒的な肯定」を感じて、すごく元気が出る。そして、負のパワーだけが席巻しがちな今の世の中が切実に必要としているのも、アンタッチャブルの漫才、のような気がするんだ。

 

柴田さんと山崎さん、このふたりからなるアンタッチャブルというコンビを、「天才」という言葉で呼んでしまうのは簡単だけれど、天が与える才能は、努力のないところではけっして葉や花や実をつけないのもたしかなことで。これほどの傑出した存在って、もう、時代の宝物、だと思う。好き嫌いを超えて、同時代にいることを誇らしく思えるような、そんな存在。誰かだけのものではなくて、時代全体で、文化全体で、共有している宝物。

 

だからね、どうしても、柴田さんには復帰してほしい。やっぱり、アンタッチャブルには漫才を見せ続けてほしい。世の中に必要なんだ、アンタッチャブルの漫才は。いつになってもいいから、いつまででも待つから、ぜったいに帰ってきてね、柴田さん。

 

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