月夜のドライブ

ラブレターバンバン書いて紙飛行機にして 宛てもなく空に飛ばすブログです。▶プロフィールの「このブログについて」をクリックで記事一覧などに飛べます。

記憶の5月

画像「水溜り画廊(ギャラリー)」が聴きたくなって、ジャック達のセカンドアルバム『HILAND』を取り出した。ここのところ、『JACKFRUIT SINGLES』ばかりをひたすらリピートしていたから、ほんとうにひさしぶりのこと。1曲めの「ソルティ」からラストの「水溜り画廊」までをていねいに聴いて、やっぱりいいアルバムだなあ…なんて思う。現在進行形の『JACKFRUIT SINGLES』の筆舌に尽くし難さはそれとして、この『HILAND』というアルバムを貫くバランスと美意識は独特で、何かに取って代わられるものでもない。

 

 

そういえば去年の今ごろ、私はあんまり元気がなかったのだった。この『HILAND』を作ったオリジナルメンバーである、ベースのピートさんの脱退が発表されたばかりだったから。彼が参加するラストライブが6月にあるよと告知されて、それを待っている、ちょうどそんな時期。私はジャック達というバンドの独特なスクエアの形が大好きだったのに、それがトライアングルになってしまうなんて、ちょっと想像できなかったし、寂しかったし、不安でしかたなかった。

 

ところが、ぐらぐらしてた私の気持ちとは裏腹に、残った3人から聞こえてくる言葉は、メンバー脱退という事態に不似合いなほど明るくて、私にはそれがずいぶん不思議だった。一色さんもキハラさんも夏秋さんも「3人ジャック達はもう始動してる」と自信たっぷりに言うのだもの。そのときの私には、それはどうしても、カラ元気か、ファンに余計な心配をさせないためのスローガンにしか思えなかった。

 

でも、今思えば、そのときの彼らはもう、ゴールデン・ウィークの録音の実験、いわゆるニューベリー・セッションを通り過ぎていたんだよね。いつも彼らがライブをやっている西新宿ニューベリーに夏秋さんの機材を入れて、ベースを一色さんとメトロファルス光永巌さんとが半分ずつ弾いて、のちの『JACKFRUIT SINGLES』の#1~3となる、「今すぐ帰りたい」「東京一悲しい男」「謎の帽子屋」「JET SET」「JUMPER」「Arcade Cascade」の6曲ぶんのベーシックトラックを録っていたんだ。そりゃ、「3人ジャック達はもう始動してる」と、自信たっぷりに言いたくもなるよね?あんなおそろしい6曲の原型が録れていたのだったら!

 

彼らの言葉は、カラ元気でもなければ、強がりでもなかったんだ。単にミュージシャンとしての、フラットで客観的な確信を口にしていただけ、だったんだ。でも、そんな「新しいジャック達」のことを想像する力のなかった私は、ただメソメソしながら去年の5月を過ごしてた。ピートさんが参加する最後のライブとなった「涙の615」が終わっても、私はアタマでは「新生ジャック達のスタート」を理解していたけれど、けっきょく6月も7月も8月も、相変わらずメソメソしてた。

 

私が、彼らの言葉を裏打ちしてた「自信」にやっと追いつけたのは、9月28日に大田譲さんをサポートに迎えた「再起動」ライブを観てから、そして10月22日に配信シングル第一弾の『STRAWBERRY』を聴いてから、だった。スコーンといきなり眼前に青空が広がるように、すべての謎が解ける。「そうか、新生ジャック達ってこういうことだったんだ!!!!」そりゃ自信たっぷりの発言もしたくなるでしょうよ、こんな音携えてるんだったら!!!!

 

 

この1年。ジャック達というバンドはなんという激しい時間を生きたんだろう。あんなにも「この4人であること」に意味があったバンドが、オリジナルメンバーを欠くということは、相当な喪失感だったはず。崩壊までは踏みとどまったとしても、ふつうなら、その踏みとどまった地点にいるだけでもせいいっぱいじゃないかな。ところが彼らは、すぐさま前に向かって全速力で転がりだして、録音をし、再起動ライブをし、信じ難いレベルのメロディと演奏の詰まった空前の音源を次々に出し続けてる。メソメソの海の底にいたファンを、その音で一気に浮かび上がらせ、そのまま大気圏外まで打ち上げるなんて荒技をやってのける。

 

まさか1年後の自分がこんなに高揚した気分でジャック達を見つめてるとは、去年の私は100%考えもしなかった。好きであり続けるだろうとは思ったけど、そのときぼんやり思っていたような、引き算の残りのような「好き」では、それはぜんぜんなかった。もっと、破壊的に、攻撃的に、圧倒的に、今ここにいるジャック達が「好き」!!!!

 

メンバー脱退の報を聞き、なんともいえない寂しさと不安を感じていた去年の私。ライブで演奏される『Unhappy Birthday To You Song』のとんでもなさに、フッ飛ばされ尽くしている今の私。たった1年前、が、とんでもなく遠い日のことに思える。ある種の人間しか経験しえない、不可能に近い加速度のついた時間があって、ファンの私もそれを追わせてもらってる。