月夜のドライブ

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『MOON OVER the ROSEBUD』、そしてこの「バンド」の生々しさよ!

きみのことを少しはわかってるようで、やっぱりぜんぜんわかってなかった。…ってことだけがわかったよ、マイ・プレシャス・ムーンライダーズ。正直言って、「30周年記念」のアルバムは、“一夜限りのパーティー”の彩りだったとしても、まあいいかなって思ってたんだ。ゲストを呼んで、華やかに、ただ楽しく派手に、と。だって、去年の5月にあんな圧倒的なアルバムを出したそのバンドが、そこからたった1年半で出そうとする作品に、どれだけの余力があるんだろうって実のところ思ってたからさ。それは、前作『P.W Babies Paperback』があまりに濃いアルバムだったから、なんだけど。

 

ところが、だよ。自分の不明を恥じるもいいとこ。とんでもないよ、『P.W Babies Paperback』を出した次の年に、こんなアルバムを出してしまうんだ、あのバンドは。なんだろうな、もう、想像を絶してる。『MOON OVER the ROSEBUD』。前作の時も思ったけど、やっぱり、私はこのバンドの「今」に参り続けてるんだ。“30年”という印のついた王冠にじゃなく、彼らの胸の中に“今”咲いている薔薇の花に。

 

このアルバムの魅力、どこからでもいくらでも語れる気がするけど、何よりも今、私はこの「バンドサウンド」の有様にふっ飛ばされてるよ!30年の歴史なんてどうでもいい、アルバム何枚出してきたかなんてこともどうでもいい、ただ単純に2006年の今ここに鳴る「バンドの音」として一発勝負、このバンドにかなうバンド、世の中にどれだけいる? すげーよ、素でカンペキ勝負に勝ってるもん。こんだけの音、誰も出せないでしょう。アイデアとかアレンジとか機材の使い方とかいう各論じゃなく、ただ、「バンド」としてさ。あーもう、ほんと泣ける。まさか、「ムーンライダーズの新譜」としてこんな音が聴けるなんて思ってなかった。

 

とりわけ、かしぶちさんのドラムの迫力とカッコよさに、ハンマーで殴られたようなショック感じてる。「WEATHERMAN」のドラムの凄さ!「馬の背に乗れ」の叩きっぷりの鮮やかさ!「腐った林檎を食う水夫の歌」の音の深さ甘さ!かしぶちドラムにこれほど生々しい感覚をぶちこまれること、私のライダーズ歴の中では初めてかもしれないって思うぐらい。そこに、無敵にして無鉄砲なギターが、いつになく主張するベースが、そして他の楽器が加わって、実際、こんなにもバンドっぽい音、今までのライダーズにあったかな? もちろんあの6人組だから、無知を「勢い」と取り違えトライアルのなさを「無垢」とカンチガイするような、凡庸な「バンドっぽさ」とは遠くかけ離れてるんだけど。

 

アルバムのオビ文には「ネオ・ニューウェイヴ」なんて文字も躍っていて、そういう感触もおおいにあるんだけど、私がアルバムを通じて感じたのは、むしろ60年代終わりごろの「フォーク」っぽさ。たとえば「琥珀色の骨」とか「11月の晴れた午後には」とか、曲そのものにその要素を感じるものもあるけれど(あくまで音楽知らずな私基準ね)、もっともっと、アルバム全体を大きく覆う「野に在る」感じ。30年経ったところで、気付けば、このバンドは居心地のいい温かな部屋にはやっぱりいることができずに、もっとも厳しい野に在った。誰もたどり着けないし、そもそも行こうともしないような荒涼とした場所で、この6人は風に吹かれてる。楽器ひとつ携えて、今と格闘し続けて、さすらう覚悟で。なんて生々しいんだろう。なんて生々しいバンドの姿なんだろう。

 

まだ続く「Scum Party」を背に。本当ならもう、会場のずっと奥にあるソファに深々と座っていてもいい歳だと思うのだけど、ね。人々が笑いさざめくその場所を抜け出して、傷だらけになりながら野へ向かうことを選ぶムーンライダーズ。壮絶すぎて、涙が出る。たまんないよ。こんなバンドの、こんな音。ほんと、とんでもないアルバムを受け取っちゃったな…。

 

(いつものことだけど妄想と抽象が突っ走るね…。いずれ、ひとつひとつの曲から受け取っている感じも書きたいとは思うけど、何しろこのアルバムの質量に対して、言葉がまったく追いつかない…。)

 

*『MOON OVER the ROSEBUD』ムーンライダーズ