月夜のドライブ

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ムーンライダーズ『moonriders LIVE 2020』 @ 中野サンプラザ

8月終わりの無観客配信ライブ『カメラ=万年筆』のラストにて、慶一さんから(ボブ・ディラン「Subterranean Homesick Blues」のミュージックヴィデオばりのフリップ使いで)衝撃的に開催が発表された、10/31の中野サンプラザでのライブ。発表とともに発売された先行チケットにワケもわからないまま申し込んで、お席がご用意されてホッとはしたものの、一時的に落ち着いているコロナ感染の波は正直またいつ高まるとも知れない状況。コロナ禍の中メンバーが元気にリハや本番に集まれるのか…、イベントの自粛が迫られるような事態が再びやってきたりしないのか…、ずっと心配しながら開催を祈るように2か月を過ごしてた。でも、おそらくスタッフのみなさんの限りない尽力もあって、無事この日がやってきた!めでたい!うれしい!ありがたい!いざ、中野へ!

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moonriders LIVE 2020
日時:2020年10月31日(土) 開場17:00/開演18:00
会場:中野サンプラザホール
出演:ムーンライダーズ
(鈴木慶一/岡田徹/武川雅寛/鈴木博文/白井良明/夏秋文尚)
チケット価格(税込)
・プレミアムーンシート(お土産付):14,000円
・一般指定席:8,800円

 

今回、コロナ対策の時間差入場のため、事前に個別の入場時間のお知らせがあった。そのせいか中野サンプラザ前は、4年前に「活動休止の休止」を宣言して開催された『Final Banquet 2016』のときほどまでは長くない列。ディスタンスを保つようスタッフが誘導しながらの入場。中野サンプラザホール、天井高いなぁ…何十メートルあるのかわからない長っがーい緞帳。席はひとつおきの市松配置。話し声などはあまりないものの、客席は静かな高揚感に満ちている。たぶん、ムーンライダーズは特別だから。ここにいる誰にとっても。

 

客入れ音楽に「声を出すことや歌をうたうのは控えて」というコロナならではの場内アナウンスが挟まりつつ、開演時間。ステージ上にセッティングしてある楽器は今までに見たことない配置。真ん中が少し小高くなった山脈のように各自のステージが少し内向きに弧を描きながら一列に並び、下手端にキーボード、上手端にドラムスがある…斬新!黒いユニフォームのスタッフがぞろぞろと現れてカメラや楽器の最後のセッティング…と思いきや、セッティングしているさなかにメンバーが入場してきて、音出しのあとまだスタッフがいる中でかまわず爆音でイントロ弾き始める、「スイマー」!ななななにこのオープニング、かっけーーーー!!!!

 

2曲目の「ダイナマイトとクールガイ」のときだったか、くじらさんと良明さんが客席に手拍子を促してくれた、そのジェスチャーの大きさで早くも感極まって泣きそうに。歓声も上げられない、歌も一緒に歌えない状況だけど、いつも通り、いやいつも以上に楽しもうよ!と呼びかけてくれているようで。「ガラスの虹」はライブでは久しぶりな気がして驚く。くじらさんのヴァイオリン、岡田さんのアコーディオン、みんなの演奏めちゃ元気だ!

 

「こんばんは」と始まったMCで、慶一さんが「ムーンライダーズ、始動しました」と宣言!始動…したんだね、ほんとに!数日前のツイートで、公式ツイが「再始動」と言ったのをわざわざ「始動ですね」と訂正してたぐらいだから、慶一さん、相当な思い入れも覚悟もあるのだと思う。「まあこれが最後の活動かもしれないし」なんてうそぶきながら「みなさんがいる限り我々は生き延びますから」とも、しっかり言ってくれた。泣く!!!!!!!ムーンライダーズがいるなら、私たちも生き延びられる。なんて力のわく未来!

 

良明さんが歌いたいといってセレクトしたという「卒業」、『BYG』に入っている長谷川きよしさんのカバー曲。アルバムでは慶一さんの女々しい歌唱が素晴らしい(ホメてます)ナンバーだけど、この日の良明さんボーカルもとてもよかったなあ。まるで良明さん自身の曲と思えるぐらい、良明さんの繊細な声にピッタリのメロディだった、再発見。「悲しいしらせ」はメランコリックな曲なのにラスト近くの慶一さんの「生きてるのかー!死んでるのかー!」と拡声器でアジるかのようなかけ声に笑っちゃう。この日、この曲に限らずだけど夏秋さんもめっちゃコーラス乗っけてて、メンバーの声と溶け合い大きなホールいっぱいに響く歌声に胸熱…。「ヴァージニティ」も私の記憶では最近のライブで聴いてない不意打ち曲だった。

 

ライブはMC少なめでぐいぐい進む。選曲も演奏も、「始動」の風を帆いっぱいにはらむような新鮮な勢いに満ちていたと思う!70年代、80年代、90年代、00年代、そうそうムーンライダーズってこんなナンバーもあんなナンバーもあったよね!とあらためてその無尽蔵なパワーに驚かされるようなセットリスト。「腐った林檎を食う水夫の歌」は、意外な曲だらけのこの日のセトリの中でも特に驚いたかも。その場ですぐにはタイトル思い出せなくて心の中で『匕首の歌っ…!』って(笑)。“ハジキと匕首どちらか/売りに出しても/サテンと太鼓と果物/手放す事は無い”いい詞だなあ…。この曲はムーンライダーズによるムーンライダーズらしさの高らかな宣言、このバンドの矜持を示す歌だと思ってるので、ますます(勝手に)「始動」を感じてグッとくる。

 

それにしても、「腐った林檎を~」に次ぐ「今すぐ君をぶっとばせ」もくじらさんボーカル、絶好調!もちろん、以前と同じという意味ではなく、以前の声を喪って空いた間隙に、満ちてきた妖しい媚薬を自在に使いこなすかのような凄み。新しい魅力にそれこそ完全に“ぶっとばされる”!夏秋さんのクラッとするようなハイハット、くじらさんのボーカルと激しく交錯する慶一&良明コーラス、艶やかなトランペット、七色に鳴るキーボード、ムーンライダーズというバンドの変幻自在な魅力にムーンライダーズ自身があらためてワクワクしているかのようなみずみずしいサウンド。とってもよかったなあ。

 

博文さんボーカルの「駅は今、朝の中」は、私的クライマックスだったかも…。何万回も言うけど私がムーンライダーズでいちばん好きかもしれないナンバー。何度リピートして聴いたかわからない『ANIMAL INDEX』収録の原型に近いアレンジで演奏され歌われたこの曲に、このバンドに出会って以来のいろんな思いが巡る。そして、サンプラザホールの高っかい天井に響き渡る夏秋さんのドラム、絶品だった。忘れられない音、忘れたくない音。いろんな曲でふとそう思うことがあるけれど、この日この曲でいちばん、夏秋さんのドラムにかしぶちさんが宿ってる、と思ったんだよね。似てる、とかじゃなくて、宿ってる、って。

 

岡田さんのショルキーのフレーズで始まった「Kのトランク」、ひりひりするようなカッコよさ!“I can't live without a rose バラがなくちゃ生きてゆけない”声には出せなくても、みんな心の中で一緒に歌ったさ!これもいつ以来だろ?の「夢ギドラ85’」、良明さんのフォーキーな抒情にほろり…。からの、フラッと始まった「ニットキャップマン外伝」そして「ヤッホーヤッホーナンマイダ」「工場と微笑」、もうキャタピラですべてをどしどし踏みしだいていくような有無を言わせぬ演奏、何これ!?!?まじでアラウンド70のバンドなの!?!?本編ラストの「DON'T TRUST ANYONE OVER 30」では「over 30!」から「50!」「60!」「70!」と、70歳以上を信じるな状態に昇り詰めてて可笑しいやらカッコイイやら。こんな歌うたえるの、世界でムーンライダーズだけだよ…。

 

アンコールの大きな拍手に求められてステージに再登場したメンバー、何をやるのかなと思ったら、くじらさんボーカルで「帰還~ただいま」!!!!それだけでもこみ上げるものがあったのに、あの間奏の部分で、くじらさんに続き、メンバーみんながそれぞれに「ただいま」って言ってくれた!!!!わーーーーん!泣く!!!!待ってたよ、ムーンライダーズを、ムーンライダーズがいて歌って演奏してる世界を。おかえりなさい!!!!!!!もう1曲、バンドのはじめの一歩を確かめるように、ファーストアルバムから「スカンピン」を歌って、メンバーは捌けていった。

 

拍手、拍手、拍手。いつものようなかけ声や歓声は出せないぶん、すべての気持ちを両手に込めて、客席中が力いっぱいのアンコールの拍手をステージに送る。この光景も、コロナ禍の中でのライブのたぶん忘れられない記憶になると思う。ダブルアンコールに出てきてくれた慶一さんも、「こんなに拍手もらえたの初めてです」と。で、大ラス曲、このイントロ…「はい!はい!はい!はい!」だ!わーーーー!なんという!今、この時代に“憲法の中で 銃をさげてはい!”だよ、シビレる…。さっき演奏された「ヤッホーヤッホーナンマイダ」の“謎々だよ どうして戦争やめない”とかわりばんこに歌詞がぐるぐる頭の中をめぐる。政治を音楽に持ち込むなとか世間がガタガタ言うずっと前に、持ち込みまくってるライダーズ。権力だの主流派だのマジョリティだのの言うことなんか知らん顔で44年続けてきて、それで今、現在進行形のこんなにカッコイイアラウンド70が目の前にいる。なんてこった…。

 

はーーーーカッコよかったなムーンライダーズ!!!!!!!音も文句なしによかったし、光と影をを巧みに使ったステージングも素晴らしかった。老獪さと、そして不思議なほどのみずみずしさの両方を携えて、とんでもない強さと優しさでまた前のめりに転がり始めた6人+月で見守ってくれてる1人。この日は客席は歌えなかったけど、くじらさんは「今にまたみんなで声出して歌いましょう」って言ってくれた。慶一さんは「またやりますから来てください」って言ってくれた。「来年はアルバム作りますよ」という宣言もあった。ムーンライダーズ、ほんとに動き始めたんだ。2011年以降、ライブをやることがあっても決して「休止の休止」というフェーズを解かなかった慶一さんが、これだけ何度も「始動」だと言う。「休止の休止」じゃないんだよ、「始動」なんだよ。大違いだよね、ドキドキする!ついていかなきゃ!!!!

 

最後に…。このコロナ禍の中でアラウンド70のムーンライダーズのメンバーが元気で集まってリハをし本番を遂行してくれたこと、大きなホールで滞りなくファンが集まり散れたこと、配信でも多くの人がライブを楽しめたこと。メンバーも、そしてマネージャー様をはじめとしたスタッフのみなさんも、この日までどれだけ気を遣い大変だったかと思う。大感謝です。個人的な話だけれど、私の人生の中で「ムーンライダーズのライブ」ってもっとも「ハレ」のできごとで、チケットを手に楽しみに思う時間とか、何着ていこうかなって考えることとか、終わってからこうして記憶を何度も反芻することとか、そういうことすべて含めて宝物。コロナのせいで今年のムーンライダーズのライブはすべてなくなっちゃうのかなと思ってたけど、8月末に無観客とはいえ素晴らしい企画ライブをしてくれ、今回こうして、困難を前にあきらめずに大きなライブをひとつ形にしてくれた。ムーンライダーズが始動して中野サンプラザでライブが観られた2020年。コロナ禍の中でもこんなことが起きてくれた。ほんとうにありがとう。

 

ブルシットな世の中でへとへとになっても、ムーンライダーズがいれば、元気を出して未来に向かって生きていける。来年は45周年だし、何しろアルバム出るんだから、生き延びなきゃね。またライブで超絶カッコイイムーンライダーズに会えますように!

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【セットリスト】
01. スイマー
02. ダイナマイトとクールガイ
03. ガラスの虹
04. 卒業
05. 悲しいしらせ
06. ヴァージニティ
07. 腐った林檎を食う水夫の歌
08. 今すぐ君をぶっとばせ
09. 駅は今、朝の中
10. Kのトランク
11. 夢ギドラ85’
12. ニットキャップマン外伝
13. ヤッホーヤッホーナンマイダ
14. 工場と微笑
15. DON'T TRUST ANYONE OVER 30

(encore1)
16. 帰還~ただいま
17. スカンピン

(encore2)
18. はい!はい!はい!はい!

 

 後日、私の身近なファンのあいだで「マリーもトンピクレンもくれない埠頭もスカーレットもbeatitudeも入ってないセトリ」と話題だった。それから(私はライブ中は全然気づかなかったけれど)あえてかしぶち曲がないセトリだったことも言われていた。また、これもあとから気づいたけど、(先日アルバム名を冠したライブをしたばかりなのだから演奏しやすいだろうと思われる)カメ万曲も1曲もはいっていない。なんという前傾姿勢で「始動」の気概に満ちたセットリストだったんだろうと思う。ムーンライダーズ、ホントにカッコイイよ…

 

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