月夜のドライブ

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Bunkamura Production 2024『ハザカイキ』 @ THEATER MILANO-Za

(ネタバレあります)

 

丸山隆平さんが出演ということでチケットを取っていた『ハザカイキ』。丸山さんのみならずキャストがとても好きな感じだったので期待して観に行ったのだけれど、正直なところ、あまり自分には合わなかった。単純に好みの問題だと思う。まあせっかく観て感じた個人の感想なので、的外れなところも多いとは思うけれど、こそっと書き残しておこうと思う。4/11(木)マチネーを観劇。

 

Bunkamura Production 2024『ハザカイキ』
作・演出
三浦大輔
出演
丸山隆平勝地涼恒松祐里さとうほなみ、九条ジョー、米村亮太朗横山由依、大空ゆうひ、風間杜夫
日高ボブ美、松澤匠、青山美郷、川綱治加来
日程・会場
3/31(日)~4/22(月) 東京・THEATER MILANO-Za (東急歌舞伎町タワー6階)
S:¥12,000 A:¥9,500(税込・全席指定)
4/27(土)~5/6(月・休) 大阪・森ノ宮ピロティホール

 

 

昨年4月にできたシアターミラノ座。私は初めて入った。駅から近いし、中も見やすい良い劇場だったな。1階後方席だったけれど、想像していたよりはこじんまりとしていて舞台が近い感じがした。丸山隆平さんのお芝居は2022年の『パラダイス』で観て以来。勝地涼さんはKERAさんの『世界は笑う』で、横山由依さんはラサール石井さん演出の『三十郎大活劇』で観ていて、それぞれとてもよくて心に残ってる役者さん。映画館で何度も見た『銀平町シネマブルース』で強い存在感を放っていたさとうほなみさんや、言うまでもないレジェンド風間杜夫さんなど、あまり俳優さんに詳しくない私でも、この組み合わせでどんな芝居が観られるんだろう?と期待が高まるキャスト。

 

アイドルらしからぬ(今や堂々たる役者である彼を舞台で観るときに、“アイドル”という肩書きすら思い出すこともあまりないけれど)「汚れ役」を演じる丸山隆平さん、体当たりの泥臭い芝居に唸らされた。理想を胸の奥に持ちながらも現実にずるずると引きずられざるを得ない人間の弱さやどうしようもなさを、繊細に丁寧に演じていた。たびたび挟み込まれる親友役・勝地涼さんとのやりとりは、ふたりのチャーミングな個性が存分に生きるコミカルさと(あとで理由がわかる)微妙なぎこちなさもあって、とても魅力的なシーンだった。恋人役のさとうほなみさんも、サバサバした個性がこの三人の危なっかしい関係性の中で活きて、役にしっくりはまっていた。

 

芝居のあらすじは読んでいたので、なにか危機なり破綻なりがやってくるのだろうな…と思いながら観ていたのだけれど、(私の感覚では)ちょっと地獄度が足りない感じがしてしまった。丸山隆平さんが以前に主演した赤堀さんの『パラダイス』では、静かなやりとりの裏側で背中がひんやりするような孤独と破滅が進行していてそれが本当に怖かったのだけれど、それに比べると状況的にも心理的にも追い詰められた感じが足りないまま、後半に突入して登場人物が次々に感情を爆発させるので、『あれ…今そこまでひどい状況だっけ』と少し置いてけぼりにあったような気分になってしまった。

 

登場人物が心情を何もかも言葉で説明してしまう芝居のつくりも、私の好みからするとちょっと残念だった。国民的人気タレント橋本香の友人・野口(横山由依さん)がカラオケ屋で鬱屈した気持ちを吐露するシーンも、クライマックスの橋本香(恒松祐里さん)の会見シーンも、感情爆発の長台詞で凄いなあとは思ったけれど、言葉ですべて説明してしまうので芝居のおもしろさがあまり感じられず、いい役者さんなのにもったいないなあと思ってしまった。表向きの会話とは裏腹に進行する心理的な駆け引きとか、そういう行間みたいなものを期待するタイプなので、その好みにはちょっと合わなかったかな…。“言葉”が脚本家の意図するサイズのままで届いてきて、伸び縮みするような意外性がなかったのが、せっかく奥行きのあるキャストを使っているのにもったいないなと思ってしまった。風間杜夫さんと大空ゆうひさんの元夫婦が過去を振り返るスナックでの静かな会話などは、年輪を重ねた役者同士の機微がたっぷり感じられるいいシーンで、ああいうのをもっと観たかったなという思い。

 

時代の移り変わりと謝罪しない人間・する人間、というテーマも、捉え方がややスッキリと記号的に過ぎるように感じた。もっと複雑でカオスであってほしかったなと…。ラストシーンの主人公と恋人の和解も、役者の演技はとてもよいのだけれど、(それまでの地獄度が足りないと感じている私には)やや取ってつけたように思えてしまった。

 

でも、私の了見の狭さと感性の鈍さのせいでうまく受け止められなかっただけなのかもしれないとも思う。複数回観れば理解が深まってまた印象が違うのかも。どんな表現でもなるべく先入観なくオープンマインドで接しようと心がけてはいるのだけれど、せっかくのキャストながら、今回はちょっと脚本と演出が好みに合わなかったかな…。まあいろいろなタイプの演劇があって当然なので、単純に好みの問題。役者さんはみなさん熱演でとてもよかった。映像の挟み込みの巧さはさすがと思ったし、盆の使い方や水を使った演出、群衆の描き方やラストの客席の巻き込み方など、目を見張る部分も多かった。そしてここは大事なところなのだけれど、丸山隆平さんと勝地涼さんは大変カッコよかったです!堂々たる座長ぶりを見せてくれた丸山隆平さん、キャストのみなさん、スタッフのみなさん、ありがとうございました。

 

【2024/04/28記】

 

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【あらすじ】
芸能記者である菅原裕一(丸山隆平)が担当することになった、国民的人気タレントの橋本香(恒松祐里)と人気アーティスト・加藤勇(九条ジョー)の熱愛疑惑。リークしたのは、香の友人・野口裕子横山由依)。
香の父・橋本浩二(風間杜夫)は人気俳優であったが、芸能事務所の社長となり、いまは香のマネージャーの田村修(米村亮太朗)とともにマネージメントをしている。香がまだ幼い頃に、不倫をスクープされ芸能界から姿を消した自身の経験を元に、香にはスキャンダルを起こさないよう諭している。勇のマンションから出てきた香を追い、菅原が入ったスナックには浩二と離婚した香の母・智子(大空ゆうひ)がいた。
菅原には同棲している恋人・鈴木里美(さとうほなみ)と、親友・今井伸二(勝地涼)がいる。菅原は里美との生活に安らぎを得、今井と会うときには仕事の愚痴を話したり、ごく普通に過ごし、そんな生活が今後も続くと信じていたが、実は二人は菅原の仕事を快く思ってはいなかった。
ある日勇がとある不祥事で芸能界を追放され、事態が急変する。勇との熱愛をスクープされた香にも芸能人としての存続の危機が訪れる。
そんな中、香は菅原に対面し、ある難題を投げつける……。