月夜のドライブ

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MONO第50回公演『なるべく派手な服を着る』 @ 吉祥寺シアター

チケットの日付どうしようかなと手帳とにらめっこしているうちに東京公演が始まってしまい、少し仕事の間隙ができた木曜(3/9)の夜に、えいやっと当日券で行ってきた。MONOの公演を観るのは、「隣の芝生も。(2018)」「アユタヤ(2021)」「悪いのは私じゃない(2022)」に続き、4回目。(だけど、他に数回、土田さん作演出のお芝居観たり、映画「それぞれ、たまゆら」を観たりしているので、もっと馴染んでる気が勝手にしている。)

 

MONO第50回公演『なるべく派手な服を着る』
吉祥寺シアター
2023/03/03(金) ~ 2023/03/12(日)
[作・演出]土田英生
[出演]奥村泰彦 水沼 健 金替康博 土田英生 尾方宣久 渡辺啓太 石丸奈菜美 高橋明日香 立川 茜
[スタッフ]
舞台美術:柴田隆弘 照明:吉本有輝子(真昼) 音楽:園田容子 音響:堂岡俊弘
衣裳:大野知英 演出助手:neco(劇団三毛猫座) 演出部:習田歩未 舞台監督:青野守浩 
イラスト:川崎タカオ 宣伝美術:西山榮一(PROPELLER.)、大塚美枝(PROPELLER.)
制作:垣脇純子、豊山佳美、谷口静栄、山田航大
協力:キューブ、リコモーション、radio mono

 

(実は「なるべく派手な服を着る」は、仲良しのお友達におススメされて初演時のDVDを他と合わせ数年前にお借りしているのに、お借りしっぱなしなのだ…。なのに観る機会逸したまま再演を観ることになってしまい、人としてサイテーである…!tちゃんゴメンナサイ近いうちに…!)

 

吉祥寺シアター、ほどよくこじんまりしていていい会場。中に入ると、入り組んだ家の中のセットが。これがもう魅力的!子どもの頃に“こんなおうちがあれば”と想像で描いた家のよう。ここで鬼ごっこしたら楽しいだろうな…などと隅から隅まで眺めているうちに開演時間。

 

席置きリーフレットの配役表を見ただけではよく頭に入ってこなかった人間関係が、観ていると次第にすっとなじんでくる。似てもいないおじさん4人が、四つ子だと言ってベタベタに仲良くしているのが可笑しい。さすがMONOの役者さん、どの人の演技を見ても抜群におもしろいし。

 

でも、最初はおもしろがって観ていたそれら登場人物の人となりやエピソードが、だんだんとザワザワした肌触りに感じられてくる展開が意外だった。兄弟の仲のよさも、「おひおひ」という独特の言葉遣いも、たまり鍋も、長男の威厳も、末っ子の溺愛も、“おふくろの優しさ”も。全員が(客席も含めて)「よきもの」として踏みしめていた確かな土台が、次第に容赦なくひっくり返されたり、壊されていったりする。目の前のドッタンバッタンやオモシロ会話の応酬に笑いながらも、通奏低音のようなザワザワした居心地の悪さが大きくなっていくのは止められない。六男のように、「どうか壊れないで、元のままの仲のよいみんなでいて」と客席の私も願ってはみるものの、ズレや不信感はめいっぱいまでふくれあがり、「家族」は、ばちん!と大きな音を立てて弾け散ってしまう。

 

ところが。壊れてしまったあと、むしろ家族は、どうにかこうにか傷を修復し合って、再びつながりあっていこうとする。それは、彼らが手にしていたと思っていた確かなつながりと比べると、頼りなくてともするとすぐに切れてしまいそうに見えるけれど、頼りないからこそ、「つなごう」とする気持ちは強くなるのかなとも思えた。ぎこちない挨拶を交わしながら再び集う長男と次男、「大臣としもべ」であることをやめた四男と妻、関係をだいぶ引っかき回したけれどしれっと元のさやに収まっているらしい次男の妻、なんとはなしにこの家に居ついている梢。それぞれのへこたれなさに、なぜだかとても勇気づけられる。そして、ずっと存在感がないと無視し続けられてきた五男が、ここにきて初めて「そこにいた」とみんなに気づかれるくだりは、心揺さぶられるものだった。五男にとって嬉しいことだったというだけじゃなく、兄弟みんなにとって、見えない呪縛(“じゅばく”!)から解き放たれたことを意味していたと思えるからかな。

 

扱っていたのはけっこう重いテーマだと思うのだけれど、それをあんなに可笑しみたっぷりに、軽やかに描く筆致はさすがの土田さんだ。タイトルからもフォーカスされるのは五男の一二三で、尾方さんのせつなく寂しげな、でもどことなくユーモラスな存在感がじつにじつに素晴らしいのだけれど、それだけでなく、9人のどの登場人物の(一風変わった)人生にも、それぞれスポットライトが当たってぐっと引き込まれる感じがあった。みんなクセがあって自分勝手で小さなルールやプライドにとらわれている俗物なのだけど、誰ひとり憎めない。

 

初演でも演じているオリジナルの5人はもちろんのこと、若手の4人(石丸さん、高橋さん、立川さん、渡辺さん)も、もうオールドメンバーに引けを取らない存在感だと思った。私の浅いMONO歴の中でも、最初の頃は「若手メンバー」というカタマリで芝居にぶつかっていってるような印象だったのが、今は「今回は高橋さんどんな役だろう」「石丸さんどんな演技見せてくれるのかな」「立川さんいつもと印象が違う!」「渡辺さん今回はこういう感じか!」などなど…、一人ひとりの芝居が楽しみになっているもの。

 

私が最近観ている土田さんのお芝居とは少し違う感触(イイ意味で“過剰”な感じや“余計”な感じ)があったのは、やはり10年以上前に書かれた脚本だからなのかな?それも含めて、とてもおもしろかった。劇団のお芝居というのはいいよなーともしみじみ思う。ありがとうございました!