月夜のドライブ

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moonriders アンコールLIVE マニア・マニエラ+青空百景 @ 恵比寿 The Garden Hall

昨年のクリスマス――moonridersがニューアルバム発売と野音ライブを告知し『生涯バンド宣言』までしてファンを歓喜させた恵比寿のライブ――からちょうど1年。あの日がまるで遠い遠い過去の記憶のように思えるのは、明けて2022年のムーンライダーズの活動が、あまりに濃く密だったから。(発売日の延期により順番は逆になったけど)日比谷野音でのライブ、新譜『It's the moooonriders』の発売、雑誌やラジオや店頭を行き来しての怒涛のプロモ活動、ビルボードでの『マニア・マニエラ Special Live』、白井良明さんプロ生活50周年ライブ、大阪でのライブ&トークショー昭和女子大学人見記念講堂でのレコ発ライブ、その他イベント諸々、それに加えてマニア・マニエラのアナログ再発なんかもあったりして、今どきこんな密度で活動してるバンドあるか?ってぐらいのとんでもない活動量をこなし、そして2022年のラストに行き着いた恵比寿ガーデンホール。通常のクリスマスライブなのかと思いきやまたしてもそうは問屋がおろさなくって、『マニア・マニエラ』ともうひとつの40周年アルバム『青空百景』、このジャパニーズポップの金字塔2枚を掲げたスペシャルライブになると。スペシャルにもほどがあるだろ!とツッコみつつ、チケ購入できたラッキーに震えつつ(早々にソールドアウトだったそう)、いざ、恵比寿へ!

 

moonriders アンコールLIVE マニア・マニエラ+青空百景
2022/12/25(日)
恵比寿 The Garden Hall
開場17:00 開演18:00
チケット料金(税込):
プレミアムーンシート(お土産付)¥14,800 / 指定¥8,800
moonriders鈴木慶一武川雅寛白井良明鈴木博文岡田徹、夏秋文尚)、澤部渡佐藤優介、Open Reel Ensemble、矢口博康、四家卯大、志賀恵子

 

 

今回、私は席の前後運には恵まれてかなり前方だったけど左右運には恵まれずだいぶ端。x軸y軸難しい。すでに楽器がセッティングされているステージを見上げると、メンバーの位置が通常とだいぶ違う配置のよう!客入れ時にスピーカーから流れていたのは何かのリハ時のような音声。慶一さんの後日ツイートによると、81~82年「マニア・マニエラ」録音時のスタジオでの会話などだったらしい。コンセプチュアルぅ!

 

開演時間になりステージを見つめていたら、客席がざわついて、後方振り向くと慶一さんが客席側でギター一本抱えて「鬼火」。これもじつは当時の青空百景ライブのオープニングをなぞった演出だったそう。はーかっこよ!一方ステージには良明さんとオープンリールアンサンブルの3人が現れて、謎サウンドがスパークし始める。Open Reel Ensembleという集団が今回のライブに参加することはリハの様子を知らせる公式SNSで事前に知っていたのだけれど、その名前の印象から勝手に『スノッブテクノ系の若者なのかな~』ぐらいにしか思わずあまり興味ひかれてなかった。ところが!この3人の!ブッ飛ぶオモシロカッコよさ!ステージにバーンと設置された装置の大仰さといい、3人が揃いのおしゃれユニフォームで背中合わせで立つ姿といい、ピッカピカの銀と赤のオープンリールに全身全霊を傾ける演奏スタイルといい、ナニナニナニ、ナンナノコレ!良明さん操るギタギドラとオープンリールアンサンブルの、カッコよさバカバカしさ崇高さが、時を一気に超えて結びつくさまが凄かった。ステージ上にタイムマシーンとどこでもドアあると思った。「マニア・マニエラ」ってこういうことだよな!というスピリットを(まだ1曲も演奏してないのに)まざまざと見せつけられて身震いするような、衝撃的なオープニング。

 

良明さんとオープンリールアンサンブルのウニョウニョピヨンピヨンいう音をバックにメンバーが次々にイン。大きく前後2段になっていて、後列は下手から優介、夏秋、良明、くじら、慶一。(慶一さんが後段端っこという斬新な位置取り!)前列は下手から岡田、澤部、博文、オープンリールアンサンブル、そして(私からはよく見えなかったけど)その向こうにsaxの矢口さん(あとからチェロの四家さんとヴィオラの志賀さんも)。moonriders6人と優介・澤部は全身白の衣装。スタンドカラーのロングジャケットで博士っぽい良明さん。帽子もかぶってパン工場的なカワイさの澤部さん。そして確実に前回よりも元気な様子の岡田さんに大拍手!

 

もうどこからどの音が出てるのか判然としないジャンクなSEだらけの中、夏秋さんのカウントが入って「Kのトランク」。かっこよーーー!オープンリールアンサンブルのパフォーマンスが派手オモシロくてついつい目を奪われてしまう。「花咲く乙女よ穴を掘れ」からは(たしか)弦も入って、総勢14名で奏でる隙のない異種ポップオーケストラ。そしてこの日ずっと観る側の目と耳が足りない。

 

今回、相変わらずのコロナ禍でオーディエンスの声出しに制限のある中、良明さんが事前にこんなツイートをしてくれていた。

白井良明
@guitar_bancho
12/25のLIVEを始めましょう
○=掃除、モップ、履く
△=バケツを叩く CLAPする
□=スマホのライトを点灯(機内モードでね)
✖=スローモーションで動く(感じる)
午前0:37 2022年12月20日

そう、声以外でなんとか私たちを楽しませてくれようという趣旨!当日は曲によって良明さんが記号の描かれたボードを高々と掲げて指示してくれて、私たちは拍手したり、ミニバケツ持ってきてる人は叩いたり、ムーブしたり。途中で口笛とともに「○」のボードが掲げられると、慶一さんがモップ片手にステージ前方に出てきて掃除しまくるパフォーマンス。そしてモップを掲げて謎コトバを流暢にしゃべる(なんであんなにじょうずなの)!シアトリカルな演出がこんなにも似合う、つくづくムーンライダーズってやつは!

 

弦が厚い「檸檬の季節」、重く研ぎ澄まされて美しかったなあ。そしてオープンリールアンサンブルはずっとオモシロくて私はゲラゲラ笑ってたんだけど、「気球と通信」でのチャーミングでクレイジーな“通信”ぶりを見ていたら、ジンとしてしまってちょっと泣いた。マニエラ録音当時の若い自分たちを彷彿とさせるミュージシャン集団にこんな超絶ユニークな演奏されて、かしぶちさん絶対喜んでるじゃん!って思って。

 

今回私は、目を上げると岡田さん、という位置だったのだけど、本当にメキメキと元気になっている様子が伝わってきたのも嬉しかった。キーボードのあとアコーディオンに、さらに次の曲でショルキーに、とサポートを受けながら頻繁に楽器を持ち替えてたり、歌を口ずさみながら鍵盤を弾く姿も足でリズムをとる様子もたくさん見られて。「バースディ」なんかも、やっぱり岡田さんのアコーディオンの音色が響きわたると、とたんに掛け値なしのムーンライダーズサウンドになるもんね。

 

「工場と微笑」「ばらと廃物」とソリッドな演奏で駆け抜けていき、「滑車と振子」はいっそうの混沌へ。つい数カ月前のライブで『マニア・マニエラ』の全曲演奏は聴いているし、もとより曲順もわかってるのだけど、楽器も増えて編成も変わっている今日は、イントロ聴くたびに『えーと、これ何だっけ?』と思うぐらいには何もかもが7月とも違ってた。

 

そしてやっぱり前半のハイライトは、ジャンクな音だらけの「温和な労働者と便利な発電所」だったのでは!もーありとあらゆる場所から出所不明のノイズやSEが聴こえてきて、混沌の中「立て!」からの「Jobless Jobless」がカッコよすぎるんよ!!!!オープンリールアンサンブルがライトセーバーみたいの振り回してたのこの曲だったかな? ライブ前は彼らのこと頭脳系ミュージシャンなのかと思ってたけど、演奏見たらすごいアナログだったし土着を感じたし途中何かを一心に祀っている神事のようにも見えてきて、マニア・マニエラ(とりわけ、2022人力Ver)にめっちゃマッチしてた。ムーンライダーズと年齢を超えた同級生感!(あそこのステージにいる人たち全員、自分の楽器放り出してオープンリールの操作したそうだもの 笑)

 

ライブの定番曲「スカーレットの誓い」も、この『マニア・マニエラ』のラストとして、一度個別の人力の演奏に解体され統合されていくのを目の当たりにしながら聴くと、あらためて奇跡的と思う。(どの曲もだけど)この詞、このメロディ、このリズム、この楽器やコンピュータの一音一音、一人ひとりのボーカルとコーラス、無数の集積が起こすミラクルのうえで私たちはヤーヤーヤーと盛り上がってるのだ。

 

いったん全員捌けて客電落ち、ハエの羽音のようなエフェクトだけ残り会場をわんわん巻き込んでいく。と思ったらメンバーが戻ってきた!わーわーみんなお着替えして『青空百景』ファッションに身を包んでる!中でも優介さん登場した瞬間、観客全員のハートがズキュン!と射抜かれる音した。サスペンダー付きの半ズボンにチロリアンハット、かわいすぎるやろ!大盛り上がり&大拍手。そしてハエぐるぐるのSEのまま「僕はスーパーフライ」。わーーーーほんとに『青空百景』ライブなのだな~。個人的にこのアルバムがムーンライダーズとのリアルタイム邂逅なので(本ハマリはもっとあとだけど)重ね重ね感慨深い。

 

そして…こぼれだしたピアノの音の、なんて美しかったことか。岡田徹さんによる「青空のマリー」のイントロ。7月のマニア・マニエラライブのラストで1曲だけ披露してくれたあのときより、格段に力強く、確かな指使いで。地道なリハビリが岡田さんをここまで連れてきたのだろう。その素晴らしい演奏に客席中から大きな拍手。本当にすごいことだと思う、バンド最高齢の岡田さんがここまで体調を戻してくるって。どうかムリなく、でもこんな様子見てるとメキメキさらなる快復を期待しちゃうなー!大病したことさえ忘れそうになるぐらいの最近のくじらさんの元気っぷりといい、スゴイよホント。

 

スーパーフライ、マリー、トンピ、くれない埠頭、ライブの定番曲も多くてやっぱり王道ポップなアルバムなんだなーと思うけれど、でも「霧の10㎡」とか「アケガラス」とか、ライブで聴くのいつぶりだろ?と思う曲たちが演奏されると、強い光と背中合わせの影の濃さも見えてきたり。「霧の10㎡」とか、ちょっとアマチュア・アカデミーっぽさも感じたな。「真夜中の玉子」のスリリングな演奏も早口ボーカルも最高だった!しかしこの疾走ぶり、ホントにアラウンド70のバンドなんだろうか!?

 

ジャグバンドばりにバケツやら何やらをカンカンカン!と勢いよく「トンピクレンッ子」。夏秋さんのドラムセットには最初から銀色のバケツがセットされてて、バケツってあんないい音するんだ?ってびっくりするぐらいの楽器っぷりだった(さすが本職叩く人)!くじらさんもこの曲だったかバケツかぶってポコポコ叩いてたな? 客席も声出しはできないものの拍手と手振りでノリノリ!楽しかったぞー。

 

「二十世紀鋼鉄の男」大好きー。みんな大好きだよね。「アイアン」と「ワックス」でてつろう(たしか偶然に…だった記憶)なんだよなーと思いつつ聴く。今日もあちこちにかしぶちさん。良明さんのボヘミアン・ラプソディーフレーズがお茶目に火を噴く!私が知ってる限りではライブで聴いた記憶ない「アケガラス」、でも演奏されるとどれもこれもいい曲なんだよな~、ムーンライダーズ名曲の宝庫すぎるだろ。

 

そしてこれもかしぶちさんが住んでる「O・K、パ・ド・ドゥ」。わーん、ナマで聴けて嬉しい。思い入れありすぎる曲。良明さんと澤部さんの声が入れ替わりながらの「ラ・ラ・ラ・ラ…」もとっても素敵だったし、おもちゃみたいな音もジャンクなブレイクも可愛らしい、無骨な男たちの不器用なユニゾンで歌われるかしぶち詞が甘酸っぱくてたまらなくいい。「南十字星」とか「北斗七星」とかね。(余談になるけど、2011年12月の“Ciao!”ライブ大阪で、開演前のゲリラ演奏、私はたまたまかしぶちさんがすぐそばに出てきてくれて、この曲を弾き語りで聴かせてくれたんだよ…宝物のような記憶。)

 

イントロが始まった瞬間「何の曲だろ?」と驚かされた、弦始まりのクラシカルな「物は壊れる~」、とってもカッコよかった。メロディを自由に縁取っていくような良明さんのJazzyなギターもうっとり。いつの時代のいかなる曲にもヴィヴィッドな命を吹き込まずにはいられないバンド。

 

ラスト「くれない埠頭」の前にも、口笛とともに「□」の指示のボードが。会場中がスマホのライトを点灯。ステージ上のメンバーも演奏の合間に自分のライトを点けて左右に振ってる。ライブ後、SNSにアップされたステージ側からの写真、とってもきれいだった。満天の星が埋め尽くす夜空のような、海ホタルが発光する夜の海のような。特にクリスマスって単語は出ないライブだったけど、ここに参加できた体験自体、ファンがムーンライダーズからもらったクリスマスプレゼントみたいだ。

 

鳴り止まぬ拍手の中、戻ってきてくれたメンバー。アンコールに慶一さんが歌い出したのは「鬼火」。今日の最初の弾き語りを歌い継ぐように、バンドの豊かな音で。ラストはだんだん自由にばらけていき、激しいインプロビゼーションへと突入して終わり。

 

 

そのあとのMCで、なんと6月にスタジオで録ったインプロ演奏のアルバムが来年出るとの告知!また意外な!いつも予想のずっと先に行くムーンライダーズ凄いな!そして慶一さんが一人ひとりメンバー紹介をして(「ドラム、かしぶち哲郎」という紹介があり夏秋さんがスティックを掲げる場面も)、岡田さんの元気な声も聴けてみんなでニコニコ拍手して、また来年!

 

はー楽しかったー!書ききれていないことも多いけど、とにかくムーンライダーズというバンドの止まぬ前傾姿勢につくづくびっくりさせられたライブだった。ここにきてまだ守りに入らず、オープンリールアンサンブルという新たなエレメントに目をキラキラさせ、バンドが自分たち自身にも予想のつかない何者かに変身することを大いに楽しんでる。アラウンド70とは信じがたい2022年の活発なムーヴメントを超えて、2023年さらにオモシロイ企てに身を投じていきそうな勢い。

 

あと書いておきたいのは、この日のライブのPAは(7月のビルボードに引き続き)Dub Master Xさんがつとめたそうで、素晴らしい音だった。ビルボードの時をさらに上回って人数も音数も曲数もそして変な楽器も多かったのに、隅々まで(私の頼りない耳でも)きっれーに聞こえて超わくわくしたもん。慶一さんいわく「今回のライブに来れなかった人もたくさんいるそうなので(チケが手に入らなかった人もいるし、私の友人のようにコロナ禍の拡大で泣く泣く遠征をあきらめた人もいる)、また来年『マニア・マニエラ+青空百景』ライブのリベンジもあるかも」と。ぜひ開催してほしいし、そのときもDubさんのPAだといいなー、と(贅沢な願いなのを承知で)願っておこう!

 

政府の無策でみるみるコロナ禍が拡大していたこの冬、大所帯参加のライブをスケジュール押さえからリハから本番まで無事遂行するのに、スタッフのみなさんとマネ様どれだけ神経をとがらせただろうと思う。ミュージシャンとスタッフのみなさんのそうした尽力のおかげで、私たちファンにとって忘れがたい素敵なクリスマスに。本当にありがとうございました&また来年もよろしくお願いします☆


<セットリスト>
01.鬼火(慶一弾き語り)
02.Kのトランク
03.花咲く乙女よ穴を掘れ
04.檸檬の季節
05.気球と通信
06.バースディ
07.工場と微笑
08.ばらと廃物
09.滑車と振子
10.温和な労働者と便利な発電所
11.スカーレットの誓い
12.僕はスーパーフライ
13.青空のマリー
14.霧の10m2
15.真夜中の玉子
16.トンピクレンッ子
17.二十世紀鋼鉄の男
18.アケガラス
19.O・K、パ・ド・ドゥ
20.物は壊れる、人は死ぬ 三つ数えて、眼をつぶれ
21.くれない埠頭
(encore)
22.鬼火