月夜のドライブ

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レムスイム『アンダースロウ・ブルース』

画像聴けば聴くほど、その音の気さくさに魅かれちゃってる。5月のはじめに出た、レムスイムの『アンダースロウ・ブルース』。「気さく」って、言うのは簡単だけど、表現として着地するのは実は難しいんだろうと思うのに。だってアルバムを作りましょなんてことになったら、嫌でもびっちり気合入りまくって、気さくさなんてどこかにいっちゃいそうだものね、ふつうは。これ、ひとえにレムスイムの、特に大久保由希さんのキャラクターによるものなんだろうな。アルバムを聴いているだけで、まるで由希さんの友だちになったような感覚に(勝手に)陥って、もし道で会ったら「どうも!」なんて声をかけてしまいそう。女性アーティストの音でこんな気分になることって、私の場合ホントに珍しい。

 

昨年、福岡史朗&BOXCOXというアーティストの、最高にオーソドックスで最高に新しい「00年代型ジャパニーズ・ブルース」とでも言うべきに出合い、かつ耳なじんじゃった私には、福岡さんがアレンジや録音で深くかかわっているこのレムスイムの世界も、気持ちよくすんなり入っていけちゃった。でも、ふと、ここにある音って実は、この国の界隈では相当珍しい音楽なんじゃないかな、とも思ったり。隙を見せまいとばかりにあらゆる空間に音を詰め込んであるのが当たり前のポップスに比べたら、レムスイムの音は、驚くぐらいあっさりしてる。でもこの音数こそが、由希さんのカラダの中のブルースが求める必然なんだろうな、って。ひとつひとつの音が、何気なく、しっくりとそこにある。

 

全11曲、驚くべきは、ギタリストでもありドラマーでもあり管楽器プレイヤーでもあるという彼女の、“内側からやってくる”リズムの存在感。外じゃなくて、内にあるんだよね。popholicさんが由希さんについて「細野サンの孫娘」という秀逸なキャッチフレーズを開発してたけど、この、ユーモアをたっぷり含んだリズム感は、まさに! そう思いながら「体内時計」なんかに耳を傾けると、はっぴいえんどにも聴こえちゃうもの。『ゆでめん』に入っていてもおかしくない感じ。

 

こんな曲レムスイムにしか作れないだろうって思う、小気味いい「I Hate Dogs」や「OLマフィア」もいいんだけど、私が好きな曲は、まずは「バーチャル博士くん」。ライオン・メリィさんのピアノと松本健一さんのサックスがなぞる旋律が、すごくユーモラスで、それでいてどっかキュンとする感じ。由希さん自身の曲解説によると、これは、メリィさんのアドリブにあとから松本さんが同じメロをたどってかぶせた録音なんだって、すげー!「OLマフィア」で聴けるメリィさんのピアノもリスナー必殺で、今さら言うまでもないけど、もうなんてプレイヤーなんだろう。去年のジャック達といい福岡史朗&BOXCOXといい、メリィさんのプレイあるところにリスナーの涙アリ、ですよ…。「バーチャル博士くん」は詞も大好き。こんなキュートなセリフをさらっとこぼせる由希さんって、羨ましいぐらいカッコイイ。

 

次の「東京タワー」もさりげなくいい。福岡史朗さんのスティールギターの響きが気持ちよくって、あれここどこだっけ、って。見上げれば東京タワーなんだけど(笑)。由希さんのドラムが、ついニヤニヤしちゃうようなイカシた音してる!たぶん、由希さんってこういう人なんだろうなーって想像できるようなおおらかな音。それは、ギターもそうなんだよね。

 

それから、なんといっても私がやられちゃったのが、「花と君」。聴いているあいだ中、「覚えのあるこの感覚、なんだろう」って思っていたのだけど、そう。例えば、ゴーフィン&キング・ソングブックを聴いているときのような感覚。ただひたすら美しいメロディ。ただひたすら美しい曲。この感覚に、リアルタイムで出合える瞬間があるなんて、本当にうれしい。

 

ここから先は私の個人的なつぶやきなんだけど。昔、自分が書いた文章を(だったか私自身をだったか)、「いかにも男の子になりたいと憧れてる女の子って感じ」と(もちろん揶揄をこめて)評されたことがあって、そうですねと頷くしかなかったんだけど、大久保由希さんのように「男の子になりたいと憧れながら、ちゃんと、堂々と女の子でいる」って人には、なかなかお目にかかれないんだよね。そこが、ホントにカッコイイ。あ、男の子になりたい云々は私の勝手な比喩ですが。

 

うん、やっぱり、道で会ったら「どうも!」って声をかけちゃいそうだな。

 

Here are ステキ文章!

けすいけさんの『アンダースロウ・ブルース』

popholicさんの『アンダースロウ・ブルース』

あやさんの『アンダースロウ・ブルース』

 

*レムスイム『アンダースロウ・ブルース』