月夜のドライブ

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キリンジ『DODECAGON』

画像ムーンライダーズの新譜の衝撃があまりに大きくって、前日発売のこのアルバムになかなかたどり着けずにいたのだけれど、聴いてます、キリンジ『DODECAGON』。6月に出たシングル盤は聴いていなかったので、私にとってはほんとに久しぶりのキリンジの音源。

 

はじめ肩すかしなぐらいさらっと聴けてしまったのだけれど、何度も聴くうちにやっぱりわかる、このキリンジという二人組が、みんなと同じ場所にいるように見えて実はこのポップスというグラウンドを人より何十周も多く走って先に行ってるってこと。さらっとした音の奥底に、数多のポップスごっこには到底追いつけない気迫があるんだよね。ポップスに殉ずる気迫が。それは、やっぱり、聴き手には伝わるんだ。

 

高樹さんが6曲、泰行さんが6曲(ボーナストラック除く)。クレジットを見ると、8割がた自分たちの演奏と打ち込みで仕上げている印象なんだけど、それにもかかわらず、これだけの曲がそれぞれ個性的でまったく似ていないのが相変わらず素晴らしい。たぶん、リスナーのお気に入り曲もバラけてるんじゃないかな。今のところ私が好きなのは「柳のように揺れるネクタイの」「ロープウェイから今日は」「CHANT!!!!」あたり。

 

「柳のように揺れるネクタイの」の詞、ものすごく高樹さんらしくてニヤリとしてしまう。「自分らしく君らしく、と/慰められて浮かぶ魂/安上がりでそいつは結構だ」…ああ、もう好きすぎる。そして、キリンジの歌が私の心をつかむのは、悪態つきながらそれでもどっかでこの世界に希望を持たずにいられない、ギリギリの姿があるからなんだよね。そのちっぽけな希望こそが「ポップス」だと思うから。

 

アメリカン・クラッカー」「鼻紙」「Lullaby」、今回も目眩するほどの美メロ尽くしの泰行さんの曲の中で、「CHANT!!!!」は毛色が変わっているけれど、実はこれもとっても泰行さんらしいな、なんて思ったり。ゴスペル(曲のテーマも)をエレクトロに仕上げてる斬新さ(amed-recさんのこの素晴らしいレビューにも書かれてます)にびっくりするんだけど、どっかに「むすんでひらいて」に通じるような、プログレ魂感じるんだよね…泰行さんのマイナーサイドというか。いや、ぜんぜんちがうかもしれないけど。この感じすごく好き。

 

あとね、勝手に思いついでにどんどん思いまくるんだけど、このキリンジのアルバム、私には9月に出た青山陽一さんの『DEADLINES』と対になって聴こえるんだよね。特に「ロープウェイから今日は」や「愛しのルーティーン」なんか聴くときに、その思いが強くなる。つまり、メロディの素晴らしさ、ということ。一見なんてことない顔をしてるけど誰にもまねのできないグッドメロディ、それをポップに転ばすとキリンジになって、ロックに鳴らすと青山陽一になるような。やっぱり私は、メロディで音楽に惹かれる人間なんだなーとつくづく思う。こんな旋律を生んでくれるアーティストを、リアルタイムでレコ棚に持ててることがほんとにうれしい。

 

さらにもうひとつ。泰行さんの歌が上手くなりすぎてなくてよかった。変な言い方だけど、コレ私にとってはものすごく重要で。もとより「巧さ」に傾くタイプの歌い手ではないと思うけど、不世出の声の持ち主なだけに、ほっとくとすごく上手くなっちゃいそうでね、ちょっと心配してたのだ(個人的に)。でも、「アメリカン・クラッカー」の歌い出しとか、他の曲も、今までよりアクがあってキモチ悪くて(←ワタシ的にはホメ言葉)すごくいいな。

 

“21世紀の吟遊詩人”、このアルバム聴いて、キリンジのそんな印象が強くなったよ。チャンピオンの座をのぼりつめて「大衆」の前で手を振ることよりも、ふらっと渋谷の雑踏や平日の夜のオフィスや2DKのアパートメントにまで歩いていってそのひとりひとりの痛みや傷に向かい合って歌うことを、はっきりとこの2人は選ぶんだなって。もちろん「ポップアイドル」のステッカーも貼られっぱなしでかまわねーやって思ってるだろうけど、たとえ剥がれる可能性があっても、この2人は旅に出ちゃうんだろうな。なんか、そんな凄みと覚悟を勝手に感じた。

 

とりりんのチケ運にあやかりつつ、11月のライブに行けることになってるので、それもすごーく楽しみ。それにしてもキリンジムーンライダーズ、アルバムも同時期発売ならライブも(私の場合)同じ週で、ひとつしかないこのココロ(いや複数あるって噂もあるが)を、どっちにどう傾ければいいのか悩ましいっす…。

 

*『DODECAGON』キリンジ