カムカムミニキーナ、この12月の『鶴人』は、2024年2回目の本公演。今回もおなじみの座・高円寺で。私は初日(12/5)、平日昼(12/11)、東京千穐楽(12/15)、の計3回観劇した。脚本、座組、舞台演出、どれもがすばらしく、カムカムエンタメの現在の最高地点だと思ったなあ…!
(カムカムミニキーナは一番好きな劇団なのに、好きすぎるあまり思いがあふれてしまうのとお芝居全体の壮大さに筆力が追いつかないのとでいつも感想を書きそびれてしまうので、今回はTwitterへの書き込みを中心にまとまりのないままのメモ書きで!)
カムカムミニキーナvol.74
『鶴人(つるじん)』<公演日程>
〇東京公演 2024年12月5日(木)~12月15日(日) @座・高円寺1
〇大阪公演 2024年12月21日(土)~12月22日(日) @近鉄アート館作・演出:松村武
CAST:赤名萌 / 秋山遊楽 / 荒谷清水 / えびねひさよ / 久保田武人 / 曽田昇吾 / 髙木友葉 / 千代田信一 / 夏目れみ / 蜂谷眞未 / 茂手木桜子
梶野春菜 / 亀岡孝洋 / スガ・オロペサ・チヅル / 田原靖子 / 長谷部洋子 / 福久聡吾 / 藤田記子 / 松村武 / 八嶋智人 / 柳瀬めいみ / 山崎樹範



●ビフォアトーク
初日はスペシャルチケット(パンフ&ビフォアトーク付き)を購入していたので、松村武さんのトークから参加。カムカムの芝居は、たとえ背景にある歴史を知らないとしてもじゅうぶん楽しめるけれど、作者である松村さんの話を聞くとグッと解像度が上がる。日本史の素養がほぼゼロの私なので、これから観る芝居が女帝が続いた時代の物語であることを知っただけでも役立った。また、松村さんの着想の発端になったのが、奈良時代の貴族・長屋王の宅地跡から発掘された木簡の中に「鶴用の米を納めた」記録があったことだと聞いてとても興味をそそられる。
ちなみに、ビフォアトークも初日なワケなので時間配分が読めていなかったようで、15分の終了の合図が鳴ったとき「え、まだ全然話せてないんだけど!?」という状態(笑)。10日後の東京千穐楽でもビフォアトークを聞いたけれど、話のダンドリは格段によくなっていたみたい!やはり時間が足りないのには変わりがなかったけど(笑)。
●初日の印象…座組ー!
座組ー!!!!今回の座組最高ではないか!?!?初日を観終わってまず思ったのがそのこと。たぶん今回出演している役者さん誰もが、この座組で半年ぐらいずっと芝居し続けたいと望んでいるのではないかな…そう想像するぐらい素晴らしいメンバーだった。カムカムミニキーナの芝居が客演さんも含めた「全員野球」なのは従前からだけど、今回は特に舞台に上がっている22人の役者さん全員が主人公と思えるような濃厚な人生を生きていて、どの瞬間の誰にも目を奪われた。心に残るシーンや表情あげてったら全員思い浮かぶぐらい。それが22人分×3時間近く、なんて贅沢なのか…。
初日とりわけ驚愕したのは最年長(荒谷清水さん)と最年少(曽田昇吾さん)…!今回の『鶴人』の宣伝チラシは、キャストの掲載順が年齢順でもキャリア順でもない「五十音」順だったのだけれど、その意味が痛烈にわかる舞台だった。最年長の荒谷さんが誰よりも汗だくで暴れまわり、最年少の曽田さんが他を圧倒するほどの堂々とした存在感を見せ、舞台上にいる一人ひとりが「役」の大小と関係のない強い輝きを放っている。このありかたはたぶん松村さんが考える「世の中そのもの」で、そのことがいっそう先鋭化している舞台だと感じた。舞台上の誰を主人公を思うかは観る人によって全然違うお芝居だと思う、観たあとみんなで車座になって語り合いたい…!
それにしても曽田昇吾さん、大型新人にもほどがあるなあ。ベテラン勢に入ってもまったく遜色のない堂々たる存在感、心から驚いた。『ときじく』で感服して以来の赤名萌さんもますます凄みが増していて。おふたりとも島根県の高校演劇の出身とのことで、なんという頼もしさだろうかと嬉しくなる。
●史実VS想像力
今回のお話、平城京の時代八十年前後の史実をもとにしているのだけれど、そこに「鶴の恩返し」など鶴から派生する膨大な想像力の塊をがっちりと絡みつけて、より大きな物語を生起させた松村武戯曲のオリジナリティは凄みを感じるほどだった。とんでもない物語を生み出すものだなあと思う。そしてその物語が役者たちの生身の身体で発想され演じられることで、さらに強度を増し、特異な世界が目の前にありありと存在し得ていた。
呪いのように続く女帝の時代、長屋王が飼っていたらしい鶴の存在、蘇我氏と藤原氏の因縁、藤原不比等の娘で出自があやしいという説もある宮子、遣唐使の玄昉や真備、疫病の蔓延と藤原四兄弟の死、繰り返される遷都、大仏建立、といった史実。そこに、薬草を育て鶴と亀を飼い長寿を研究する「暮園」や、与兵衛と「鶴人」である宮子を中心とする鶴の恩返しの物語、屍女歌人(シカバメカジン)の存在などの、松村さんのとてつもない想像力そして役者たちの創造力がぴったり絡みついて、いまだかつてないような骨太な歴史絵巻ファンタジーが生まれていた。
私は日本史に詳しくないのだけれど、フィクション側に属する登場人物の(…だよね?)そうど、うんず、でなりが、暮園を飛び出して運命をひと巡りした後、それぞれ史実の人物である橘諸兄、真備、玄昉となって、フィクションにも史実にも齟齬のない流れでひとところに集まるの、見たこともない技が美しく決まったような松村さんのウルトラCではないのかしら?宮子が暮園へとさらわれるくだりで、鶴の恩返しのストーリーが現実と絡んで離れなくなる見事さも。史実と想像力のどちらもが一歩もその強さを譲らないまま、壮大なストーリーがイキイキとうねって躍動していることに驚愕してしまった。私などはたぶんその驚きを味わいきれていないほうで、歴史に詳しい人ほど感動を覚え、高揚を感じるのではないかな…と思う。
●キャスト・帝たち
目まぐるしく入れ替わる帝を演じるそれぞれの役者が凄かった。オープニングに登場する八嶋智人さん演じる持統帝は、三千代(藤田紀子さん)との会話や動作の端々こそユーモラスなものの、あとあとまでその強い印象が私たちの脳裏に浮かび、後代の帝への因縁そのもののような存在感だった。(『サナギ』でも私たちを魅了した)独特な存在感を持つ秋山遊楽さんは、その常人離れした浮遊感で、若くして即位した文武帝のあどけなさやはかなさ、若きオビトの邪気の無さを表現して、なんともいえない哀しさを心に残していった。悲壮な決意をもって帝の座を守る元明帝の蜂谷眞未さんは、この歴代の帝を描く芝居の“要”のようでもあったと感じる。誇り高さと哀しさの両方がにじみ出る表情と演技、圧巻だった。その強さが血筋を守りもするけれど、人を追い詰めもする。元明帝から地位を受け継がざるをえなかった氷高(田原靖子さん)の絶望と諦念は痛々しかった。行基のもとでイキイキと自由に生きていた氷高に、追いかけてきた元明帝が嬉々として告げた「私たちと都があなたに寄せてきますから!」というセリフの怖さ、忘れられない。このときの蜂谷さんの、喜びの裏に呪いを秘めたような顔も、田原さんの逃げ場がないと悟る絶望の表情も。優しく聡明な氷高そのもののような田原さん今回も素敵だったし、真面目な役柄なのにトツゼン「氷高だかなんだか」と言い出す突拍子のない感じもいつもながら面白く、さすが田原さん!と思った(笑)。秋山さん演じるかわいらしいオビトが、くるりと八嶋さんに変貌してからの聖武帝、苛立ちをつのらせ刻々と虚ろになり取り憑かれていくのがしんしんと怖かった。(『サナギ』のときも八嶋さんの取り憑かれる芝居は天下一品だったっけ…!)そして、連綿と続く呪われた運命を進んでその身に引き受けるかのような阿倍(髙木友葉さん)の突き抜けた明るさと芯の強さも印象的だった。後半のめまぐるしい流れをぐいぐいと手繰り寄せるかのような長台詞の迫力も!
●キャスト・帝を取り巻く人たち
帝を取り巻く人々の個性と魅力にも心奪われた。オープニングから登場してラストまで、ヴィランとして物語を貫く存在となる不比等と三千代夫妻を演じた亀岡孝洋さんと藤田記子さんが、アクの強さをこれでもかと発揮しまくってて終始すさまじかった。「お互いかなりの中年なのに」(だったかな 笑)色と権力に貪欲なふたりは、ひたすら笑えて逞しくもあり、亀岡さんとプリタさんにハマリ役だったなあ、お見事と言うほかない。そのふたりの娘であるアスカの幼少期から皇后になるまでの長い期間を演じた梶野春菜さんのパワーもすごくて、今回終始吹っ飛ばされるようだった!みんなに愛嬌をふりまく可愛いおバカでありながら、その合間にふと見せるしたたかな表情に両親の血筋を感じてぞっとするような場面が多々。一方の、蘇我氏の正統な血筋を守らんとする長屋王の久保田武人さんとその妻吉備の夏目れみさん、誠実さと悲壮さが胸を打つ存在だった。久保田さんは、今回の松村さんの着想の起点である“長屋王”という大事な存在を演ずるのにふさわしい役者さんだったなあと思える。セリフを発せずとも伝わる誠実さや思慮深さ、それゆえに至る運命の悲しさまで含めてずしんと心に残った。また母や姉にまっすぐ思いをぶつける、夏目れみさんの妹らしい直截さ無垢さもとてもよかった。妹だからこその(吉備本人は気づいていない)自由さと、運命を受け入れるしかなかった姉・氷高の対比も、夏目さんと田原さんの表情や演技からくっきりと浮かぶようで。
●キャスト・暮園と遣唐使船をめぐる人たち
暮園(くれえん、松村さんの振り返りブログで「crane(鶴)」でもあるというダブルミーニングを知り悶える)の三人娘(三人お局?)。不死の研究に仕えていた「職業病」ゆえに寿命が来ても死ねない存在、が結果的に王朝の歴史とフィクションをつなぎ、百年にわたる物語の語り部になる構造、とても巧みだったなあ。この三人を演ずる長谷部洋子さん、茂手木桜子さん、えびねひさよさんの持ち味と力量が、台詞に動きに歌にと爆発していた。ゾンビのような動き(をモノにする身体能力)に驚かされ、歌声と鳴り物使いに魅了され、時間を追うにつれだんだんお局化し図々しくなっていく演技に笑わされた。こういうすぐれたストーリーテラーを兼ねる役者さんを要所要所に複数持てることも、松村演劇の底力だなあと感心する。この舞台の最年長でたぶん唯一の60代、荒谷清水さんの体を張った暴れっぷりは凄かった。なぜだかどこか可愛いらしいのも荒谷さんの魅力。唐から帰ってきた玄昉が、人柱となった地獄のような体験をバタバタと走り回りながら語るの、可愛くて毎回すごく好きだった。そのでなりとともに唐へ渡ることとなったうんず(山崎樹範さん)、カタカナ言葉で相手を煙に巻き、明日は明日の風が吹くとばかりに場当たり的に生きる軽薄な役柄が、つくづくやましげさんの真骨頂!で痛快だったなあ。やましげさんが登場すると重い物語の中にさあっと風の通り道ができるよう。うんずの友人でありながら運命のいたずらで朝廷に入ることになるそうど役の千代田信一さん、ひげ面の偉丈夫が低音のいい声で「お母さん!」と甘えるマザコン仕草、めちゃめちゃ笑った、キモチワルくて(ホメ言葉)終始いい味出してた!
●キャスト・鶴の恩返しのふたり
今回のキーとなる「鶴人」の宮子を演じた赤名萌さん、色白で目元がきりっとして立ち姿がすっと美しく、まさに鶴のようだった。鶴と人の姿とを行き来する中で、捕らわれたときの仕草(鳥のように首を傾げてまわりを見たり、くちばしで毛づくろいしたり)が鶴そのもので、本当に鶴人なのじゃないかと観客も目をぱちぱちさせて見つめてしまう。(しかもこれが、初日よりも中頃さらに千穐楽とどんどん鶴度が増していて、このまま公演を続けたら赤名さんは100%鶴になってしまうのでは?と思うほど!)人であって人ではない不思議な魅力には、そりゃ与兵衛もでなりも軽も鶴司も、心を奪われてしまうよな…と納得してしまう。与兵衛役の弱冠20歳の曽田省吾さんの堂々とした芝居にはひたすら驚くのみ。やましげさんを相手にあんな丁々発止の怒鳴り合いができるなんて、どんな大物なのか!顔も声もいい役者さんで今後が楽しみ。あと、さりげなく披露されるボイパも凄かった!
●キャスト・カムカム精鋭
キャスト全体を陰になり日向になり支える絶対的リリーフエースみたいな福久聡吾さんと柳瀬めいみさんの安心感は半端なかった。聡吾さんの今っぽくない泥臭い存在感は、芝居の要所にカムカムミニキーナらしい、古武道のような重心の低さをもたらしていると思う。めいみさんの今回の役(鶴司)は、ベルばらのアンドレみたいなカッコよさがあった。主君に仕える一途さと、憧れの存在を守り通す勇敢さ。いつになくきりりとオトコマエなめいみさんだった。そして今回とても驚いたスガ・オロペサ・チヅルさん、屍の名のついたダークな歌姫!異界の存在なのか、それとも死そのものなのか、彼女がちらちらとシーンをよぎっては「亀は何匹、鶴は何羽で…鶴亀算~」と迫力のある声で歌うたびに観る者は夢幻をさまよわされる。スガさんの歌がこんなに全面的にフィーチュアされた芝居も初めてなのでは…カムカムミニキーナにまた新たなる武器が実装された感。松村さんはスガさんとともに死の世界から漂ってくる屍楽人としてオープニングから(さっきまでビフォアトークで素の語りをさんざんした後なのにまたすぐ!)滔々と語りおろしてくる、その言葉を聞くのは、するすると落ち続ける滝の水を受けるような心地よさ。一転、マントのような僧衣に身を包み、やたら大きな声のぶっちゃけた関西弁で話す在野の僧侶・行基の姿は、とてもユーモラスでニヤニヤしてしまった。それにしてもいつも脚本と演出で手いっぱいで自分の役の稽古ができていないと直前までこぼしている松村さんが、初日には平気な顔でぴしーっと長台詞を言ってのけるの、どういうメカニズムなのか毎回不思議!
とにかくベテランも若手も一挙手一投足の隅々まで見所だらけで、しかもメインの役柄ではない、モブの演技や小道具の操演のためにもそれと同じかそれ以上の熱量が注ぎこまれ、客演11人と劇団員11人の境目が完全にわからなくなるぐらいに22人全員をぎっちりと表にも裏にも組み込んで演じられるお芝居、そのパワーたるや…!いやーもう客演も含めてのカムカムミニキーナ、この座組、圧巻のひとことだった!
●鶴と人の恋物語
女帝の時代の大きな物語と同時に進む、鶴の宮子をめぐる恋物語も、胸に迫るせつなさがあった。はじめに宮子が与兵衛と夫婦(めおと)となり、うんずやそうどを見て「めいっぱいおもてなししないとね」とけなげに言う姿はとても心温まるシーンだった。…と思っていたのだけれど、さらわれた先での文武帝にも、鶴の研究をしていたでなりにも、長屋王の命で自分を世話する鶴司にも、宮子は「めいっぱいおもてなししないとね」と言うので、『与兵衛と愛を誓ったのに?』とどきりとしてしまう。それは結局私たち人間の尺度であって、宮子にとっての「おもてなし」は千年生き延びるための、命を削ったギリギリの選択なのだと最後にわかってくる。与兵衛もでなりも文武帝も鶴司も宮子の魅力にとらわれ愛と情熱を捧げるけれども、でも誰も鶴を繋ぎとめておくことはできない。“鶴千年”と“人間五十年”のあいだの幸せの形のすれ違いはせつなかった。
●群衆シーン
ほんの一瞬なのだけど、たまらなく好きなシーンがあった。自暴自棄になって暮園で過ごしていた与兵衛が、ふと思い立って町に出かけて市中をさまよう場面。その瞬間、無名の人々としての役者がわっと舞台いっぱいに広がって、観客の眼前にごった返す市場が現れる。客を相手に商いをする者、すれ違いざまに挨拶をしあう者、せっせと荷物を運ぶ者、独り言を言いながらふらふらする者、とりとめない井戸端会議に花を咲かす者。市井の名もなき人々の逞しさ猥雑さにあふれていて、ここにこそ世の中のパワーは宿るんだという松村さんの信念を感じる、とても松村さんらしいシーンだと思った。この場面で与兵衛が宮子を見つけ、見失い、屍女歌人が登場してすぐ次のシーンに移るのだったか。短い時間の一人ひとりの表情や仕草を、毎回つかむような勢いで堪能した。
一瞬の場面でさえも手抜きなくキャストの総力で緻密に立ち上げる、カムカムミニキーナならではのモブシーン、本当に贅沢極まりない。戦場で大勢が死んでいるオープニング、行基の指導のもと人々が土木作業に励む場面(サイド席から観たとき、ここでやましげさんと荒谷さんのコンビが荷物をせーので持ち上げようとしてはやり直す仕草を延々繰り返してたの面白かった 笑)、連携して紙をすく作業シーン、鶴が飛ぶ竹林のシーン、流行り病に人々が倒れる場面、などなど…。長屋王が陥れられて家屋に火を放たれる場面も、弓矢を射る人の動きと赤い布がかがり火から家の壁を包む炎へと変化する一連の流れが脳裏に残る。モブに参加するメンバー全員が(八嶋さんややましげさんといった人気俳優も無論のこと!)瞬時に本役のオーラを消し去って黙々ときびきびと群衆の一人になったり動物の手足になったり植物の支えになったりする有能さ、何度観ても感動するしこれこそがカムカムミニキーナだ!と思う。
●せんとくーん!
お話の後半、心を病んだ聖武帝(八嶋さん)が、呪いを抜け出すために遷都を重ねる場面がある。八嶋さんが「せんとくーん!」と呼ぶと、せんとくんポーズの亀岡さん(藤原仲麻呂)が「ハーイ!」と答えて、全員で太鼓や笛や鉄琴をドンドンピーピーと鳴らしてにぎやかに笑顔で行進する(でも最後方をよたよたと追う大伯母の田原さんは険しい顔で…この細やかな演技がまたすごかった)という、実にバカバカしいシーン。でもこの突き抜けたバカバカしさが、まつりごとというものの空疎さをまさに表していたし、それは私たちが生きるリアルな現在とひと続きで今も何も変わらないな…と感じた。虚ろで禍々しく、しかし人々はその空っぽなどんちゃん騒ぎへの執着をやめられない。奈良の帝たちの時代を見ながら、例えば今起こっている某知事選挙をめぐる権謀術数をありありと思い浮かべたりしていたのは、私だけではなかったのでは。
●小道具
X(Twitter)でさまざまな方の感想文を眺めている中で「好きな小道具」を挙げているポストをお見かけした。好きな小道具!!!!そんなテーマで語れるのカムカムミニキーナぐらいなのでは(笑)!?私も思い浮かべたらキリがないけど、土に還った三千代から生えてくる植物とか(おお~仕込んであったのか!と思った)。長屋王の子どもたちの人形、久保田さんが4人をビュン!と引き寄せてギュッ!と抱きしめる動き好きだった。大きな白い紙をみんなで順に折り大きな折り鶴をつくるのも、チラシのモチーフとも連鎖していて印象的だったなあ。八嶋さんが操作したり鶴司のめいみさんが抱いたり、鶴の人形は全部で何羽いるのかな?と思ったり。ラスト近く、仲麻呂が道鏡を斬っても斬れないシーンで放り投げられる刃の曲がった刀、これだけのための小道具なのかな?とか。一瞬しか出てこない小道具が無数にあって、出したり仕舞ったり持ってきたり持ち去ったり、置き場所と順番と操る人とタイミング、どうやって把握しているんだろうという謎は深まるばかり。全ダンドリがイリュージョン。
●衣装
衣装、素敵だったなあ。衣装をもう一度見るためだけにでも再演してほしいと夢見ちゃう。元明帝や氷高や吉備、色もデザインも少しずつそれぞれの個性が出ていて、ほー…といつまででも眺められた。休憩を挟んで第二部になったときに、暮園の三人の鮮やかだった衣装がモノクロになっていたの、強烈な印象。そこから「そういえば鶴も白黒だ…」「紙と墨も…」と想像力の連鎖が止まらなくなったりもした。宮子の、絶妙に簡素で絶妙に鶴っぽい衣装もよかった、赤名さんにとっても似合ってた。
●紙とカムカム
松村さんはこの『鶴人』の中で、鶴の恩返しで出てくる「機を織る」を「紙を漉く」に翻案している。初日のビフォアトークによると、折り鶴のイメージやこの時代に紙が貴重だったことから「紙」をモチーフのひとつに決めたとのこと。あらためて『紙って元々は木から、生命あるものからできているんだなあ』ということも考えたそう。そして(これもビフォアトークによると)「石の建物を長く使う西洋と違い、日本は木と紙の文化で建物をどんどん建て替えていく。昔(平城京より前の時代)は天皇が変わるたびに住居を変えていた。遷都もそうで、器は変えて中身を保つ、そういう“永遠”のとらえ方なのでは」(超超超大意)ということを言っていた。
松村さんのそうした視点におおいに興奮しながら『鶴人』を観たのだけど、舞台の中でも繰り返された“命あるものを紙に漉いてそれを折り鶴に折ると新たな生命を得て羽ばたいていく”というイメージは、まさに紙や布に命を吹き込んでいくカムカムミニキーナの芝居そのものじゃないか!と、その(当然といえば当然の)符合にハッとしてしまった。松村さんが書いたこの戯曲の中に、なぜカムカムミニキーナが無数の小道具を段ボールや紙を使って作る劇団なのかという問いの答えが全部書いてあるじゃないか…!と。たやすく朽ちてしまう紙を仮の場として、カムカムミニキーナはそこに生命を宿らせ、公演が終われば多くをスクラップして、また次の時が来れば新たな紙に魂を吹き込む。そこに宿る生命が本物であれば、器はなんであっても中身は生きた本物になる、そんなカムカムミニキーナの思想を感じるようでもあるし、また『役者は現(うつつ)を運ぶ器なんだ』という、カムカムの芝居で何回か繰り返されてきているテーマとも(私の中で勝手に)重なり合って、おおお…と心打たれてしまった。
自分たちの芝居に必要なものを自分たちで作るというカムカムミニキーナの小道具使いは、つねづね神事の一部のようだなと思っていたけれど、考えてみれば、熊手や破魔矢やお札を一年の終わりに燃やしてまた新たな年に新たなお守りを飾るという風習も、一時的に「神を紙に」宿らせるふるまいだよね。…などなどと、芝居のあとあとまで思案が止まらない…。
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『鶴人』、何を振り返ってもすばらしかったし面白かったなあ。最初にも書いたけれど、脚本、座組、舞台演出ともに現在のカムカム最高地点ではと思うし、特にこの松村さんがものしたストーリーは、日本人に親しみやすいモチーフで、平易にして(最近のカムカム公演では一番わかりやすかったという声も多数見かけた)めちゃめちゃ面白いので、スタンダードとしてカムカム以外でも上演したらいいのにと思うぐらい。
感想は到底書ききれないので、言い足りないながらこの辺で。それにしても、木簡に書きつけた記録(松村さんによると役人の文書のようなもの)を足がかりのひとつとして、千三百年ぐらいあとの人がこんな壮大なエンターテイメントを創り上げるのだから、記録、残しとくもんだよなあと思う。受け取る人がいるのかわからないバトンを、それでも投げておけば、のちの世にこうして受け取る人もいる。演じて多くの人に伝える営みも生まれ、後世へとつなぐ者も出てくる。「伝える」というなんでもない営為の強さや尊さに、なにか日々を生きる勇気をもらうような気もする。
松村武さん、カムカムミニキーナのみなさん、客演のみなさん、スタッフのみなさん、すばらしいお芝居をありがとうございました!!!!

初日のビフォアトーク後~開演までの、看板俳優・八嶋智人さんと山崎樹範さん、物販部・柳瀬めいみさんによる豪華物販!
【2025/01/07記】


STAFF
美術:中根聡子
音楽:土屋玲子
照明:林之弘(六工房)
照明操作:小野寺純子、秋谷優(六工房)
音響:山下菜津子(NAPSworks)
衣裳:竹内陽子
衣裳進行:和泉みか
舞台監督:赤坂有紀子
舞台監督助手:板敷輝
演出助手:畑田哲大
演出補:藤條学
制作:佐藤恭子
*一般チケット
〇東京公演:5,000円、〇大阪公演:6,000円
*早割チケット
〇東京公演:4,600円 ※早割は右記3ステージ対象。5(木)19:00、6(金)19:00、7(土)18:00。
*スペシャルチケット
8,000円 ※特典付き。劇団のみ取扱い。
*学割チケット
3,600円 ※劇団、座・高円寺チケットボックスで取扱い。当日受付にて学生を確認できる身分証をご提示いただきます。
*シニア割チケット
〇東京公演:4,600円、〇大阪公演:5,600円
※65歳以上対象。劇団のみ取扱い。当日受付にて年齢を確認できる身分証をご提示いただきます。