月夜のドライブ

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荒くれて吠える老齢ロックの衝撃!『It's the moooonriders』(感想文その1)

 

ムーンライダーズ11年ぶりの新譜『It's the moooonriders』。受けとめきれなくってうまく言葉にならないんだけど、そんなこと言ってるといつまでも何も書けないので少しだけ書き留めておこうかな。

 

すっごいアルバムきちゃったな!と。それが最初に聴いて思ったこと。叙情と諧謔と波乱と反逆と。動き続ける、終わらない、荒れ狂う老齢ロック!!!!ヤッバいコレ…!って。発売から2週間経っても、まだその最初の衝撃のまま聴いてる。

 

去年7月のEX THEATER ROPPONGIでのライブで「岸辺のダンス」を、そして本来だったらレコ発になるはずだった今年3月の日比谷野音で「S.A.D.」「Smile」「駄々こね桜、覚醒」を、発売前に披露してくれている。(それ以外に、12月恵比寿のライブで「アルバムにはたぶん入らない」と紹介しつつ新曲「クリスマスの後も」も演奏。)その中でも特に、アルバムが完成しつつあった時期に野音のステージで先行披露された3曲にはただならぬエネルギーを感じて、『どんなアルバムになっちゃってるんだ!?』と期待が高まるばかりだったのだけど、それにしても!実際に目の前に現れた新譜の音はその想像のはるか上だった!

 

1曲めの「monorail」にまず面食らう。「何これ?」という衝撃。「再開発がやってくる、いやいや」も、初聴き「今何が起こってる!?」って感じだった。音の新しさに驚くなんていうレベルを超えて、得体の知れないものに身構えるぐらいの衝撃。「親より偉い子供はいない」や「世間にやな音がしないか」なんかも、どういう発想とプロセスを経ればこんな建て付けになるのかさっぱり想像もつかないし、「駄々こね桜、覚醒」みたいなノリノリのアッパーチューンや「雲と群衆」「三叉路のふたり」のようなポップなナンバーでも、その底知れなさは変わらない。12曲すべてにおいて、詞・メロディ・リズム・歌い方・コーラスの重ね方・楽器の選び方、ありとあらゆる部分が規格外にはみ出していて、通常のロックミュージックのショーケースにとても収まらない。逆にロックを丸呑みしてさらに巨大化している怪物のようだ。

 

その、奇っ怪な曲の中で、老齢ロッカーたちはとにかく吠え狂ってる。今回のアルバムの、なんという「声」の自由さ、猛々しさ。1曲めの「monorail」からして、逆回転で入ってくる声、バラバラに聞こえてくる言葉、いきなりみんなで“歌”の枠を壊しにかかってくる。この曲、インタビューなどで明かされたところでは、元の博文さんのボーカル以外はお互いの声は聞こえない状態で同時に録音したのだそうだけど、声に宿る個性もバラバラなら、声の置き方(歌い方、語り方)も見事にバラバラ、でもこの「バラバラのままひとつになって進む」感じが、まさにムーンライダーズそのものだなとも思えて。バタバタはためく“It's the moooonriders!”の旗を1曲めから突き刺しているような感じもしたのだよね。

 

そこから先も、どの曲もいつもにもましてボーカルやコーラスが入れ代わり立ち代わりしていて、ひとりが普通に歌い切る曲が殆どない。もともと私はメンバーのボーカル回し曲が異様に好きなので、今回、ぜんぶいい!メンバーの声から声へと飛び移る瞬間の意外さや無理や落差が、曲をぎゅんぎゅんドライヴしていく。バラバラな声を切り貼りしたり重ねたり混ぜたりして生まれる混沌や混迷が、さらなる怒涛のグルーヴを呼び寄せる。増加した2つの“oo”のひとつと言われる澤部渡さんや、ゲストボーカルのxiangyuさん、春風亭昇太さん、Daokoさん、声の取り入れ方ったらハングリーですさまじい。大病を経て以前とは違うしわがれ声になったくじらさんのボーカルをも、「2度めの声変わり」とか言って(←この異様にポジティブな表現!!!!)すっかり新しい武器にしてしまっているのには震撼とするしかない!ムーンライダーズ、おそろしい子!

 

音はロックをはみ出し、言葉は歌をはみ出していく。戦略やニーズや世間の空気を考慮して縮んでいく既製品のロックミュージックを脱ぎ捨てて、老齢ロックは自由に駆け回る。遠慮も忖度もせず、言いたいこと役立たないことどうでもいいこと、のびのびと吠えている。2020年の『カメラ=万年筆』の再現ライブの最後に、良明さんが「カメ万の当時よりも自由に演奏できた気がする」と、そして「老齢による自由度だな」と言っていたときから、ムーンライダーズにとっての「老齢」は枯れたり円くなったり整理されたり大人しくなることじゃなく、ますます自由に粗野に混沌と荒れ狂っていくことを意味していたのだなあ、とあらためて思う。

 

あともうひとつ、うまく言えないのだけれど、今回の新譜を聴いて「かしぶちさんがいないんだな」ということが、シンプルにすとんと入ってきた。なんていうのかな…「いなくてもなんとかやっていけそう」という安心感でもなく、「いないから物足りない」という不足感でもなく、ただただシンプルに、そこにある不在は「大きい」んだなって。でも不思議なことだけれど、ムーンライダーズは小さくなった感じがしない。たぶんかしぶちさんの不在という大きな存在を、まる抱えして進んでるからじゃないかと思う。かしぶちさんがいないということも、無理に隠すでもなく過度に寂しがるでもなく、その存在の大きさのまま呑み込んで、ムーンライダーズは進んでいってるように見える。(そして、そうなるまでにはこれだけの時間が必要だったんだとも。)

 

そのことと表裏一体なのかもしれないけれど、最初にこの新譜を一巡り聴いたとき、まぎれもない“夏秋文尚のビート”につらぬかれているアルバムだなとも感じた。かしぶちさんとは別の、でも、はっきりと「ムーンライダーズのドラマー」の。それも、言うのは簡単だけれど45年続くバンドの中でこうして実際に音盤という形にするのは(メンバー全員にとって)とても大変なことだと思うしすごいことだと心打たれる。新譜一枚を通して堂々と2代目ドラマーの音が響く中、「世間にやな音がしないか」のラストでかしぶちさんのドラムのループと夏秋さんのドラムの音が同時に鳴るところは、『Tokyo7』や活動休止前の『Ciao!』のライブでずっと聴いていた、「あの2人」のダブルドラムの音がする。夏秋さんは、2011年のムーンライダーズと2022年のムーンライダーズを自分の手で結びつけて、一気に時間を超えさせたんだなと思う。

 

 

…と、書いても書いてもうまく言えないし書ききれないしまったく追いつかないのだけれど、11年分のいろいろが詰まってるから仕方ないよね。また書こう。

 

 

大切なメンバーを失ったし、声を失った人もいる、レコーディングにフルで来れない人もいる、入院するメンバーが出て発売日を延期せざるをえなかったりもする。それでも、これが俺たちだ、これが老齢ロックだ、これがムーンライダーズだと、強く高らかに宣言するようにリリースされた『It's the moooonriders』!!!!全力で聴く!!!!まだまだ夜明けだ!!!!全力でついていく!!!!

 

新譜発売本当におめでとうございます!!!!