月夜のドライブ

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イデビアン・クルー『義務』 @ 世田谷パブリックシアター

大好きなイデビアン・クルーの公演。金曜日の初日にひとりで、土曜日のソワレに娘と、観てきた。張り切って発売すぐにチケ買ったせいかすごく前めの席、土曜日のほうは最前列だった!

 

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イデビアン・クルー『義務』
2021年3月12日(金)~14日(日)世田谷パブリックシアター
2021年4月9日(金)北九州芸術劇場 中劇場

◇スタッフ・キャスト
振付・演出:井手茂太
出演:斉藤美音子 依田朋子 宮下今日子 福島彩子 後藤海春 酒井幸菜 
小山達也 中村達哉 原田悠 井手茂太

音楽:原摩利彦

照明:齋藤茂男
音響:島猛
衣裳:堂本教子
美術:青木拓也
舞台監督:横尾友広
制作:days 立川真代
制作協力:alfalfa
宣伝美術:秋澤一彰

◇チケット(全席指定・税込)
一般前売:4,500円(当日+500円)

 

イデビアン・クルー、いつもながら最高にカッコよかった!オープニング、ステージを隠していた緞帳がするすると上がり…と思いきや、ほんの少し上がったところでピタッと止まる。地面から数十センチだけ開いたその隙間の奥(何かスリットの入ったカーテンのようなものがひらひらしている)で、何が起こるのか起こらないのか、何が見えるのか見えないのか、固唾をのんで覗き見るというスリリングな数分間…!そんなじりじりするようなオープニングから、緞帳が上がり切ってもまだしばらくは静かな動きが行き来するだけで何も起こらない、まだ起こらない…と思ってるうちに、視界の端では誰かが小さく立ち止まったり、少し飛び出したり、小走りになったり。そうして、気づくと「起こらない」はいつのまにか「起こる」に飲みこまれている。起こらないなんて時間は一瞬もなかったと思い直すほどに、すでに、大いに起こっている。

 

ダンサーは全員で10人で、ステージ上には常に人が入れ替わり立ち替わりしていて、数人の単位から全員揃う場合まで、まとまってはばらけ、大きくなり小さくなり、遅い人がいて速い人がいて、動いていて止まっていて、曲がって伸びて、回っていて跳んでいて、そして、バラバラなくせにあの人とこの人が呼応し、こっちとあっちが重なり、ふと全員が揃う瞬間を迎えたりするのがとんでもないカタルシス!…と思うと、全員の動きの中からまたこぼれる人がいて…。

 

冒頭の、スリットの入ったカーテンのような装置が舞台上を囲んだり区切ったりするのだけれど、左、中、右の3つに区切られてダンサーが数人ずつで踊りまくるパートでは特に、どの人のどの動きもユニークで見逃したくないのに、自分の眼では絶対に足りなくて悔しくなる。受け止めきれないほど同時にいろんなことが起きて、時間ってこれほどまでに密に進行しているんだなと実感する。そしてハッとする、これってじつは「世界」じゃん、と。普段いかに世界を見てないか、見えてないか。

 

イデビアン・クルーは、めちゃめちゃカッコイイんだけど大笑いしちゃうところもいっぱいあって、そのカッコよさと笑いの飛距離の大きさがまたシビレるほどカッコイイ。大好きな斉藤美音子さんの、お節介屋のちょっかい出しみたいなシーン、おっかしかったなー。宮下今日子さんは地球上で一番美しい生き物なんじゃないかと思うぐらいの圧倒的な美しさだった。ランウェイを歩くポーズのキマリ具合とドヤ顔!そしてその宮下さんと福島彩子さんの組み合わせが、まわりを震え上がらせるほどの威圧感で可笑しいったら。後藤海春さんがイケメン詐欺師みたいな中村達哉さんにポーッとなっちゃうモチーフは前にもあった気がして可笑しかわゆい。もう舞台上の全員一人ひとり大好き、すごい、素晴らしい。でもやっぱり井手さんがソロで踊りだすときの「キターーー!」感は何者にも替えがたい。ひとりでおかしさとカッコよさの両極に突き抜けちゃっててズルい…!井手さんと依田さん・宮下さん・福島さんのセットで踊った“CARD”のダンス、お腹抱えて笑ったなー。

 

いつもはあえて普段着の延長だったり、あえてダンシンではない着物や法被だったり、少し外しぎみでくる衣裳が、今回、スタイリッシュな黒一色の衣裳で新鮮!役者それぞれの個性を汲んだと思えるデザイン、生地の素材感の違い、空気のはらみ方やひるがえり方のバリエーション、それぞれの肌の見える分量。黒一色の中で、だからこそ、いろんなことを楽しめる衣裳だった。(斉藤美音子さんの衣裳が、肩の膨らんだちょっとバブル時代感の入ったデザインだったの、おかしかったな…。)

 

心臓の鼓動のようにも、街の雑音のようにも聞こえる音楽とともに、昇りつめるクライマックスのカッコよさ!揃わない個が集まる破壊力、不可解な動きが群れとなる歓喜!そして、カーテンが小さな円を囲い、コクーンのような空間に閉じ込められた人々が輪になって踊るのを外からおぼろげに見るようなラストシーンは、背筋がゾッとするような美しさがあった。

 

 

公演を観た帰り道は、いつもの、何でもかんでもイデビアンの動きに見える現象が!乗り換えの渋谷駅の広い階段に、上向きと下向きの矢印が描かれているのだけれど境目はなく、上から降りてくる人々と下から昇る人々の気持ちと動きのせめぎあいで境目が押し引きして揺らぐ。イデビアン・クルーの動きは、個の気持ちと集団の気持ちの表出で、イデビアンが日常を擁し、日常にイデビアンが潜む。ああ、カッコイイなあ。

 

 

イデビアン・クルーを観ているとき、私はダンスという形を楽しむだけじゃなくて、そこにある、本来なら見えない「時間」と「気持ち」を目にしている気がする。手ではつかめない、保存もできない、でもたしかにそこにある瞬間を飽かず構築し続けるダンサーさんたち、尊敬という言葉じゃ足りないぐらい尊敬してしまう。公演がある限り、また目撃しにいかなくては…。

 

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