月夜のドライブ

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「今」鳴る『Dire Morons TRIBUNE』覚え書き

コロナ禍を受けて日本全国に緊急事態宣言が出されていて(※)、買い物に出る以外はほとんどずっと家にいる。私はもともとインドア度が高い人間なので生活はあまり変わらないけれど、仕事が激減していて時間は余る。こんなときこそステイホーム時間を有効に使って本を読んだり音楽を聴いたりDVDや動画を観たりいくらでもすればよいのだけれど、先の不安が大きいせいもあってなかなかそんな積極的な気分にもなれないまま、朝が来て夜が来てまた朝が来る。まあそんな無為ぎみの日々でも、生きているだけでえらいぞと思うようにはしているけど。

 

Dire Morons TRIBUNE.jpg

そんな日々、不意に私の中で「キタ」音があって、それがムーンライダーズの2001年のアルバム『Dire Morons TRIBUNE』。なぜかこれは、すごくよく聴ける。リピートして聴きまくってる。暗くて重いと評されるアルバムで実際暗くて重くて狂ってるけど、なぜだか今、このアルバムでめちゃくちゃ元気が出る!!!!なぜだろう?

 

2001年。個人的には、生活の変化(就職、結婚、出産)により90年代のほぼ10年間リスナー空白期を続けたあとの、ムーンライダーズ「復帰作」なので(バンドの歴史が長いとファンの側にも「休止期間」とか「復帰作」があるのだ)思い入れが大きいし大大大好きなアルバム。アルバムトータルでの印象が強いせいなのか、あるいは端的に暗くて重い曲が多いからなのか、その後のライブでも個々の曲が取り上げられることが少ないほうのアルバムだと思うけど、でも、間違いなく2000年代の大名盤。

 

インナースリーヴをあらためてひっくり返しながら聴く。9.11の空気を色濃く映したアルバムとは言われるけれど、クレジットに記された各曲のミックス日はだいたい10月中旬であり、事件があってさあ作りましょうと作ったアルバムではないことがわかる。なのに、あの日以来世界に立ち込めた黒雲を鏡写しにしたような、予言めいたアルバムを彼らは作り上げてしまった。

 

慶一曲が、なにしろ暗い!「Blackout」「今日もトラブルが…」「Lovers Chronicles」どれも慶一さんの詞曲なのだけれど、大丈夫かなと19年後の私が心配になるぐらい歌詞が暗くて、でも、とてもよい。「小さめのブラ」と3度も歌う「Lovers Chronicles」の傷つきっぷりとか、凄まじい。博文さん詞曲の「Flags」はこのアルバム中で最も9.11後の現実と直接につながる心底怖いナンバーだし(その“怖さ”の意味は前に書いた)、ラス前曲に至ってはあろうことかタイトルが「棺の中で」だし。

 

かしぶちさん詞曲の「Morons Land」と、このアルバムで数少ないメンバー共作の「天罰の雨」(博文詞、岡田・良明曲)は、『Dire Morons TRIBUNE』というアルバムの背骨をつらぬくリード曲ともいうべき2曲だと思うけれど、どちらもめりめりと地底にめり込んでいくような重さがある。固く険しい巌に閉ざされて陽の光なんか一筋も見えない世界で、この世の終わりのようなヴァイオリンが鳴り、雨のようなドラムとギターが重く降りこめる。

 

でも、そんな陰鬱な曲だらけの『Dire Morons TRIBUNE』だけれど、「Headline」~「We are Funkees」の諧謔でアルバムがスタートし、B面(アナログではないけどたぶん)を「Che なんだかなあ」の悪ふざけでぶち上げ、ラストを「イエローサブマリンがやってくるヤア!ヤア!ヤア!」の突き抜けた明るさで回収して終わるやり口が、とんでもない強さであり希望でもあるなあと思う。その合間に「Bawm Bawm Phenomenon」の無敵の疾走があり、「Curve」のウィット(歌詞は血まみれだけど)があり、「静岡」のお茶タイムがあり、「俺はそんなに馬鹿じゃない」~「涙は俺のもの」の漂泊する奔放がある。なんていうかもう、ムーンライダーズ、そのしたたかさ!

 

「今」このアルバムを聴きたい!と内側からつのってくる「今」は、nowというよりageとかperiodに近いものなのかもと思う。人と人とのリアルなコミュニケーションを断つという、新型コロナウイルスのこれまでにない残酷さが世界を覆っている只中で、ウイルスのもたらす厄災も怖いけれど、コロナそのもの以上にこの病が暴いている世界の狂気が心にこたえてる。

 

店の店員や配達員や医療従事者、ライフラインを担うその人たちが、まるで感染源であるかのように暴言を吐かれることがあるという。狂ってる。コロナの感染者が出た家の家族が、村八分に遭うようなことが起きているという。狂ってる。「自粛を要請」という破綻した言葉で、閉めたら明日から生きようもない中小の店に補償もなしに休業を迫る為政者がいる。狂ってる。一国の政府が、目の前の命を救うことより経済界への配慮を優先して、ろくな対策も打たずに迷走してる。狂ってる。ライブハウスや映画館や劇場や文化に携わるあらゆる職業の人々が瀕死の状態の中、せめてもと音楽家が公開した動画に自身の無策を恥じもしない総理大臣がただ乗りして犬を撫でお茶を飲む姿をさらけだす。狂ってる。

 

『Dire Morons TRIBUNE』に閉じ込められた暗さと重さと狂気が、今、何よりリアルに感じられる、のかもしれない。でもこのアルバムを聴いたあとに手のひらに残るのは、黒雲が立ち込める中でもしたたかに生き延びる!という精神的なふてぶてしさ。効率を旗印に狂気に加担させていこうとする手から逃れて、非効率で優しい孤でいられるかな?道徳的な顔をして世界をひとつに絡めとろうとする黒い空気を蹴っ飛ばして、群れず正しい個でいられるかな?信じられないほど狂った世界でも、生き延びる手立てはあるのかもしれない。きっと、あるよね?

 

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上に書きそびれちゃったこと追記。何度も言うけどこのアルバム、かしぶちさんのドラムがすごくいいんだよね。網羅的分析的に聴いている熱心なファンじゃないから断言はできないけど、いちばんいいんじゃないかな(断言)。「Bawm Bawm Phenomenon」はこれぞかしぶちドラム!という魅力にあふれてると思うし、「天罰の雨」のドラムはただひたすらに絶品。ああ、かしぶちさん!!!!

 

あと、これも何度も書くけど、2001年末のこのアルバムの渋公ライブ(私の、リスナー長期休業後のムーンライダーズ「復帰」ライブだった)で披露された「イエローサブマリンがやってくるヤア!ヤア!ヤア!」…体調不良でライブをお休みした岡田徹さんのために、5人がこのトラックをバックにジャニーズばりに前に出て踊った衝撃…が、忘れられない。あれは感動したなあ。このときのライブ、岡田さん無しでどう演ってたんだろ?ということも含めて(私にとっては本当に久しぶりのムーンライダーズのライブだったので記憶がぼんやりしている)、切にもう一度観てみたい…。記録用映像でもかまわないから、リリースしてほしいな…。(そうだ、2010年末のAXのライブでも「イエローサブマリンがやってくるヤア!ヤア!ヤア!」をラストで演って、6人で踊ってるよね(夏秋さんはひとりドラム叩いて、キメの振りだけつけてた)。あのライブはCDにはなってるけど、映像が観たい…やっぱり、生き延びなければ…!)

 

ムーンライダーズの2000年代のアルバムはとにかく最高なので、他のもあらためてどっぷり聴こうかな、とちょっと前向きに。ムーンライダーズがいれば、どんな世の中でもきっと生き延びられるさ。

 

 

 

※【メモ】

 

安倍首相が緊急事態宣言 7都府県対象 効力5月6日まで

2020年4月7日 18時48分

新型コロナウイルスの感染が都市部で急速に拡大している事態を受けて、安倍総理大臣は、政府の対策本部で、東京など7都府県を対象に、法律に基づく「緊急事態宣言」を行いました。宣言の効力は来月6日までで、東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡が対象となります。

NHKニュースより冒頭部分のみ抜粋)

 

 

「緊急事態宣言」全国拡大「特定警戒」13都道府県 新型コロナ

2020年4月17日 6時44分

新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく「緊急事態宣言」について、政府は16日夜に開いた対策本部で、東京など7つの都府県以外でも感染が広がっていることから、来月6日までの期間、対象地域を全国に拡大することを正式に決めました。16日夜、官報の号外に記載され、効力が生じました。

NHKニュースより冒頭部分のみ抜粋)