月夜のドライブ

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こまっちゃクレズマ 『神秘の昼下がり その1』 @ 新宿PIT INN

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新宿ピットインでこまっちゃクレズマ。清志郎さんを亡くしたばかりの梅津和時さんがどんなに沈痛な心持ちでいるだろうと、ライブ前はやはりそのことが気になって仕方なかったのだけれど、開演してお客の前に姿を見せた梅津さんは(少なくともステージ上では)、いつもどおり飄々として、ユーモラスで、ほがらかで、清志郎さんのこともジョークまじりに話してくれて、逆にこっちが元気をもらっちゃった。音楽でなんとかすべてを越えていくしかないし、越えていく。それがミュージシャンなんだね…。その強さに打たれる。

 

『神秘の昼下がり09~こまっちゃクレズマ大特集』
5月5日(火)新宿PIT INN「神秘の昼下がり その1」
こまっちゃクレズマ: 梅津和時(sax,cl)、多田葉子(sax)、松井亜由美(vl)、 関島岳郎(tuba)、夏秋文尚(ds)
guest: ロケットマツ(acc,etc), 早川義夫(p,vo),
14:00開場 14:30開演 ¥3,000(1drink付)

 

このところ活発に活動しているこまっちゃクレズマ、GWは5/2も5/3もライブがあって、1日おいた5/5、6の2日間は、新宿ピットインの昼の部で『神秘の昼下がり』。私は、去年いちど見たロケットマツさん(fromパスカルズ)の演奏がすごくよかった記憶があったのと、早川義夫さんの歌も聴いてみたかったので、1日めのほうに足を運んでみました。

 

最初の数曲は、こまっちゃクレズマ+ロケットマツさんのみの演奏で。2曲めに入るときだったと思うけれど、梅津さんが「みなさんもニュースなどで読んだかと思いますが…」と清志郎さんのことを切り出した。本当は彼のために捧げる曲でもやれればよかったのだけど、何せ急なことだったので準備も何もしてなくて、「まったく、前もって言っておいてくれればいいのに」と冗談めかす梅津さん。だから今日は、以前とあるそば屋のご主人が亡くなったときに作った「IZUMOYA」という曲を代わりに演奏したいと思います、と。「清志郎くんはこまっちゃクレズマも観に来てくれたりしてたので、今日もその辺で(と会場の後ろのほうを指さす)観てくれてるかもしれないし…イヤだったら、帰っちゃってもいいんですが」。会場に笑いが起きる。梅津さんのバスクラリネットと多田さんのアルトサックスは、しんとせつなくやさしく聴く者に染み入った。清志郎さん、帰っちゃわずに聴いてたかな(笑)? もし今日私が、彼といっしょにこの会場でこの音を聴いたのだとしたら、ずいぶん身に余る光栄だったな…。

 

早川義夫さんを迎えてのコーナー。はじめて聴く彼の歌、圧巻だった。好き嫌いは別として、聴く者を巻きこまずにおかない歌の力。煎じ詰めればいっつも同じことを歌ってるようなのが可笑しくもあるんだけど、そのシンプルさにこそ普遍的な強さがあって。それと私、早川さんってピアノ弾くイメージがまったくなくて、ピアノの前に座ったこと、そしてその綺麗な音にびっくりしちゃった。こんなピアノ弾く人だったんだ!

 

こまっちゃクレズマの演奏を観て(聴いて)いて、大自然のようだな、とふと思う。すばらしい風景を見て感動するとき、私たちは「大自然」というひとまとまりに心を動かされてると思ってるけど、そこには小川があり急流があり、はたはたと揺れる幾万の若葉があり、水面に反射してきらめく光があり、さえずりながら川面を横切る鳥があり、小動物が枯れ草を踏む音が混じり、身体を包む湿った霧がある。そういった無数のちいさな事物が総出で織り成す物語に私たちは感動していて、こまっちゃクレズマの演奏もまさにそんな感じだと思った。こまっちゃクレズマ、というひとつの風景に圧倒されながらよくよく耳を凝らすと、5人のメンバーがそれぞれに独立して我の強く魅惑的なメロディやリズムを奏でていて、ひとつひとつの音にも、またその音たちが溶け合ってることにも、驚いてしまう。梅津さんの旋律を聴いていると、そこに入ってくる松井さんのヴァイオリンの音色に耳を奪われ、するとその底を弾みながら歩いていく関島さんのテューバが気になり、激しい多田さんのソロの音にハッとさせられたかと思うと、そこを突破してくる夏秋さんの強いスネアの音に振り向かされる。さらにそこにゲストのロケットマツさんのアコーディオンマンドリンが姿を見せ、早川さんのピアノの音が重なる様(さま)といったら。こんな細やかな恍惚の仕掛けが一気呵成にオーガナイズされているのが、こまっちゃクレズマの音なんだな…。

 

夏秋さんは今日はロートタムのセットで、曲名はわからないのだけれど、早川さんの歌でものすごくアグレッシヴな演奏、カッコよかったなあ。ポルタメントかけてぐおおおおんって。いつも思うことだけれど、こまっちゃクレズマでの夏秋さんのプレイは、他のどのバンドのときともちがって、もっとも意外性に満ちていてはっとする瞬間の連続。すごくエキサイティングでドキドキする。

 

そして今日はやっぱり、こんな状況の中でこんなすばらしい演奏を聞かせてくれた梅津さんと多田さんに、ありがとうって言いたいライブだった。空気が振動するそれだけのことを、人はどうして音楽なんて呼んで、笑ったり涙をあふれさせたりするんだろう?その謎はよくわからないけれど、生きてる人間は、生きてる限りなんとかロックしてロールしてかなきゃいけなくて、そしてそのための数少ない武器に、音楽というやわらかな存在がなってくれる。そのことをシンプルに力強く、教えてくれるような音だった。

 

梅津さんのサイトのトップに今、清志郎さんへの梅津さんの言葉がリンクされてます。

http://www.k3.dion.ne.jp/~u-shi/

 

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