月夜のドライブ

ラブレターバンバン書いて紙飛行機にして 宛てもなく空に飛ばすブログです。▶プロフィールの「このブログについて」をクリックで記事一覧などに飛べます。

of Montreal『Skeletal Lamping』

画像10月半ばに届いてから1週間は、ひたすら回しっぱなしの聴きまくりだったのだけど、ジャック達のシングルが出てからキモチと時間がバッと奪われてしまい(私の中で日々小規模に下克上は起こってるのだ…)、少しご無沙汰でしたof Montreal(オブ・モントリオール)。彼らの今の在りようをうまくキャプチャーできるような言葉は世界中の現存の辞書にはまったくない気もして、何か言おうとするそばから無力感にもさいなまれるのだけど、新譜『Skeletal Lamping』についてのメモを少しだけ。

 

今作も、of Montrealというバンド名義ながら実際の音はほぼすべてボーカリストでコンポーザーのKevin Barnes(ケヴィン・バーンズ)が宅録してるっぽいところはいつもと同じ。2007年1月に出た前作『Hissing Fauna, Are You The Destroyer?』の印象から、次のアルバムはもっともっとKevinが自分の内側に入り込んでいくような(「内省的」という言葉が近いけど省みるというよりは未知の部分を探索していくような)、そんな作品になるんじゃないかと、なんとなく思ってた。その予想は、半分は当たっていて、半分は外れてたな。というのは、このアルバム、出てきた音は予想していたよりずっとずっとポップだったから。視線はさらに深く内側をえぐりつつ、ポップ・アルチザンとしての才能も惜しみなく爆発させているような、そんな印象。人を酔わす装置としての仕掛けは、たぶん前作以上。

 

「装置」と言ったのは、このアルバム、なんだか音楽というよりは、照明とか舞台美術とか特殊効果とか、そういう、人の居る場所の空気や質を変容させるマシーンみたいだと思ったから。前作にその兆しはあったけど、この『Skeletal Lamping』の中ではもう、従来のポップス、ロックの考える「曲」という単位は徹底的に破壊されてる。便宜上トラックナンバーは振られているし、曲タイトルもそれぞれについているけど、プレイヤーの表示に頼らずにこのアルバムを聴いたら、曲の切れめがどこかなんてほとんど答えられない。うねり続ける打ち込みのビートに乗せて、Kevinが手品のように次々に繰り出す表現に、ただ圧倒されながら飲みこまれていく感じ。その一連の過激な作用を指して、『Skeletal Lamping』と言うのだと思う。

 

だけどね、ここがof Montrealのすさまじくすばらしいところなのだけれど、これだけ曲という概念を破壊しているにもかかわらず、それでもなお、Kevinのメロディってポップスの極上の輝きに満ちているんだよね。アルバムのつくりや音はすでに過激思想と言っていいほどだと思うけれど、それが「ふつうのリスナー」の手を離れずに、公園の芝生の上のラジカセで鳴るにふさわしいポップさも持っているのは、ひとえにKevinのメロディの普遍的な魅力によるんだと思う。「Wicked Wisdom」のエロティックなフレーズ、「St. Exquisite's Confessions」の甘い甘い“SOUL”のポーズ、「Triphallus, To Punctuate!」のスパークルする高揚感!「An Eluardian Instance」のメロディ(ちょっとフリッパーズ・ギターっぽい!)が空に描く、あまりにもせつない青春のまばゆさなんて、もう、筆舌に尽くしがたい。ほんと、いいメロディ書くんだよなあ…、Kevinって。

 

そのKevin Barnesのメロディの力っていうことを考えるとね、このあいだある人と世間話したように、「『The Gay Parade』(99)とか『Satanic Panic in the Attic』(04)とか『The Sunlandic Twins』(05)あたりの曲のよさって、もう、たまらないよね…」ってことにもなるよね。それはほんとにそう。だから余計、「曲」としての様式にカッチリはまったときのあの快感を捨ててまでKevinがどうしても向かわなくてはならない先があることに、戸惑いや寂しさにも似た感情を持つんだけどね…。凡人が芸術家を見るときって、古来こんな感じなんだろうと思う。

 

と、いろいろ書いたけど、何をおいても今のof Montrealはその精力的なライヴパフォーマンスとセットで語るべきで、アルバムの音のエレクトロな硬質感、複雑に入り組んだ迷宮のようなサウンドは、ライヴの率直な肉体性あってのものなんだろうね。このアルバムだって、Kevinの生々しくエロティックでときに聴き手をキュンとさせる声があるから、イカレたサウンドが現世の淵に引っかかっていられてるような気もするし。っていうか、ケヴィン、早く日本に来てーーーー!!!!ケヴィンの声、ケヴィンのギター、ケヴィンのハダカ、ナマで体験したい…!(いやハダカに関しては常設のパフォーマンスではないと思うけど…)。

 

『Skeletal Lamping』、米ビルボードのアルバムチャートでは、最高38位までいったみたい(インディチャートでは3位)。この圧倒的なアルバムが1位はおろかベスト10にも入らないなんてガッカリな気もするし、こんな奇異なアルバムが全米38位まで上ったのは大健闘のような気もするし。  

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このアルバム、パッケージはこんなおそろしいことになってます。正気じゃないね(笑)。もし日本盤が出るとしてもこのパッケージは採用されないと思うので、どうせなら今すぐ輸入盤買うのがいいと思うよ!

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このパッケージの組み立て方についてのビデオを、発売元レーベルのPolyvinylが作ってた!おもしろいので貼っておこ~。音は出ません。出演は、いつもの謎の男と、メンバーのJames Huggins(笑)。おお、完成形はこうなるのか!

 

How to Assemble the of Montreal Skeletal Lamping Packaging

www.youtube.com