月夜のドライブ

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ジャック達『HILAND』

画像ああ、本当にジャック達って、とんでもないバンドになっちゃったんだな…。こんなアルバム出してしまうなんて。もう既に、私なんかの手に負えるような相手じゃない。ふつうに、世界レベルのロックバンドでしょう、こんな音。アルバム聴いてて私の頭をよぎるのは、クリームとか、レッド・ツェッペリンとか、ドアーズとか、バーズとか、そんな名前。圧倒的な音楽性の高さと、破壊的な凄まじさが同居することの“奇跡”。このレベルのロックを鳴らせるバンド、世界で数えたって多くはないだろうな。嘘だと思ったら、聴いてみて。嘘じゃないってはっきりわかるから。とんでもないよ。

 

2年前、ジャック達のファーストアルバムを聴いたときに、私は、『メロウさという彼の魅力をストレートに生かしてくれるメンバーに出会ったとき一色さんの音楽は圧倒的に輝くし、ジャック達ってそんなバンドなんじゃないかな』って書いたのだけれど、その印象は、大きくは間違っていなかったと思ってる。そして、もっと言えば、もしかしたらファーストのときのジャック達はまだ、「一色進と、飛び抜けて演奏センスのいい3人のミュージシャン」、だったのかもしれないな、とも。(もちろんただのミュージシャンでは駄目で、「飛び抜けてセンスのいい」キハラさんとピートさんと夏秋さんでなければ、ジャック達にさえなれなかっただろうけれど。)

 

でも、この『HILAND』でのジャック達は、はっきりと、「一色進と、宙GGPキハラと、福島ピート幹夫と、夏秋文尚」のバンドだ。それ以外のジャック達は、ありえない。この4人じゃなければ、ここにあるこの音は、ひとつもこんなふうには鳴らないだろう。

 

キハラさんの甘やかで熾烈なギターの響き。クールネスと熱っぽさを併せ持つピートさんのベース。静けさの淵に狂おしさを湛える夏秋さんのドラム。破壊的にせつない一色さんのボーカルとギター。そしてこの4つの楽器が、はるかな場所同士で、非常識な飛距離をやりとりするあまりにスリリングな恍惚!

 

そう、この2年間のライブを観ていて、このバンドの楽器同士の距離が、互いへの信頼ゆえにどんどん離れていく(比喩的に、ね)のは感じていたのだけれど、今やその演奏のスケールは、無茶で無謀なほどだ。たとえば「オンボロ」、たとえば「キャンセル」、たとえば「乙女座ダンディライオン」、たとえば「ハイランド」…。こんな空恐ろしい演奏するバンド、ちょっとないだろう。セカンドのジャック達の音が背筋が凍るほどすさまじいのは、ひとつにはこの無茶な距離感のせいだし、それはファーストが出て以降この2年間のライブやレコーディングの現場で、彼ら4人が手に入れた果実なんだろうと思う。今のジャック達の恐ろしさ、たぶんメンバー自身がもっとも痛切に感じているんじゃないかな。

 

そして、ここのところ、ライブごとに加速度をつけて凄みを増していく演奏のありさまを観ていた私は、「このライブ演奏の熱量を、録音でどこまでつなぎとめられるのかな?」と、正直アルバムのほうを心配してたのだけれど、それは完璧に杞憂だった。というか、「つなぎとめる」という発想自体がまちがってたってわかった。ライブで聴いていた曲たち、アグレッシヴな前傾姿勢は失うことなく、演奏の深みもアイデアのキュートさも増して、まったく新しい作品としてそこで鳴っていた。

 

それにしても…、あらためて、アルバムに並ぶこの楽曲の圧倒的な質量、バラエティ、オリジナリティにため息をつく。「粒揃い」と言うので想像する「粒」のレベルを、1曲1曲がはるかに超えてる。「スーパーソニック・トースター」1曲あったら、それだけでふつうは「名盤」呼ばわりだろうと思うけど、そこに「キャンセル」もあって「乙女座ダンディライオン」もあって「ハイランド」もあって「水溜り画廊(ギャラリー)」もある。その非凡なメロディを、さらに最果てへとぶっ放す演奏のとてつもなさ。信じ難い…。

 

夏秋さんのドラムのこと。一色さんの詞のこと。書くことはいくらでもあって書き尽くせるわけもないので、またいくらでも書き続けるとして、ひとつだけ。最後の曲、「水溜り画廊(ギャラリー)」。なんど聴いてもやっぱり泣きそうで、言葉も出ない。一色さんの、この言葉遣い。夏秋さんの、このドラム。残酷さとやさしさを同時に抱きしめる音。

 

絶望を、ひとつひとつていねいに、その手で希望に変えていく。そんな、ムダに思える作業をこの4人はくり返してる。ギターとベースとドラムの音で。この歳になって、相変わらずそんな馬鹿げたことに時間を費やしてる。まだそんなことやってるの?なんて言われながら。もうそんな時代じゃないのに、なんて笑われながら。それでも、誰のためでもなく、何のためでもなく、彼らはそうしてる。これまでも、これからも。世間的にはロクなもんじゃないだろう。どう考えても馬鹿げてるだろう。

 

でも、ね。そうすることでしか手に入らない、何かがある。それを、彼らは知っている。ちっぽけだけれど、なんの役にも立たないかもしれないけれど、とてもとうとい何か。

 

それが見たくて、私はジャック達を聴いてるんだと思う。

 

HILAND』。こんなアルバムを届けてくれたことに、どんな言葉を返せばいいんだろう。

 

ただ、大好きさ。ジャック達。ありがと。

 

*『HILAND』ジャック達