月夜のドライブ

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鈴木博文『THE DOG DAYS』Disc1に思う

画像メトロトロンレコードのミュージシャンやその音楽について語るとき、私の文章はどうしても「我、人生を語る」みたいな大仰で大上段なことになってしまって、「『いつみても波瀾万丈』じゃないんだから…!」と自分で自分にツッコむことになるのだけれど、まあ、それは仕方ないかな。(今でも少し)後追い感があっていつも「遅れてきたファン」であることを自覚させられるムーンライダーズ大滝詠一山下達郎とは、そこは決定的にちがうところだから。メトロトロンは、私にとってはじめての、「はじまりからリアルタイム」の音と時間だった。とても特別な存在。

 

少し前に出た鈴木博文さんの2枚組ライブアルバム『THE DOG DAYS』。じつに全27曲というボリュームに、なかなか通しで聴けないのだけれど…、と言いながら、気付けばけっこうディスク回してる。特に、1枚めのバンド篇は、鈴木博文さんのソロ作であるとともに、メトロトロンレコードに集った若きミュージシャンたちの「バンドサウンド」の記録でもあって貴い。私のような特殊体質(メトロトロン過感症)の持ち主は、もう、ここに並んでいるミュージシャンの名前を眺めているだけで、息苦しくなるわ意識がグラグラするわ…。

 

博文さんのバックを、ひとつは「カーネーション」が、もうひとつは「ほぼグランドファーザーズ青山陽一さん除く)」が固めている音源なのだけど、それぞれがもう、泣きそうなぐらいいい。つくづく、彼らはこのころから何ひとつ変わっていないのだな…と思う。

 

87年のカーネーションの演奏の熱っぽさ。才能を持つミュージシャンが「ただの若者」(に近い存在)でいられたほんの短い季節の不穏さが閉じこめられていて、その不確かな魅力がすばらしい。博文さんの歌にところどころで絡む直枝さんのボーカル、博文さんとこれ以上相性のいい声もないよね。粗さとせつなさが襲い、胸を締めつける。矢部さんのドラムの研ぎ澄まされた音は、どこまでも矢部さんらしく、やっぱり今とひとつも変わらない。「Modern Lovers」の入りのドラムの鋭さったら!そして、私の大好きな坂東次郎さんのギター。「君が愛し続けるならば」の間奏の、しなやかで、強靭で、そして、ふと狂気を見せる音。このバンドサウンド。ファーストを出したころのカーネーション、まちがいなくひとつの奇跡だったんだな…とあらためて確信する。

 

トラック04から14までの11曲は、夏秋文尚さんのドラムと大田譲さんのベースという不動のリズム隊に、さまざまなミュージシャンが絡む演奏。西村哲也、鳥羽修、青木孝明、なんていうギタリストの名前だけで、私なんかソワソワして、いても立ってもいられなくなる。特に、89年浅草常盤座での西村、大田、棚谷、夏秋という、ほぼグランドファーザーズのライブ・メンバーによるバッキングのテイクは、その貴重さとすばらしさに目眩しそうなぐらい。これ、ナマで体験したかったな…。89年といえば、私、グラファンのライブは欠かさず出かけていたのだけれど、博文さんソロまでは追いかけきれてなかったんだろうな。今思えば惜しい…。(インナースリーヴの解説にもある、同じ「浅草六区党」ライブ、次の日のカーネーションは行ってるのだけれど。)

 

私が世界でいちばん好きかもしれないギタリスト・西村哲也さんのギター、しみじみいい音してるなあ…。自在でプログレッシヴで歪んでて気が強くてブチ切れた(ご本人はあんなにおっとりしてるんだけどね)ギター。80年代の終わり、メトロトロンにこのギターの音があったから、私はここまで音楽にハマッちゃったんだ。はっきりと西村さんのせいです(断罪)。そして「スケアクロウ・ブギ」の夏秋さんのドラムのカッコよさったら、もう熱出る…。この曲の夏秋さんの音、絶品としか言いようがない…。スネアをタン!と一発叩いただけで彼とわかるような、その存在感。20年近くも前のこんなテイクを聴くと、夏秋さんは、はじめから、夏秋さん以外の何者でもなかったんだな…と思う。迷いなく、ただ彼らしく、そこにあるその音の、孤高な響き。ふう…タメイキ。

 

それにしてもどの曲も好きなミュージシャンだらけで、どこに集中すればいいのか悩ましいほど。「夜の船」や「フーテン老人」の鳥羽修さんの重く唸るギターはあまりにも鳥羽さんすぎて笑っちゃうぐらいだし。94年のテイクの青木孝明さんの大らかで伸びやかなギターもとても青木さんらしくていい。あと、いちばん大事なとこでサウンドを支えまくってる大田譲さん、ベースはもちろんなんだけど、コーラスも聞きモノだね。以前カーネーションのライブのとき直枝さんが大田さんのコーラスのこと「ボーカリストの声に似せるのが天才的にうまい」(笑)とツッコんでたのを思い出した。たしかに、この「車輪の上で」の大田さんのコーラス、博文さんかと思うぐらいピッタンコだよね(笑)。

 

…と、もう、重度のメトロトロン馬鹿である私がこんなディスクを聴いたらこの通り、主役の博文さんのことを書く前から語ることがありすぎて終わりがない!それはまたディスク2で書こうと思うけれど…。ただ、やっぱり、バンドサウンドを従えた博文さん、好きだなーって思う。静謐な印象のスタジオ録音のアルバム群はもちろん抗えない魅力があるし、その静けさの底に誰も近づけないほどの激しさがあることもリスナーはちゃんと知っているのだけれど、バンドライブだと、内に秘めたそのパッションが、あちこちから不用意なぐらいに暴発して爽快。博文さんが奥底に凶器のように隠し持つこの激しい熱が、メトロトロンを立ち上げ、彼と思いを同じくするたくさんのすぐれ(てひねくれ)たミュージシャンを集め、稀代のバンドサウンドを生み出し、独特の熱をリスナーにまで及ぼし、そしてメトロトロンを今に至らせているのだ、と思う。

 

90年代、博文さんがもっともバンドライブをやっていた時代に音楽いっさいと離れた場所にいた私は、そういえば彼のソロのバンドライブって体験したことがない。秋にあるというメトロトロンライブ、The SUZUKIとミオフーは出るような話だったけれど、博文さんソロ・バンド篇もあればいいな…。思えば、メトロトロンの看板アーティストはまちがいなく「鈴木博文」なのだし、ね。

 

*『THE DOG DAYS鈴木博文